7話
後ろからはまだ何やら店員と麗羅が言い合っているのを横目に買う気はないが、ちょこちょこと売り物を覗いて手に取ってみる。
京介がたまたま手に取ったのは、招き猫のストラップ。猫のように顔はなんだか可愛くはないが、どこか憎めない顔をしている。
(………なんか妹にそっくりだな)
実家にいる歳が二つ離れている妹のことを思い出す。態度はいつも強く当たるのに、どこか憎めない。ベクトルは違うが、確かに似ている。
(あいつに送ったろ。猫好きだったろあいつ)
値札を見て、充分に買えると判断して、そのまま手に取ったその時、後ろから疲れ果てた麗羅の声と二人分の足音が聞こえた。
「た、高木さん、置いていくなんて酷いです……」
「…………いや、なんかその、あのままあそこにいると悪意のない攻撃が俺の心にダメージを与えてたから……」
京介にばっちりこうかはばつぐんである。さらに美少女が必死に抵抗するという様も含めて四倍である。
「こっちは面白いもの見せてもらったけどねー。にしし」
「おい店員」
あまり客に対する態度じゃないだろ、という意味を込めてジトっ、と目を細めて見つめる。それに気づいたのか知らないが、「おっと」とわざとらしく手を口に持っていった。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は赤井空。今年からこの近くにある長月高校に入学する、ピチピチのJKよ。よろしくね」
長月高校と聞いて、二人が反応した。
「……同い年だったのか」
「え?ほんと?」
「はい。しかも同じ高校ですね」
「え!?そうなの!?」
その目からは「へえ~よく合格したねぇ~」というのが思いっきり見えており、京介も「どういうことだこら」、と目線で返した。
長月公立高校。公立高校なのに、校則がかなり緩く、生徒の自主性を尊重している珍しい高校であり、その分人気が高い。
しかも、今まで例年倍率が4倍くらいだったのだが、今年の倍率は異例の10倍。その理由として、長月高校の文化祭で行われたミスコンで、優勝した男の人が原因となっている。
なぜミスコンなのに、男が優勝したのかは、去年行った人にしか分からない。
「それなら、同じクラスになるかもですね……琴吹麗羅です。同じクラスになったらよろしくお願いします、赤井さん」
「高木京介だ。よろしく」
「琴吹さんに高木くんね……うん、覚えた。これならよろしくね二人とも!特別に、高木くんが手に取ったそれ、サービスしたげる」
「……いいのか?」
空が京介の手の中にある猫のストラップを指さした。
「いいのいいの。今は私が店番任されてるし、それに、ちょっと琴吹さんに迷惑かけちゃったから、そのお詫び」
「驚いた。自覚があったのか」
「自覚あったんですか?」
「待って。私この短時間にこの二人にすごい悪印象与えちゃった?」
そらもうバッチリである。
「それじゃ、ここで二人の好感度あげるために半額しちゃうね」
「琴吹さんはともかく、俺の好感度あげても意味無くね?」
「そんなことないよ。人との出会いはその後どんな関係になるのか分かんないんだから……もしかしたら、私と付き合う未来だってあるかもしれないよ?」
と、あざとく唇に指を当てた赤井。ふむ、と呟いて二秒後。
「ないな」
「嘘っ!?まさかの即答!?」
「フフフ……」
と、呟いた京介。空は生まれて初めて振られた。まぁこれが彼女の中で振られるカウントに入るのかは謎だが。
「残念だったな。十分前の俺なら堕ちてた」
「それってやっぱり最初の印象のせいじゃん!?」
その後、お会計が半額から80パーセントオフになった。