始動
オリエンスの街、今日も中央広場へと続く大通りは、行き交う多くの人々で賑わっている。
そこを一人の少女が駆けていく、周囲の視線が彼女に集まるのは偶然ではない、小柄だが人形の様に整った顔立ち、美しいサラサラの金髪、そしてとがった耳。
エルフだ。
「こっちこっち、はやく来なさい~」
そして彼女に呼ばれ、その後を付いて来ているのは黒髪・黒装束の地味目の顔の少年、手には短めの杖を持っている。魔法使いらしい。
「お~い、いったいどこへ連れて行く気なんだよ?」
この街に入ってからも、目的地も告げられずに真っすぐに歩かされ続けているので、少年はせめて行先くらいは知りたかった。
「決まっているでしょ!この街一番の冒険者クラン、”銀の鷹団”よ!」
エルフの少女は、大きく天を指差して言った。
この街で冒険者として活動するためには、まず冒険者ギルドに登録する必要がある。そして、数人の仲間を集めてパーティとして活動する。
そして銀の鷹団はメンバーが二十人ほどになる、この街でも最大規模のパーティで、この人数になるとちょっとしたギルド並みで、こういった大規模パーティは”クラン”と呼ばれていた。
ギルドから少し行った先に庭付きの大きな屋敷がある。それがこの街最大のクラン、銀の鷹団の拠点だった。
その屋敷の二階にクランリーダー・ディランの執務室が在った。
そして今、その扉が突き破らんばかりに開かれ一人の少女が飛び込んできた。
「ディランぅ~~~~~!!」
入り口からダイブして、ディランが仕事をしているデスクに滑り込む様に入ってきたのは先ほどのエルフの少女だった。
「やぁエリエル、久しぶりですね…」
デスクの上の書類を吹き飛ばしながら滑り込んで来たエリエルに、ディランは苦笑しながら言った。
「そんなこと言ってぇ~、どう?私が居ない間、寂しかった~~?」
デスクに寝そべったままエリエルはディランの胸にのの字を書きながら言った。
「ふん!相も変わらず騒がしい娘じゃのう」
先程は無視して飛び越えたが、デスクの前のソファーには屈強なドワーフが、ドッカと座って、昼間っから持参した酒を飲んでいた。
「あ~ら、ベイルドいたの?小さくて気が付かなかったわ」
エリエルはデスクに寝そべったまま首だけ動かして言った。
「居たわい、ふん!お前が一番最後じゃ」
「う、うるさいわね!真打は遅れてやってくるものなのよ!」
エルフとドワーフの仲が悪いのはこの世界でも同じようだ。
「どうせ、『新しい仲間を一人連れてくるぅ』とか、言って出て行ったくせに、誰も捕まらないから、戻るに戻れなかったんじゃろ?」
「ち、違うわよ!それに、ちゃ~んと新しい仲間も連れて来たんだから」
エリエルは先ほど入ってきた入り口を指差すと、そこには入るタイミングを逸した黒装束の少年がボーっと立っていた。
「はい!自己紹介!」
エリエルは、ピッと指を差して指示した。少年は気を取り直して、
「レクス、魔法使いだ」
少年は場の空気に飲まれない様に出来るだけ堂々と答えたつもりだったが、ベイルドはフンと一別して、
「どうせ、誰も見付からなかったから、適当に見つけた異界人を連れ来ただけじゃろ」
「ち、違うわよ!…ほら、異界人って魔力は強いから魔法使いならハズレ無いでしょ?」
思ったよりいい加減な理由だった。
「そんなことより…」
エリエルは新団員の話はそこで切り、それよりも先程から気になっている、本棚の方に目をやり、
「その子誰よ?」
テキパキと本棚の整理をしている、メイド服の少女を指差して言った。
シズである。
「彼女は、新しい団員なのですが…、屋敷の中が汚いと、朝から掃除を買って出てくれまして…。」
ディランは申し訳なさそうに言った。
「ふぅん、メイドさんじゃ無いんだ…、え?団員?私の居ない一か月間、二人っきりで屋敷に?」
屋敷には他にも団員が住んでいるし、シズはここには住んでは居ないのだが、エリエルの勝手な妄想は膨らんで、デスクの上で頭を抱え始めた。
ディラン達は慣れているのかこのエリエルの奇行をテキトーにスルーして、先程から部屋に居た神官のヒースに
「下に全員を集めてくれませんか」
一階のエントランスホールに、銀の鷹団全団員が集まっていた。新団員も数人加わり二十人以上の大所帯となっており、全員がそろうと広めのエントランスも手狭になっていた。
そして正面の階段の中二階に、リーダーのディランが立っていた。
後ろには、ベイルド達トップメンバーが控えている。皆、何かが始まることを予感していた。
「では、銀の鷹団の皆さん。他の冒険者たちに少々遅れましたが、我々もダンジョン攻略を始めたいと思います!」
ディランは高々と宣言した。




