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2.これは、『悪役令嬢でも自力で幸せになります』の世界じゃないの?

 あれからの私は、ドブ臭さに耐えかねて細かいことなんか気にしている暇はなく、言われるままに見たこともない煌びやかな異国の建物(お城か?)に連れて行かれた。

16世紀の世界史教科書の挿絵や写真にでも出てきそうな西洋風の装飾の広々した部屋で、メイドコスプレの方々に服を脱がされて金色に輝く浴槽の贅沢なお風呂に入れてもらった。そしてゲームの白魔導士が着る様な服を着せられている。


( これ? ドッキリかなんか? )


 隠しカメラを探してキョロキョロしていると、今度は高級執事のようなコスプレした若い男性が現われて、これから私を国王陛下との謁見にお連れするという。


「 あの、ここはどこですか? 」


 ここにいる人は日本語が通じる外国人ばかりだ。髪の色が赤や青や黄色・紫っていろいろいるけど、今どきはヘアマニキュアはよくできていると感心する。そんなことを勝手に考えながら、私の前を歩くグリーンの髪の高級執事に質問してみた。


「 この国の名前ですか? ここはルシャーナ王国です、聖女様 」

「 ルシャーナ? 」


 聞いたことのない名前だ。これはそういう設定ってことだろうか?世界史は受験項目じゃないからしっかりやってなかったからなあ・・・そう後悔したけど、なんかどこかで聞いたような国名だと思った。


「 さあ、着きました。聖女様 」

「 あの、私 聖女じゃない・・・」


そう否定しようとしたけど、


「「 聖女様 お入りになります 」」


 大きな扉の前の両端に控えていた騎士のコスプレの2人が謁見の前触れを叫ぶ声にもみ消された。

さあお入りくださいと言われて扉が開かれた40mほど向こうにはファンタジー漫画で出てくるような玉座がある。その両サイドには多数の正装した人々が並んでいて、その間にレッドカーペット様な道ができている。


 ここを1人で歩いてあそこまで行くというのか?尻込みする私の背中をグイグイ押す高級執事さん。振り返ると笑顔の中で瞳だけが、さっさと歩いて行けと言うのがわかった。仕方がなくいやいや歩いて行くけれど、電車を乗り継ぐために鍛えた脚力は伊達じゃない。ものすごく早足で玉座までついてしまい、群衆の列が切れる辺りでその先頭にいるオジサンに滅茶苦茶睨まれるから立ち止まって、その次に目と顎で頭を下げるようにサインを出してくるからそれに従う。


「 聖女殿 頭を上げられよ 」


 礼儀とか知らないしここは日本なんだからと日本人的に腰を90度曲げてお辞儀をして待っていると、低く響く声が玉座中央からした。この声はきっと国王陛下だろうな。恐る恐る頭を上げると、中央の背の高い大きな椅子に座るシルバーヘアの中年の紳士が笑顔で私を見つめている。その横にはものすごいモリモリの頭でキラキラな皇后だろう中年だけど若作りしてます女性。また、反対側には女性によく似た金髪長髪にくっきり二重碧眼で漫画の主人公キャラ王子の男が座っていた。


「 我が国へようこそおいで下さった。聖女殿を歓迎しますぞ 」

「 ・・・・ 」


 歓迎されたくないですが・・・とは言えない。さっきの睨んでいるオジサンがまた顎で私の返事を促すから、頭を深々下げて、日本人的挨拶を返すことにした。



「 はじめまして 睦月 姫です。よろしくおねがいします 」





「 いったいどうなっているんだろう? 」


 私は大根役者でもよかった。脇役でも煌びやかな舞台に立ち拍手喝采を浴びて終焉、でよかったのに・・・

この演劇のような舞台?セット?は終わることなく今も現在進行形だ。私の出番はもう終わったのだから解散かと思ったけど、いまだに西洋風のコスプレ演劇の中にいる。


「 聖女様? どうかされましたか? 」


 メイド服の女の人に聞かれて言い返す。


「 だから、その聖女っていうのやめてください。私はひめって名前があります 」


 もう何回もこのくだりを繰り返している私はうんざりしながら、洋画かファンタジーアニメでしか見たことのない西洋風の長椅子に座っていた。あの国王陛下との謁見の後、また先ほどの広いゲストルームに解放されずにとめ置かれていた。

これからどうなってしまうのだろう? この女の人に怒っても何も解決しない。私は一つため息をついた後、彼女に質問した。


「 あの、ここって日本ですよね? 」


と・・・



「 いいえ。ここは、ルシャーナ王国です 」


 あの謁見の時に私の背中を押し出した高級執事さんが、いつの間にか現れて代わりに返事をする。


「 あ、あなたは!? 」

「 挨拶が遅れ申し訳ありません。私は宰相補佐官 コルネール・キルヒマンと申します 」


グリーンの髪を肩甲骨くらいの長さで束ねて、ブルーシルバーの服を着こなす彼は見たことのない琥珀色の瞳だ。コルネールは胸に手をあてて私に向かって頭を下げる。


 コルネール・キルヒマン・・・日本人じゃない。でも日本語を話しているけど? というか、日本語に聞こえるだけ? 私が彼をジッと見るから、彼はちょっと嫌な顔した気がする。それにしても・・・彼の名前、どこかで聞いたことがあるような・・・


 初めて聞く横文字名前だと、私の頭脳では一回聞いただけでは覚えられない。だって、高校の時に学校に来ていた臨時外国人講師のイギリス人 モージズ・ルーサー・ローダス先生の名前を覚えるのにも半年ほどかかった。こんなにすんなり頭に馴染む名前は前から知っていたとか?


「 あ! 」


 走馬灯のように鮮明な記憶の映像が頭を駆け巡った。この緑の頭、笑顔だけど目が笑っていない。頭の中がコンピューターで、サイボーグじゃないって思ったって言っていた・・・いや、書いてあった・・・のを思い出した。


「 どうされましたか? 」


 怪しげに私を見るコルネールは、口元には笑みを作っているけど目が『なんだこいつ』って言っているのが見える。


「 あ、いえ。あのコルネール様、ちょっと質問いいですか? 」

「 私のことは、コルネールと呼び捨てでよろしいかと・・・どうぞ、どんなことでもお聞きください 」


 面倒くさい人だ。こういうキャラだったよ。この人は・・・って? ん? やっぱり、この人知っているかもしれない。それで、ふと思い立ったことを聞いてみる。


「 国王陛下のお名前と王太子殿下のお名前を伺ってもいいですか? 」


 去年までは女子高生でタメ口最高!だったけど、人生転落の経験値を積んだ私はちゃんと言葉の使い方だって分かるのさ。


「 現国王陛下はルシャーナ 第13代王 アロイス・アクイラ王であらせられます。王太子殿下は カルロス・アクイラ殿下です 」


カルロス・アクイラ。玉座の左側、金髪長髪にくっきり二重碧眼の王太子の容姿を思い出す。あの光景あの場所・・・どこかで見たことがあると思った。あれは、ライトノベル小説を読むときに私がよくやる挿絵チェックで、初めに先読みじゃなくて先挿絵で見たままの光景だ。


( これって、まさか 『悪役令嬢でも自力で幸せになります』じゃないの!! )




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