4.能力がないのが能力ですか?
夢ならいいのに
今私は、建坪約30坪の我が家一軒分と同等の広さの洋間、それも天蓋付きのキングサイズベッドの上で目覚めた。
「 あーぁ 」
レースが盛りだくさん付いたネグリジェを着ている私は、足を絹のシーツが掛けられた肌布団の中に突っ込んだまま上半身を起こして座る。
身につけているもの、手に触るもの、そして目に映るこの部屋の内装、全てが現実とかけ離れていて自分の頭で処理し切れない。
「 聖女さま、お目覚めですか? 」
私の目覚めた気配で控えていた侍女が声を掛けてきた。
「 は、はい 」
昨日から聖女と言われるたびに否定してきたけど、言われ続けるうちにもうどうでもよくなってきた。
遠慮がちに顔を見せた侍女たちは、モーニングケア用品の洗面するための水とタオルを差し出し、今日着るローブのような衣装を着させてくれる。さすがにここに来た時に着ていたフード付きシャツとジーンズにフリースジャケットのような服はここでは誰も着ていない。女子がズボンを履く習慣がこの国にはないようだ。昨日見た皇后陛下や貴族令嬢が着ていたようなドレスを着るよりはましなので、ロングワンピースだと思ってこのローブを黙って着る。
侍女にこのあと自分はどうするのか聞くと、困った顔をしながら、後ほどコルネールの父親である宰相が私を迎えに来ると言った。私は聖女という立場で、彼女たちにとっては異邦人とか宇宙人とかと同等に思っているみたいで、敬ってはくれるけど怖いみたい。
「 おはようございます。聖女様。昨夜はよくお休みになれましたか? 」
しばらくすると、侍女から教えてもらった通り宰相であるキルヒマン公爵が私の部屋に訪れた。
「 はい。まあそれなりに 」
こんな状況で眠れないんじゃないかと心配だったけど、連日の勉強疲れでめちゃくちゃ熟睡してしまった。ここ数日、こんなに眠ったのは久しぶりだ。
キルヒマン公爵は、今日の予定と今後の私の取り扱いについての説明を簡単に説明する。国王陛下を含め、いきなり現れた伝説の聖女(私のことだけど)に戸惑っていること、聖女がこの国に与える影響についての懸念や今後の私をどうするのか迷っている・・・云々を話される。
そう言われても私だってどうしたらいいかなんて分からない。私が知っている内容は、主にセレナ視点から書かれているから、聖女がどこでどうやって暮らしていたなんて分からない。それに、聖女としての能力を聞かれても、今の私は普通の人間だったし能力なんかあるわけがない。
「 そうですか・・・ 」
キルヒマン公爵はさすが親子という感じだ。表情には出ないけど、心の中で舌打ちしたのがわかった。なんだろう? 空気を読むとか人の気持ちを汲み取るとか苦手だったのに、心の声が聞こえはしないけどなぜか思っていることが滅茶苦茶よくわかる。
「 あなた様は、これからどうしたいと考えられていますか? 」
どうしたいかと言われても、どうもしたくない。
「 無難に静かに目立たないように暮らしたいと思います 」
「 それだけ? 」
「 あ、はい。もう元の世界には帰れないと、(あんたの息子から)聞いたので、この世界に少しでも馴染むように勉強させてもらいたいです 」
この世界に来ても勉強か・・・とは思ったけど、知識は最大の武器だ。そこを抑えないと応用は利かないだろう。小説の中で聖女は何かしら能力を発揮していたけど、それが何かは主人公のことじゃないから詳しく書かれてなかった。よく考えたら本当に手抜きの話だ。伏線としてそこんとこちゃんと書いてくれていれば、こんなに困ることなかったんじゃないかと思う。
「 わかりました。あなた様のお気持ちを持ち帰り、今後の対応についてお知らせいたします 」
宰相 キルヒマン公爵は、事務的に私に言うと早々に退室された。今後のことが決まるまでは、この部屋を使っていいこと。部屋以外に出かける場合は侍女を伴うようにと、私が何かやらかさない様に先に釘を刺してから帰っていった。
読んでいただきありがとうございました。