夢と現実
街の中央広場で”オッサン”と”メッキ男”の対決が始まる
街の中央広場、人々が遠巻きに見守る中、バキッ、バキィと言う誰かが殴られる音が響いていた…。
"スキル威圧”によって顔が般若の様になったサイトは大地にひっくり返り、その上に馬乗りになったメッキ男に顔面を殴り続けられているのである。
「この世界に来た者ならば、誰もが一度は思う事がある。”自分こそがこの世界の主人公なのだ”と、…だが、脇役は所詮何処へ行っても脇役。脇役が主役になる世界など無く、逆に主役は何処にいても自ら光り輝く者なのだよ」
遠くでメガネが決め顔で呟く。
馬乗りになったメッキ男にひたすら顔面を殴り続けられているサイトは、両腕を大の字に放り出し、すっかり戦意を失っていた……。
二人に明確な力の差は無かった。
ただ……、二人の命運を分けたのは、”どちらが先に手を出したか”だった。その最初の一撃で、片方は戦意喪失し、片方は戦意高揚してしまったのだ。
今やサンドバックと化したサイトは、スキル”威圧”によって三倍に肥大化した般若の顔が、さらに倍に腫れあがり”赤だるま”の様になっていたが、メッキ男は、初めて人を一方的に蹂躙する快感に酔いしれ中々やめてくれない。
メッキコーティングされた顔は相変わらず爽やかなイケメンのままだったが中身はさぞかし醜くゆがんでいる事だろう。
余りの惨状にシズは前に出ようとするが、ファウナはシズの袖を掴んで静止する。
『面倒事はごめんだ。せっかく余計なお世話でしゃしゃり出たオッサンの意を組んで、このまま知らん顔で帰ってしまおう』
「今お前が出て行っては、格好つけて出て行ってあそこで殴られているオッサンの立場が無くなる。ここはあのオッサンの顔を立て、通りすがりの一般人を装い退散しよう」
オトナなファウナは、ちゃんと本音と建て前を使い分けて言ったが、神様チートで頑丈になったオッサンの体力もそろそろ限界だった。
パンパンに腫れ上がった顔に、メッキ男は容赦なく拳を入れ続けた。もう何の抵抗も反抗もしていないのにやめてくれなかった……。
殴られながらサイトは思った。
――こんなはずじゃ無かった――と、
来る日も来る日も、家と会社の往復、休日は酒を飲みながらゲームをするだけの日々。だからこの世界に来たときに思った、――此処こそは自分の世界だ――と、だが現実は、何も出来ずに殴られている。主役どころかただのモブだった。
目から涙があふれて来た。ここから解放されたらもう目立つことはせず、地味に生きていこう。だからもう開放してほしかった。もしくは誰か助けてほしかった。
「おやめなさい!」
よく通る声が広場に響いた。遠巻きに見ていた野次馬達が一斉に声の方に視線を移す。
誰にも等しく太陽光が当たる中央広場、だがそこだけスポットライトを浴びた様に一層明るく、その舞台の中央にシズは立っていた。
「おやめなさい、無抵抗な者を一方的にいたぶるなど、男のする事ですか?」
静かに、それでいて迫力のある声に、メッキ男はオッサンを殴る手を止め立ち上がった。
「すまない、この世界にはまだ来たばかりでねぇ……、お仕置きのつもりが、どうやら強すぎてしまったようだ」
限りなく、彼の中では紳士的にそう答える。だが、頭・金メッキ男が何を言ってもギャグである。
「それよりどうだい?俺のパーティに入れば君たちはもっと強くなれるぜ?」
「強さは間に合っています。あなたはただ自分の力を誇示したいだけでしょう?」
「君のために行ってるんだぜ……」
そう言いながら、メッキ男は特殊スキルでシズのステータスを覗き見る。そこに映し出されたシズのレベルはたった1だった。さっきのオッサンの方が断然高い。
「まぁ、強くなれば誰しもその力を誇示したくなるのは分かります。誠司もそうでした」
「へ~、あのセージがねぇ」
堅物のセージしか知らないファウナはちょっと意外な顔をした。
メッキ男は、褒められたと思ったのか若干嬉しそうに見える。
「でも、あなたは違いますね、そう……」
シズは少し考えて言葉を選ぶと、
「まるで、親に買って貰ったおもちゃを自慢する子供のよう……」
「???」
メッキ男には例えが難しかったようだ。
「つまりだな、”もらい物の力で何イキがってんだよバ~カ?”と、言ってるのだよ」
意味分からないメッキ男の為に、ファウナが分かりやすく説明した。
「なにおぅぅ!!!」
メッキ男が、怒りのまま腰の刀を抜きかけた時!シズは一瞬にして間合いを詰めると、目にも止まらぬ速さで一閃!
次の瞬間、メッキ男は凄い音と共に空中にはじけ飛んでいた!
「ほげげげげげ!!」
シズは流れる動作で刀を鞘にしまうと、メッキ男は受け身も取れずに広場のごみ箱に突っ込んだ。
「おおおおおお!!!」
周囲から歓声が上がった。




