異世界検証 2
「では次の講義に入ります」
セージ達は手を叩いた。
「この世界に来て様々な文献を読み見ましたが、すべてに共通するのはこの世界では数千年前に”神々の戦い”なるものが有ったという事です」
「でもそれってよくあるファンタジーじゃ?」
「この世界そのものがファンタジーなら、おとぎ話もありがち作り話とは限りませんよ」
「まぁ、神様には会ったからな」
セージはあの軽いノリの女神の事を思い出しながら言った。
「あの神様が何者なのかは置いといて、今より遥かに発達した文明が在った事は間違いないでしょう」
センセはまた、ピッとステータスウインドを出す。
「発達し過ぎた化学は魔法と同じ…。少なくともこの技術は古代文明の名残でしょうね。」
「名残って…?」
「つまりは、ナノ・マシンです」
再び指を鳴らすと、画像ホルダから一枚の写真を映し出す。
「これは僕の血液を顕微鏡で見たものです。そしてわかりやすく黒く塗ってあるのが、ナノマシンというわけです。」
丸い細胞の中に黒い点が幾つか移っている。
「ナノマシン…って何?」
とりあえず根本的なことが分かっていないセージが根本的な事を聞いた。
「細胞サイズの極小の機械と言えばいいでしょうか…。これがこの世界の住人すべての体の中に入っているというわけです。何千年も前から、子孫へと受け継がれ現在へと至っている…」
「つまり俺達はロボット…なのか?」
「違いますって」
セージがまた見当違いな事を言った。
「あくまで体の機能の補助的な物ですかね。おかげでこの世界の人は病気にも怪我にもめっぽう強い。おそらく数千年の間に、日常的によく使われる物が残り、あまり使われない物が徐々に退化していって現在の形になったものかと…」
「使われない物って…?」
「つまりは…、戦闘力です。」
「この世界に来た時に、一番最初に見た”身体強化しますか?”の画面覚えていますか?」
二人ともこくりと頷いたが、セージもディックもセンセさえも”NO”を選択し、身体許可を受けていない。
「実はあれはが、このステータスを最も正しい状態にする、つまりは数千年前の完全な状態にする方法だったのですよ」
再び指を鳴らすと、もう一枚の画像が映し出された。先ほどと同じ細胞写真だが黒い点の数が多い。
「こちらが身体強化を受けた異界人の血液を採らせてもらった写真です」
「黒いの多っ!」
確かに、通常より四・五倍はナノマシンが増えていた。
「これによって一体どうなるかというと…、能力の数字化です。」
「数字化?」
「そうです。身体強化を受けると、筋力や視力といった物から、果ては命まで全てを数字に変換され、モンスターを倒す事によって得られるポイントを振り分け、自由に自分の体をカスタマイズ出来るという、これが古代のオリジナルに最も近い姿です」
「…ろぼっと…じゃ無いんだよね?」
「人です。ステータスで筋力を上げれば、体内のナノマシンが体の筋肉を強化する。そして、たとえHPが1になっても、0にならない限り絶対死ぬことは無い」
「良い事ばかりみたいだけど、身体強化受けた方が良かったのかな?」
「よりけりだな、”死なない”と”死ねない”は違うからな。半端な者だと、動けなくされてどんなに痛めつけられてもHPが少しでも残ってる限り死ねない。悲惨だぜ、死にたくても死ねないのは…」
ディックが不敵な笑みを浮かべて言った。
「なるべく生存率を上げようとする神様なりの優しさ、なんでしょうけど…。ちなみに身体強化しないと、ステータスに表示されるレベルは1のまま、他の数値も個人の能力に関係無く大体皆同じ値です」
「RPGの初期値みたいなものだな」
「あくまでステータス上の数字で、適当に書き換えることも出来ます。自己申告のプロフィールみたいな物でしょうか」
「でも本当に、その、ナノ・なんとかで強くなっているのか?あまり見たこと無いんだけど」
セージは身体強化して強い異界人を知らない。
「それならいい資料がありますよ、ちょうど一週間ほど前に街で偶然見かけた物ですが」
そういうと写真を消し、今度は映像資料を投影した。
遠目から撮られた映像だったが、そこには、通りで唸っているオッサンの顔がみるみる肥大化し、さらに角が生え、最後には般若の様になってしまう衝撃映像だった。
「なにこれコワっ!」
「これは”スキル威圧”を使った映像です。普通の人なら、せいぜい顔の筋肉を固定する程度ですが、身体強化するとここまで変形します。」
「これは治るのか?」
「僕もこの後、じっくり観察したかったのですが、残念ながら、この後色々あって消息不明に…」
センセはこぶしを握り締め、心底残念そうに言った。
「ホント、何があったの?」
「さて、もし身体強化を受け、尚且つ、この力を使いこなした者がいたとして、それはオリジナルに最も近い状態。たぶん歴史の中に何度か現れる”勇者”とはこういう存在なのでしょうね」
「勇者ねえ…」
はたして、それで勇者になれるのだろうか…、セージはこの前会った 黒い一団の事を思い出しながらそう思った。




