混戦
「虚空の杖…、まったく来て早々見つけてしまうとはなぁ…。で?、お前らが今の新しい勇者御一行と言うわけかい?」
目の前の男か値踏みしながら言う。セージとディラン達が警戒を強める。
「あなたはこれを使って何をするつもりですか?」
ディランが代表して聞く。
「決まってるだろ。そいつでこの世界に風穴を開け!すべてのマナを吸い上げるのさ!結果として大地は干上がり、この世界は滅んじまうだろうが…、気にするな、滅びはいつかやってくる!」
全員が武器に手をかける!
「俺は、魔王軍攻撃指揮官ガイロウ!さぁ!戦いを始めようか!」
「グォォォォォォン!!」
ガイロウが名乗りを上げた後、オオカミ男のヴォルフが咆哮を上げた。するとホールの入り口から、大小さまざまなモンスターがぞろぞろとあふれ出して来た。そして全てのモンスター達がガイロウたちの後ろに着く。
「これで数の上で対等だろ」
「いや!そっちの方が多いから!」
セージのツッコミも空しく戦いが始る!。
「ブゥッヴホホホッ!!」
それと同時にイノシシ男のボアがセージ達に向かって突っ込んだ!
ゴォ~~~ン!!
ボアが激突した石の柱が崩れ落ちる!。
「ヘッヘッへッ!行くぜ行くぜ!」
二本の短剣を振り回し、ヴォルフが襲いかかる!
ディランが盾で受ける!ヴォルフが後ろに飛び退くが
「グォォォォォォン!!」
ヴォルフが咆哮を上げるとモンスターが左右から襲いかかった!。
ザッ!!
飛び出した傭兵戦士バークスが長剣でこの二体を切り伏せた!
今まで一言も喋らないので全然存在感が無かったが、トップパーティの前衛は強かった。
続いてディランも盾を構えたまま攻撃に転ずる。ヴォルフが再び咆哮を上げるとモンスターが連携して襲いかかる。
このヴォルフという怪物は他のモンスターを操れるらしい。だが今度はドワーフのベイルドも加わり雑魚モンスターを駆逐する。
「ちぃ!さすがに少しはやるなぁ!おい!ボア!いつまで遊んでやがる!」
ヴォルフは、向こうでクーノとレクスの二人を追い回しているボアに言った。
二人はイノシシの怪物に追い回されていた。突撃しか出来ないイノシシは逃げる者を反射的に追っかけるのだ!。
だが逃げながらレクスはこの時を待っていた。そう…、異世界デビューのこの時を!。
よく引き付けて魔法弾を放つ!そう、どんなモンスターも一撃で倒す強力な魔法弾を!
「ファイヤーアロー!!」
・ ・ ・ 。
何も起こらなかった…。
後ろのボアも思わず首をかしげていた。
「なぜ~~!?」
彼のステータスの中の、1万2千は有るMPゲージが十くらいで、赤く点滅していた。燃料切れ、エンプティである。
先程ドラゴンに魔力を吸われたからであった。
後ろでドラゴンがゲップしていた。
「ノォォォォォ~~~~!!」
そしてこの混戦の中、やはりというか、真っ先に敵の大将に飛び込んで行くのがセージであった。
ガイロウと名乗った相手は、セージより二回りは大きい大男である。しかもその姿は鋼鉄でできた人間、サイボーグの様だった。
本来なら生身のセージの体など、その巨体から繰り出される大剣の一振りで真っ二つになりそうだが、セージは互角にやり合っていた。
大剣をかいくぐり攻撃を仕掛けるセージ、だが相手は、ただ力任せに大剣を振るだけの力バカでは無い。力も技も使いこなす…。つまりは強敵だった。
互角の打ち合いは続く…、だが撃ち合いながら二人は妙な既視感にとらわれた。
二人は一旦、距離を取る。
セージは何かがおかしい事に気が付いた。この敵はおかしい…。だが何がおかしいかわからない…。
既視感の正体に気付いたのはガイロウの方だった。正面の小僧の剣を知っている。”心一刀流”…、間違いなく知っている剣だ。
「てめぇ…、何もんだ?」
「お前こそ…」
「セ~ジさ~んがんばれ~~」
二人がじりじりと距離を詰めながら問答していると、横から能天気な声が飛んできた。しっかりと安全圏に避難している。ファウナとリーゼだ。
だがその声にガイロウが反応した。
「セージ…、まさか、志藤 誠司か?」
「!?、なぜその名を知っている」
すっかり広まってしまったが、”セージ”はリーゼが勝手につけたあだ名だ。こちらの世界でセージの本名を知っているのは、前世の奥さんであるシズくらいである。
「誠司…、せいじだと…、クククク…ハハハハハ…、そうかセ~ジ!セ~ジ!だとぉ~~~!まったく、俺はツイてる!」
ガイロウが狂った様に笑い出した!セージはまだ何か分からない。
「クククク…どうした?鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、それとも出来の悪い弟子の顔など忘れちまったのかい?…。志藤先生?」
その一言でセージの中の線が繋がった。
「浪賀 凱か?」
「せいかい!!よく覚えていたなぁ!!」
キン!!
再び剣を交える二人!。
「手間のかかる子ほどよく覚えているものだ!だが、しかし!」
力押しではセージに不利だが、セージはどうしても確認する必要があった。
「なぜここにいる!?まだ死ぬ様な歳では無いだろう!それにその姿!…」
「はぁん?ああそうか、世の中あんたの様に寿命でポックリ行ける様な幸せ者ばかりじゃねぇ~~んだよ!」
セージがじりじりと押される。
「どうだい?これこそが身体強化の真髄。これは弱い奴が人並みに近づくための救済措置じゃねえ。強い奴がより強くなるためのシステム…。どうせ、てめぇは何もしてねぇんだろう?馬鹿だねぇ~~~!!」
そのまま大剣でセージを吹き飛ばした!。
「くぅ~~~!!」
セージが飛ばされていく中、その陰から飛び出していく影があった。
シズである!
後ろに飛んでセージを軽く無視してガイロウに切りかかった!
「何?!」
突然の強襲!そして、その小柄な外見からは想像出来ない重い剣!二回三回の連撃にガイロウが一瞬ひるむ。そして同門だとも気が付いた。
「てめぇ…、何もんだ?」
「静!」
吹き飛ばされながら、体を二三回ひねって威力を殺して、あっと言う間に戻ってきたセージが叫んだ。
「静…?、ハハ…、おめぇまさかあのババァかよ!!」
「失礼な、”おシズさん”と呼びなさい」
戻ってきたセージと肩を並べて構える。
「なるほどこいつはいい…。まさか俺を殺すために、神がこんな刺客を送ってくるとはなぁ」
「どういう事だ?」
「だってそうだろう?この世界には人生やり残した者が送られてくる。人生やり切った者が送られて来るって時には、必ず何か意図があるのさ。それになぁ…、俺がここに来たのはもう三十年も前だぁ!!」
「この馬鹿者がぁ!!」
戦場は混戦になってきた。逃げ惑うクーノ達、奮戦するディラン達、応援してるだけのファウナ達…。
しばらく中央で石造の様に事の次第を見ていた黒龍だが…。
「ハァッ!!!」
咆哮を上げると同時に、空中に静止していた虚空の杖が光り出した。
その光はみるみる大きくなり、セージ達を飲み込んだ。
セージは光の中に消えていった…。




