逃走
崩れた塔のてっぺんにセージは降り立った。
鐘は、かろうじてぶら下がっていたが、辺りは半分瓦礫の山だった。
セージは周囲を確認する。ここに来るまでに建物の屋根を二つほど蹴り飛ばしてきたが、それほど時間が経っているわけではない。まだ狙撃手はその辺にいるはずだった。
瓦礫の間に刺さっていた刀を引き抜くと、近くに空の薬莢を見つけた。間違い無く、ここに暗殺者がいたはずだったが、人の気配は無かった。
セージは塔のてっぺんから飛び降りるとまっすぐ下に落下し、着地すると同時に武装を解いた。
そこに白いドラグギアのシズと、杖にまたがったファウナとその後ろにしがみ付ているリーゼが空を飛んできた。
「犯人は?いたか?」
ファウナが 開口一番聞いてくるが、セージはまだ周囲を確認している。
「いや…だが…」
セージは開いたままの塔の扉を見ながら言った。
「はぁはぁ…」
男は走っていた…。
予想外だった…。まさかあそこで反撃されるとは思ってもみなかった。
スコープを覗いていたら、突然ミサイルの様なものが飛んできて吹き飛ばされた。
幸か不幸か、飛ばされた先が階段だったためにそのまま螺旋階段を下まで転げ落ち、慌ててドアから飛び出し、ここまで駆けてきたのだ。
彼も異界人だ。神様から銃関係のスキルをもらい、この世界での生活を満喫する事にした身だ。
最初の獲物は、ギルドから手配書も出ている正真正銘の悪党だった。
塔の上から狙撃し、見事一発で仕留めた。だが、意気揚々と獲物の所へ行くと、死体は消えていた。別の冒険者が持ち去ったようだった。
――数日後、その冒険者は町のどこかで死体になっていた。
やはり遠くから狙撃していたのでは仕留めてから回収まで時間がかかるという事だ。
これからは、ここで人知れず平和を守ろう。迷惑な泥棒、迷惑なチンピラ、迷惑な酔っ払い、迷惑な夜道で女の子とイチャつく奴…
――ガッツ!!
突然、足に何かが絡まり、地面を跳ねるように派手にズッコケた。
地面を二・三回転がるとようやく止まった。
何かがコロンと落ちる。よく見ると、それは矢だった。どうやら飛んできた矢に足を取られた様だ。
”危ない”と思った。もう少しタイミングがずれていたなら、どちらかの足に刺さっていたかもしれない…。
――いったい誰が?…そんな不安を冷や汗と一緒にぬぐうと、周囲を確認しようとして立ち上がり、辺りを見回そうとして…。
そして再び冷や汗をかく…。
そこには左手に弓を持った”黒フード”が立っていた。




