砂漠・二人
何処までも続く青い空と砂の地平線、照り付ける太陽は肌を焦がしじわじわと体力を奪う…。
そんな灼熱の砂漠の真ん中をシズとクーノの二人は西に向かって歩いていた。
固い地面と違って砂の大地は歩きにくく、おまけに一見平坦に見えて起伏も激しく、まだ予定の半分も進めていなかった。
暑い、のどが渇いた、休みたい、だが。目の前を歩いている女の子のシズが平気な顔をしているので、男としてクーノは弱音を吐く事は出来なかった。
「まさかこの年で砂漠を渡る事になるとは思いませんでしたね~。ク~ノく~ん疲れたなら休憩しましょうか~?」
「だ、だいじょ~ぶ」
シズはまだかなり余裕がある。ほっとけばどんどん先に進んでいきそうだ。
この旅で少しでも男として見てもらえる様に、クーノは気力を振り絞った。
何処までも続く青い空と砂の地平線、照り付ける太陽は肌を焦がしじわじわと体力を奪う…。
そんな灼熱の砂漠の真ん中をセージとイクスの二人は東に向かって歩いていた。
「…水…、水…、…水、… 水…、 …水…」
出発してからまだ二時間、そして一時間も前から、イクスは同じ言葉を繰り返していた。
「だから一気に飲むなって言ったろう。もう少し我慢しなさい」
セージがたしなめるが、イクスはフラフラだ。神様強化を受けた異界人といっても元はただの引きこもり、身体能力がいくら上がっても、元が低いので並以下が並より上になったぐらいである。しかも使い方が悪いので、すぐに体力も消費してしまう。
インドアに砂漠はきつかった。
イクスは自分のステータスを見る。自動回復していくはずのMPはまだほとんど回復していなかった。砂漠を歩くだけで減り続けるHPを回復させる事にポイントを取られているからである。
MPさえ万全なら目的地まで簡単に飛んで行く事だって出来たのに…。と、苦々しく思うが、だが、少ないMPでこのピンチを上手く切り抜けてこそのヒーローだとイクスは知恵を振り絞った。
何か少ないMPで使える魔法を探す。”クリアウォーター”…、確か水を出す魔法だったような、ゲームでは全く使える魔法では無かったが…、今なら。
呪文を唱えると周りの水分が集まって目の前に拳大の水の球が現れた。
水稲の口を開けて差し出すと水の塊はスッと中に入った。一口飲むと乾いた体にしみこむ様に消えて行った。
体に活力が戻る。
いける!!
「さぁ!!先を急ごう!!」
イクスはいきなり元気になると、セージを追い抜き歩き出した。
また喉が渇けば水を出せばいい、これで自分は砂漠では無敵になったと思った。
だが…。
気づいていなかった…。
この世界で、無から有を作り出す魔法は無いという事を…。
そしてこの魔法は周囲の水分をかき集める物…。
そして、
この乾いた砂漠で、
最も身近な水源が…、
自分自身である事に…、
彼が気付いたのは…、
日も暮れかかった頃だった…。
「ハ―――、ハ―――、…」
イクスは荒い息をし、砂漠に突っ伏していた。
「……、どうしたら半日砂漠を歩いただけでそんな姿になるんだ…?」
セージは、たった半日でミイラの様な姿になったイクスを見ながらそう言った。
夜、
昼間とは打って変わり、砂漠の夜は冷える。
シズとクーノは集めたものと持参した薪で焚火をかこっていた。
「はいどうぞ」
シズは焚火の中央で煮ていた煮物を器に盛って渡した。
「おいしい…けど、不思議な味のスープ…」
「お味噌ですよ。私の故郷の調味料」
シズの傍らで子竜のシロが同じものをパクパク食べている。
食材は全てシズが持ってきた物だ。ダンジョンの中で何か作るつもりで一式持って来ていた。
「この前アイツが持って来たんですけど…、食べそこなったわね、まったくツイてない」
軽く笑いながら話すシズは、離れて行動しているセージの事を微塵も心配していない。無事で居る事を確信しているのだろう。
クーノはこれまでシズの事について詳しく聞いたことは無い。
聞いてしまうと自分との距離がさらに遠く開いてしまうようで怖かったから…。
だから、今だけはこの少女とただ一緒にいられる時間を大事にしょうと思った。
夜、
昼間とは打って変わり、砂漠の夜は冷える。
