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中編

   

「さあ、どうぞ」

 海亀に言われるがまま、砂浜に打ち上げられたUFOへ、青年は乗り込む。

 円盤の中は、がらんとした空間だった。ピカピカ光るパネルがたくさん壁際に並んでおり、青年は、子供の頃に見たSFドラマを思い出す。

「どう見ても宇宙船だよな、これ。『竜宮城』は宇宙にあるのかよ……」

「心配しないでください。あなたがた地球人が思っているより、宇宙は安全なところですから」

 海亀は前ヒレで器用にパネルを操作しながら、青年の呟きに言葉を返した。

 青年は周りを見回してから、不思議そうな顔で質問する。

「椅子もないみたいだが……。シートベルトで体を固定しなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫です。すぐ着きますし、揺れもありませんからね」

「でも確か、宇宙へ飛び出す際には、すごいGってやつが体にかかるって……」

「ああ、地球の古典的な科学では、その方式なのですね。でも安心してください、私たちのは違いますから。ほら、何も感じないでしょう? もうとっくに宇宙空間なのに」

「えっ!」

 青年は驚いて、再び船内に視線を走らせた。

 だが窓もモニターもないため、外の様子は全く見えない。揺れどころか加速度も感じないため、宇宙船が動いていることすら、青年にはわからなかった。

「というより、そろそろ着きますよ。……ほら、到着です!」


「歓迎の準備があるので、少しお待ちください」

 海亀は青年一人を残して、先に宇宙船の外へ出ていく。

 入り口の扉もすぐに閉じてしまったので、外の様子は青年には見えなかった。だからといって、うかつにパネルに触れると何が起こるかわからないので、とにかく大人しく待つしかなかった。

 体感時間としては十数分が経った頃、扉が開いて、再び海亀が入ってくる。

「どうぞ、こちらへ」

 案内されるがまま、宇宙船の外へ出てみると……。

 目の前に広がるのは、信じられない光景だった。

 宇宙船で来たのだから、ここは別の惑星のはず。だが、とてもそうは見えなかったのだ。

 頭上に広がるのは、濃い青色。空というより、深い海のような青さであり、まるで海の底にいるみたいな気分になる。

 前方に見えるのは、きらびやかな宮殿。その形状は、まさに青年がイメージする『竜宮城』そのものだった。

 青年を出迎える異星の者たちも、地球の魚を思わせる姿だ。それらが、まるで海中を泳ぐかのように、宙を漂っているのだった。

「ははは……。タイやヒラメが舞い踊り、ってやつか?」

 乾いた笑いが浮かぶ青年の前に、地球人そっくりの異星人が現れる。

 稚児髷(ちごわげ)のような、二つの輪っか状に束ねた特徴的なヘアースタイル。ひらひらした薄い布地の着物を纏った、絶世の美女だった。

 男性の心を蕩けさすような笑みを浮かべて、彼女は彼に告げる。

「ようこそ、おいでくださいました。私が、この件の責任者……。そうですね、乙姫とお呼びください」


 乙姫に案内されて、竜宮城へ足を踏み入れると、素晴らしい御馳走が並べられていた。

 青年にとっては、テレビや雑誌でしか見たことがないような高級料理ばかりだ。勧められるがまま口に入れると、それだけで自然に頬が緩む。生まれて初めての美味だった。

 魚や侍女たちが歓迎の踊りを披露する中、青年は料理に舌鼓を打ちながら、乙姫の酌で酒も楽しみ……。

 あっという間に数日が過ぎてしまう。ふと彼は冷静になって、彼女に質問した。

「いったい何のために、僕は竜宮城まで呼ばれたのです?」

「地球人の代表として、来ていただいたのですわ」

 にっこりと笑いながら、乙姫は説明する。

 乙姫たちの種族にとって、星間交流の(かなめ)は、相手の惑星の人々を知ること。だからその星の人間一人を招いて、その代表者を通して『星』を理解するのだという。

「そんな……。ならば無職の僕なんかじゃなく、政府のお偉いさんとか、国連の大使とか、もっと相応しい地位や身分の人がいるはず……」

「あら、それでは駄目ですわ。星の代表者は、あくまでも一般人でなければ」

 だからといって、誰でも良いというわけではない。心優しき人間であることが条件であり……。

「あなたの態度を観察させていただきました。合格です」

 ただ気ままに飲み食いしていただけなのに、何がどう合格なのか。青年は全く理解できなかったが、それよりも、もっと聞いておくべき点があった。

「合格した僕は、この後、何をすれば良いのです? 地球人の代表として、あなたがたと交流するためには……」

「あら、何も必要ありませんわ。飽きるまで好きなだけ、この星に滞在してください。ただ、それだけです」

   

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