9話
適当に身だしなみを整えて、カバン持って玄関に向かう。
4月11日。今日は京介が通うことになる長月高校の入学式。新入生は9時までには学校の割り振られている教室に入っていなければならない。
九時からなので、比較的ゆっくり行けるのだが、昨日LI〇Eで麗羅からーーーー
麗羅『明日、一緒に行きませんか?』
と、連絡が来たため、少し早めに家を出ることになっている。京介も特に断る理由はないため、了承しておいた。
ドアを開けると、既に壁に背中を預けている状態の麗羅が見えた。
「あ、おはようございます。高木さん」
「っ、お、おはよう。琴吹さん……」
長月高校は青を基調としたブレザー型の制服で、男子はズボン、女子はスカートなのだが……。
(……やべ)
どうして、こうも似合うんだと少し見蕩れてしまい、慌てて顔を背ける京介に、少し首を傾げる麗羅。しかし、なぜ背けたかの理由に気づくと、嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、行きましょうか」
「……お、おう」
くるり、と体を動かすと、ふわりと髪が舞い、柑橘系の匂いが京介の鼻腔を刺激する。
(……ほんと、様になる)
ふぅ、と一度息を吐いてから麗羅の三歩後ろを歩く。それに気づいた麗羅が少し歩くスピードを落として隣に並んだ。
初めは、こんな綺麗な人と関わることなんてないと思っていた京介だが、何の因果か今やこうして一緒に学校へ行っている。
(ほんと、人生何が起こるか分からんな)
「……?どうしました?急に笑って」
少しクスリと笑ったことに目敏く気づいた麗羅が京介に聞いた。
「………いや、別に……まぁただ……楽しみだなって」
「……はい、そうですね。私も楽しみです」
そして、二人は笑いあった。
「……そういえば、高木さんはどうして私に対して敬語を使っているんですか?」
「…………ん?」
エレベーターに乗ると、ふとした感じで麗羅が京介に聞いた。
「私は性分なのでどうもならないですけど……高木さんは、メッセージの方ではタメ語ですよね?」
「……あぁ」
そんなの、ただ京介が美人と話すのに慣れていないだけなのだが、そんなのは本人の前で恥ずかしくて言えない。
「……いや、別に深い意味はない。………あれだ、一人暮らしで緊張してんだろ」
「それなら、私とはこれからタメ語でも大丈夫ですよ。仲良くなるにはコミュニケーションからです」
「……そ、そうか。なら遠慮なくタメ語で行くわ」
チーン、と音がなり扉が開き、踏み出すと、急に京介の右肩に重さが加わった。
「うおっ!?」
「にゃはは。おはよー、高木くん。二日ぶりー」
「…………赤井?なぜここに?」
突如とした現れた黒髪に少しばかりパニックになる京介。
「麗羅ちゃんから、もし良ければ一緒に行きませんか?って連絡が来たから。そりゃあもう私としては了承するしかないのよ。仲良くなりたいし」
パチッ!と綺麗にウインクを決めた空。京介が後ろを振り向くと、麗羅はニコリと笑った。
「昨日、もう一度あのお店にお邪魔して、仲良くなって、連絡先を交換したんです」
「そ、そうだったのか……って、それよりも大丈夫だったのか?」
もちろん、この心配は麗羅に声を掛ける男がいなかったのか?という意味である。
麗羅に対し、何故か自分でも分からないくらい過保護になるのを感じるが、それにさほど違和感を感じずに麗羅の顔を見る京介。
「はい。用事もそれだけですから、30分で家に帰りました」
「そっか…それならまぁ、良かった」
ホッ、と胸をなで下ろした京介。その様子を見て空がプクーと頬を膨らませた。
「ちょっとちょっと。二人だけの世界一作らないで、私も混ぜてー!」
と、二人の間に割り込み、何故か麗羅に抱きつきに行った空。
「わっ、そ、空さん。急に抱きつかないで下さい……」
「いいじゃんいいじゃん。減るもんじゃないし」
と、いきなりの百合百合空間が形成されてしまい、京介は無性に居ずらくなってしまった。