16話
「それじゃ、また明日な」
「じゃあね、高木くん、麗羅ちゃん」
「麗羅はまた明日。京介はこのあとすぐだな」
「2時間しかやんねぇからな」
この後、MMORPGのスティックヒューマンオンラインをやる予定の二人。花果は廃人ゲーマーと言っていいほどにやり込んでいるので、時間制限を設けた。
「空ちゃん、花果ちゃん。また明日ね」
と言って、京介と麗羅は同じマンションに入っていく。麗羅に何か話しかけられた京介が、顔を向け話しながらエレベーターに消えていくのを見守ってから、花果はぽつりと言った。
「………そういえば、自然に見送ったがあの二人は同じマンションに住んでいたのか」
「え?……あ、うん。そうだね。しかもお隣なんだって」
「なるほど……なかなかベタな展開だな」
「ベタ?」
「ほら、ラブコメでよくあるじゃないか。隣同士の部屋から始まる恋が」
「えー?あれってフィクションでしょ?ナイナイ」
「あ、高木さん。カレーの鍋の方は空になりましたか?」
「え?……あぁ、そういえば空になってたんだったな」
麗羅のおかげで、夜ご飯は美味しいカレーにありつけた。それと、どことなく母親とおなじ味というのも嬉しかった。
「ありがとう。琴吹さん。めっちゃ美味かった」
「はい、それなら良かったです」
と、ニコッと笑う麗羅。その笑顔に危うく心奪われそうになったが、何とか顔を逸らすことで回避する。
それに気づいた麗羅が心の中で舌打ちした。
(………むぅ、なかなか手強いですね……)
「それでは、荷物置いたら鍋を回収しに行きますね」
「あ、あぁ。分かった」
ドギマギしつつ、それぞれの部屋の前に着く。
「それでは、また後ほど」
「あぁ、また」
といい、ほぼ同時に鍵を開け、部屋の中へ姿を消して行った二人。家に戻った麗羅は、すぐさまスマホを取りだし、とある人物へ連絡をかけた。
1コール。2コールと響きガチャっ、と音が響いた。
「ーーーお久しぶりです、お義母様」
「……あらー!久しぶりね!麗羅ちゃん!」
宛先は、高木典子と表示され、何やらどこかで聞いたことのあるような苗字である。
「麗羅ちゃんが連絡……ということは!もう京介を堕としちゃったの!?」
「そう、言いたいんですが……何分、きょーちゃんのガードがなかなか固くて崩せません……」
と、ショボーンとなった麗羅。
そう、麗羅が今連絡を取っている京介の実の母である。
「あら、そうなの?10年前の麗羅ちゃんよりももっと綺麗になったから、一発KOの一目惚れだと思ったんだけど。昔みたいに」
「一応、笑顔を向けると照れてくれたりはしてくれてますので、脈はあるかと。未だに照れが8割ほどだと思いますが」
そうーーーというか、薄々態度で気づいていたと思うが、麗羅と京介は幼なじみである。
だがしかし、残念ながら京介は五歳から前の記憶を事故でなくしており、麗羅の存在自体は忘れていないものの、名前と顔は完全に忘れてしまっている。
それならそれで問題は無い。忘れているというのなら、また自分に惚れさせるまで。
「ということで、近況報告ですお義母様。次電話する時は、必ずいい報告をお告げします」
「はーい。待ってるわね、麗羅ちゃん」
つー、つー、と通話が終わる音が響き、玄関に飾ってある1つの写真に目を向ける。手を銃の形にする。
「待っててね、きょーちゃん………私なしでは生きられないようにしてあげるから」
ばーん、と幼い京介とのツーショット写真を撃ち抜くと、鍋を取りにまた家を出た。




