9.最後の大物との対面・・・いや対決
すこし遅れ遅れになってますが、すみません
「 わざとでしょ? 」
「 何のことでしょう? 」
偶然じゃなかったらこんなタイミングで会うわけないじゃん。きっと私がここに向かったのを知っていて放置したに決まっている。
「 私を待たずにさっさと退室した人に言われたくないですね 」
すました顔で横を歩くエドガーはまた私のここを読んで返事をしてくる。
「 この会話聞いてたら、あんた病気を疑われるよ。幻聴と会話しているって 」
「 私は構いませんが 」
何を言っても駄目だ。この人のことはほかっておこう。
私、これで登場人物全員に会っちゃったわけだ。姿形は小説の挿絵で見たまんまだわ。もし、あの話がアニメ化してたら、声だってあの声優さんだよねと思っていたそのまんまだったし・・・
「 それで、姫様はどうしますか? 」
「 はい? 」
よそ事を考えていてエドガーが何を言っているのか理解できなかった。私たちは登場人物たちと別れて、自室に帰る途中だ。私が迷い込んだ場所は帰り道の正反対な方向だったんだと気が付いた。場所が慣れていないし、木々が生い茂る自然あふれる教皇院の庭内はとても広い。
「 やはり、王太子との謁見を望まれますか? 」
はい?何言っているの?あんた
「 望まれません 」
ここで曖昧に「いいです」とか答えちゃうと、日本人的で誤解が生じる可能性がある。だから強めに完全否定しておく。私って本当に昔からこれで何度損したか・・・高校の時もあんなに入りたくない部活に勧誘されて、『部活に入って』って言われて『いいです』って断ったら、入ってもいいと取られて3年間やる羽目になったし。
「 そうですか? 命令ですけど、どうします? 」
「 ・・・・ 」
どうします?と言われても、民主主義国家に産まれた私だって分かるよ。王様とか格上の身分の人に言われれば断れないことぐらい。すまし顔のエドガーを睨みながら歩いて行くと、王太子が待っている豪華な貴賓室へ案内された。すると今度はエドガーはすっと私の後ろに立ち見守る様に控える。そうだよ。あなたは私の教育係なのだからいつもそうしてもらわないと。それに、何か気まずくなったら私を助けてくれるのがあなたの仕事だよ。私は彼の能力を考慮して心の中で呟いた。
「 聖女 姫。こちらへ 」
王宮では豪華絢爛の中におられるお方だけど、教皇院の清楚というかシンプルな部屋に座っていてもキャラ的な豪華さは損なわれないのだなと思ってしまう。
( うわ~ キラキラだ )
「 王国の星、カルロス王太子殿下にご挨拶いたします 」
眩しさに目を細めながら、先日習ったばかりの淑女の礼 深く沈み込む方のカーテシーをして王太子に挨拶をした。
「 姫、こちらの国には少しは慣れましたか? 」
椅子を勧められてそこに腰かけるとカルロスは笑顔で聞いてくる。彼との距離は約5m。聖女といえども平民の私が容易く近づいていい人ではない。今はそれが有難い。
「 はい。お心遣いありがとうございます 」
すごいわ。普通の設定なら異世界に来た聖女は自由奔放に振舞ったりして、王太子や主人公を嫌な気持ちにすることが多いけどそんなことやったことないから私にはできないわ。育ててくれた両親に感謝だね。
「 姫は今、どうされているのですか? 」
「 今ですか? 」
どうしていると聞かれても・・・ちょっと後ろを振り返りエドガーの顔を見る。彼が頷くので、
「 教皇院でとても良くしてもらっています。国の歴史や風習、それにマナーなども優しく(めちゃスパルタで)教えていただいています。毎日勉強です 」
「 そうか。それはよかった 」
王太子は上機嫌でどうでもいいような内容を話すから、退屈なのを顔に出さないように笑顔で楽しそうに会話に花咲かせてみせる。適当にあしらって、ラスボス攻略かと不敵な笑みを浮かべようとしていたら・・・ヤバかった。段々と背筋が冷たくなるような殺気を感じる。
( なんだなんだ? )
そしたら、また例の映像が見えた。それは、
『 お会いになるのですか? 』
眉を顰める山男が王太子に聞き返している。
『 ああ。聖女とはちゃんと話をしていないからな 』
王太子はキラキラ笑顔のままだ。
『 しかし・・・ 』
山男はチャールズ・ローヴァインといい、王太子の騎士だ。彼は明らかに聖女である私を嫌っている。
『 大丈夫だ。近づかないと誓うよ 』
キラキラ王太子がチャールズにおどけているように右手を上げて見せる。すると、彼も表情を緩めて、
『 そうしてください。殿下が近寄ればどんな女もすぐに落ちますから、厄介です 』
超短編映像だった。これは、これから起こる事じゃなくて、この部屋でちょっと前に起こったことじゃない?過去ってこと?
( それにしても、ムカつく。何が落ちるよ)
今、王太子の背後で殺気立っている男、チャールズ・ローヴァインと目が合う。恐ろしい顔で睨み付ける彼に対抗心はないけど、心の中で中指を立てて見せてやるくらいいいでしょ。
カタン
背後で物音がして振り返ると、
「 申し訳ございません 眼鏡を落としてしまって 」
あり得ないような失態をしたと王太子に謝罪し頭を下げるエドガーがいた。彼は下げた頭を上げる際に、口パクで、“ 自重しろ ”というのだった。
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