20話
「………弁当?」
「は、はい!そ、その………」
こ、これです!とカバンからゴソゴソと取り出したのは、一般的なお弁当箱。何やら可愛らしい袋に入っていたものからスっ、と取り出して京介の目の前に置いた。
「…………え?」
当然、京介はそんな事態に困惑するのみである。はっきり言えば、何故麗羅がこんなことをしてくれるのかが分からない。
「もし、良かったら……食べてくれませんか……?」
「……………えっと……」
ようやく脳が自体を飲み込み、働き始めた。隣にいる空と花果が何やらこそこそと話し始めた。
京介は、麗羅の顔を見たが、うるうると少しばかり瞳を潤ませ、緊張からか顔は真っ赤である。
「……その、あ、ありがとう。頂くよ」
「! あ、ありがとうございます!」
お礼を言うのは京介なのだが、何故か麗羅がお礼を言った。
スっ、と弁当を受け取り、謎の緊張で震えている腕で蓋を開ける。
そこには、極々一般的と言える弁当があった。卵焼き、ミートボール、たこさんウィンナーなどなど、定番なおかずが並んでおり、真っ白なご飯の上には、いつも買っているおにぎりの具になっている鮭のふりかけがかかっていた。
もちろん、これにはきちんと麗羅の狙いがあるのだ。
(男の子を掴むにはまず胃袋から…きょーちゃん!お義母さまには好きな味付けとかもきちんと習ってますから!)
グッ!と机の下でガッツポーズをした麗羅。作戦は滞りなく行われている。
そして、いよいよ恋夜の作った卵焼きが今ーーーー京介の口の中に入っていった。
「…………っ!」
(勝ちました!)
京介の眉が少し反応したのを見て心の中でスタンディングオベーションをした麗羅。
(………俺の好みの味付けだ)
当然である。何せ、母直々に教えてもらった卵焼きなのだから。
「……どう、でしたか?」
「……美味い……というか、この卵焼き、俺の好きな味付けで……そしてーーーい、いやなんでもない」
「……そうでしたか、お口にあって良かったです。私の好きな味付けでしたので」
「……そっか」
(………この前のカレーもそうだったが、琴吹さんの料理は不思議だ………全部懐かしい)
ニコリと微笑んだ麗羅。そして、自身も弁当を食べ始めたのを見てから京介も次のおかずへと箸を伸ばす。
つん、つん。
「……?」
隣ーーーには花果しかいないので、花果が腕をつんつんとつついてきたので、何事かと思いながらそちらを向くとーーー何かが京介の口の中に突貫してきた。
「ムグッ!?」
一瞬脳内がパニックになり、頭が真っ白になったが、口の中に広がる卵焼きと甘い味のおかげで冷静になった。
何するんだ、という目で花果を睨みつける京介。俗に言う、『あーん』というもの(かなり強引)をされていることに気が付かなかった。
「……わ、私にもよく分からないが……何故か負けてはダメだという気持ちが……こう、浮かび上がってな……」
「………?」
スっ、と箸を京介の口から引っ張り抜き、少し頬が赤くなった花果を見る。
その後、どさくさに紛れての関節キスとあーんされたことに気づくのに時間は掛からなかった。
そんな二人を、麗羅は面白くないものを見るように少しだけ頬をふくらませ、空は修羅場だ修羅場だと、心の中でキャー!と叫びながらニヤニヤと見ていた。




