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2.【導き手】

「何となく予想はしていたが…


男性が住むへんてこりんな形の小さな家のランプが静かに明かりを灯す。

辺りは相変わらず暗い。

次元の狭間とはどこにあって、なんで暗闇に包まれているんだろう?


そしてこの人は、なんでここに住んでいるんだろう?


「まさか、自分の世界の名前すら知らんとは…


「まだ僕、七才だし。


僕はランバート。七才になったばかりで気がついたらこの暗闇の中にいた。

その時に出会ったコンフィーネというおじいさんに声をかけられ、この小屋まで来た。

だけど、まだ何も分からないし、おじいさんが何者なのかも分からない。


おじいさんは、額を手で覆い考え込んでいるようだ。


「おじいさんはなんでこんな暗闇の中で一人で暮らしているの?


「ほっほっほ。お主と同じじゃよ。

 気がついたらここにいて、何年…何ヵ月たったか分からぬまま、この暗闇の中に小屋を建て、過ごして来たのじゃ。


「え!じゃあ、おじいさんも本当は違う所からやってきたの?


「そのとおりじゃよ。


「ということは、もしかしたら僕もこのままここに居るようになるのかな…


「そんなことはない。まだ方法はわかっとらんが、元の世界に帰った者もいるのじゃ。いつかは何とか親御さんのところへ返してやれる方法を見つけてやるさ。


「その前におじいさんが死んだらどうしたらいいの?


「…はっきり言うの。ま、老いぼれなのは間違いないが。だが、過ごしてみれば愛着もある。わしにとっては生きてきた世界よりも今の生活のほうが長いからの。安心せい。ここはわしにとっては庭みたいなもんだからな。


ー自分だって帰れてないくせに。と、思ったけど、言うのはやめた。

おじいさんは悪い人ではなさそう。今まで一人だったからなのか、嬉しそうに笑ってくれるから。

僕はそれで少しは気持ちが落ち着いてきた。


そのおかげかようやく辺りを見渡す余裕ができてきていた。


「ところで、どうして周りは暗いのに、ここだけ小屋があって灯りや食べ物があるの?


ー暗闇、無、そんな何もなさそうなところに小屋があって、さらには灯りや食料があるなんてどう考えても不自然すぎる。


「ここは次元の狭間、と言ったのを覚えているかな?この次元の狭間という空間は様々な世界につながっている。

 そんな世界と世界の間に位置するこの世界には、人だけではなく、物や動物といったあらゆるものが流れてくるのじゃ。言いたいことは分かってもらえたかな?


「流れてきた物や動物を、小屋や食べ物にしてるってこと?


「その通りじゃ。

 

「うん、まだ難しいけど何となくわかってきた。

 …ってことは、やっぱり僕も元の世界に帰れるってことでいいんだよね?


「もちろんじゃ。ただし、帰れるかもしれんが別な世界に行ってしまうかもしれん。元の世界の名前を知らんとなるとなおさら判断が難しいのじゃ。

 そして、仮に間違えて違う世界に行ってしまったとして、この場所へ戻ってこれるかどうかはわしにもわからん。


「だから、おじいさんはずっとここにいるんだね?


「いや、そうではない。そういう者達のためにわしはここにいるのじゃ。


「………。


ーおじいさん、ごめん。やっぱり全然なに言ってるかわかんないや。


「お主、この暗闇の中でもし誰も来なかったらどうしていたかね。


「多分、大声で泣き叫んでた。


ーそれは、わしに会ってもそうだったがι


コンフィーネは、そう心の中で突っ込みながら、予想していたとおりの解答に触れながら口を開いた。


「そうじゃろ。気がついた時、辺りも見えない暗闇の中で目を覚ましたら、不安にならないか?

動揺して、とにかく大声を出したり叫んでみたり誰かを探したりしてしまう…お主もそうではなかったかな?


「そう…かな…?


ー僕は、とにかく怖かったけど。


「わしも最初はそうだった。

 しかし、わしがここへ来て途方もない時間を過ごしていた頃、同じようにここへ流れ着いた者がいた。

 その時の嬉しさといったらのう…しかしそれよりも、何より自分がここにいた時間に得た経験がその者にとって、安心するきっかけとなったことが嬉しかったのじゃ。

 そして、ある日突然その者は姿を消していた。

 わしは悟った。


ー元の世界へ帰った。のだと。


 それから幾度となく、その繰り返しが続いてきた頃、気が付けば、わしにとってここは生きてきた場所になっていたのじゃ。

 無論、ここで力尽き帰れぬ者がいなかったわけではないが…

 それからというもの、わしはここへ流れ着いた者を受け入れ、そして、元の世界へ返すためのきっかけになればと留まることにしたのじゃ。

 つまり、わしの場合は帰れぬというよりは帰らなかった。そういうことにしといてくれ。


ーすぴーっ


「寝とる!?


気がついた時には僕は寝ていた。

間違いなく七才の僕には話が難しくって長かったから。コンフィーネは布団から毛布を取り、僕の体にかけてくれた。


「どれくらい時が経っているんだろうな。

 ランバート…か。急な出来事に疲れただろうに…今は寝ておけ。明日にでも返してやれれば良いが…


コンフィーネは暗闇に包み込まれるようにランプの光を静かに消した。

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