少年の物語
それはもう一人の異世界転生者の物語
少年もまた、異界人だった。
不慮の事故で死亡した彼は神様の計らいでこの世界に転生したのだった。
まず目覚めた彼は、目の前に現れた”身体強化しますか?”のウィンドに迷わず”YES"を選び、神の加護を受けると、軽い足取りでこの街までやってきた。
そして、偶然にも路地裏でチンピラに絡まれている少女を見つけた彼は、普段持ち合わせていない正義感を発揮し、颯爽と仲裁に入った。
軽く挑発すると、チンピラのリーダーらしき男はすぐに殴り掛かってきた。予想通りだ。
だが、身体強化された彼の目には、今まさに殴り掛かろうとするこのチンピラの動きはまるでスローモーションの様だった。
『何だ遅い、軽くかわして足でも掛けてやろうか……』
などと考えつつ、次の行動を模索していた瞬間!
ゴッツ!
突然、後頭部に激痛が走った。バランスを崩し倒れそうになりながら、それでも何が起こったのかと後ろを確認しようと、正面の男から目を離した瞬間、男の拳が彼の顎に決まった。
「ぐぼげ~~~!!」激痛に彼は地面に転がった。そこに残りのチンピラも加わって少年をボコり始めた、硬い靴底が顔に、胴体に、全身にめり込む。
「ごぼ!げほっ!」
たとえ神様チートで視力、筋力、体力、などを底上げして貰っても、彼は所詮、平和の国”日本”で今まで喧嘩はおろか親にすらぶたれたことのない人生を歩んできたのである。
―――戦いは素人であった―――
それに比べこのチンピラ達は、対異界人戦のプロであった。彼らは、主な異界人が。神様から身体強化を受けている事も知っていた。
だが、実戦は素人で、目に見える物には反応出来ても、見えない所……後ろからの攻撃には全く無防備という事も、だから、少女に絡むチンピラというエサで路地裏におびき出し、殴りかかったふりをして注意を引き付け、あらかじめ後ろに隠れていたもう一人がこん棒で殴るという筋書きである。彼らはこの方法で幾人もの異界人を狩ってきた。
そして、すでに戦意を失いボコボコにされた少年は引きずられるようにこの広場まで連れてこられた。
—―話は戻る。
注文を済ませるとチンピラ達の前に例の会計のウィンドが現れた。リーダーの男はこのボロボロの少年の指を強引に引きずり出すと、画面に当てがる、会計が終わりこの酒代が少年の所持金から引かれた。
この世界のいわゆる電子マネーは、ポケットから奪われる事は無いが、こうゆう使い方もある。
この少年は、これからチンピラ達の財布になるのである。
「まったく今日はついてるぜ」
チンピラ達は早々に捕まえたカモに歓喜し、少年は腫れた顔から鼻水か涙か分からない物を垂らしていた。
セージは、『保っても置けないか』と、残ったコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がろうとした時……、
「お待ちなさい」
よく通る少女の声が広場に響いた……。