セージとイクスは集めたものと持参した薪で焚火をかこっていた。
「いや~今夜はサソリだけかと思ったが、蛇まで捕まえられるとはラッキーだったな」
焚火の周りにはサソリやブツ切りにした蛇を串に刺して焼いていた。
こっちは”ガチキャン”だった。
「ほら、焼けたぞ。食え」
セージは串に刺した焼き立ての蛇肉を差し出した。皮をはいでぶつ切りにしているが原型は分かる。
「いや!いい!腹減ってないから…!」
あの後、セージのアイテムボックスの中にまだ在った二個目のリュックの中から水筒を渡し、イクスはあっと言う間に飲み干してしまったが…、それで何とか息を吹き返したが、何も食べていないので当然腹は減っている。
が、
一般人で、なおかつ現世でも偏食気味だったイクスにこのワイルドメニューは無理だった。
「好き嫌いは大きくなれないぞ」
セージは串に刺したサソリをむしゃむしゃ食べながら言った。
『それ!美味しいんですか?美味しいんですか?』
魔石が興味を示してやたら聞いてくる。
「ちょっとエビっぽい?かな、それよりお前も食え!肉だぞ肉!」
といって蛇肉を差し出すが、イクスはセージがこの大きめの蛇の頭をぶった切って、皮をはぎ、ぶつ切りにして焼くところを見ているので食欲がわかなかった。
だが腹は鳴る。
「しょうがないな…。おい」
『ハイな!』
すると魔石がアイテムボックスからリュックを取り出した。
ちなみにアイテムボックスの中には、入れたままほったらかしのリュックがあと二つほど入っているが魔石は黙っていた…。
何か無いかと中を探してみると、干し肉が見つかった。
それを幾つか渡すと、イクスはまたもやアッと言う間に食べてしまった。
「それは…、どうやって手に入れたんだ…?」
ようやく落ち着いたイクスが聞いてきた。女の子の声で喋る石に興味がある様だ。
『お金で手に入る物ではありません!私こそはドラゴン殺しの英雄の証!』
「殺されたのはお前だろ?あっ!そういえばお前を黙らせるために来たんだった!」
セージは本来の目的を思い出した。
『喋る事以外する事が無いからですよ。あっ、体をくれれば、動き回る分少し静かになりますよ!』
「体にこだわるなあ…、あっ、どうせ実体化するなら静みたいな小動物がいいな、……犬とか?」
『わんこ?!!』
セージと魔石が楽しく喋っている…。イクスは置いて行かれた。
思えば何かがおかしい……、この世界に来て自分が主役になれると思ったのに…。
目の前の、自分と同じくらいの少年は……。
女の子二人とパーティを組み(ディックは見えていない)。
他のパーティの女の子とも仲良くし(シズのこと)。
さらに女の子になる魔法の石まで持っている。
どんなチートかと思った。何とか主導権を取りたかった。
―――だから…。
「あのガイロウとか名乗っていた、あいつは知り合いだったのか……?」
聞いてしまっていた…。
「不詳の弟子だ」
セージは若干ムスッとしながら答えた。
「えっ!?」
イクスにとっては予想外の答えだった…。
―――弟子?何?どういう事?。
てっきり、共に修業した仲間とか、かつてのライバルとかそう言う答えを期待したのだが…、それで、遥かに強くなったライバルに対し、”俺が勝たせてやる”という図を期待したのだが……。
またも瓦解した…。
「あの……、おいくつですか?」
「95」
「えっ?!」
またも予想外だった……。
「”異界人は外見で判断するな”ってのはこの世界の常識じゃないのか?」
イクスは知らなかった…。そしてこの後の展開も。
「お前は幾つなんだ?」
イクスは答えなければならなかった。
「……17…。」
「なんで死んだんだ?」
イクスは答えなければならなかった。
「……徹夜でゲームして……、明け方出かけて……、めまいがして……、そしたら車が……。」
「………、…~~!!!」
何かの導火線に火が付いた
「ばっかも~~~~ん!!!!」
セージの怒りが爆発した!
「親からもらった命を粗末にしやがってこの親不孝者が!!大体、育ててもらっている身で恩返しもしないで死ぬとは何事か!!…!!…!――…!」
久しぶりにセージの説教が延々と続いた。




