冒険者の街へ
ようやく街にたどり着いた三人
翌日、宿場町から半日ほど歩いた所に、彼女たちの目的地オリエンスの街があった。
周囲を巨大な石の城壁に囲まれたまるで要塞の様なこの大都市は、この辺りでは最大級の独立自治都市なのだそうだ。
セージ達は、まるで城の城門の様な大きなゲートを抜け、そこから中央通りを抜けた大きな広場に来ていた。
「すごいな……」
まず、第一声がそれであった、そこは昨日の街とは比較にならないくらい人で賑わっていた。中央に丸い噴水を望む円形の広場の周りにはいくつもの屋台が並び人やエルフやドワーフなど様々な人種で賑わっていた、
そこはまるでおとぎ話の世界の様だった。
「明日は開門祭だからな、今日はその前夜祭みたいなものだ。観光もいるだろうがほとんどはあのダンジョンをを目指すために集まった冒険者達だ」
と、ファウナは街のどこからも見える、街の中央にそびえる巨大な塔を指さしながら言った。
「セージさんと同じ異界人の人もたくさんいますよ」
「わかるのか?」
「簡単だ」
ファウナがそう言うと、リーゼは広場の一角を指さし
「え……とですねぇ、まず、だいたい黒い恰好をしています。他には無駄に派手な鎧を着た人とか、あと武器はですね、ほら、セージさんと同じ”刀”か、あと大きな剣ですかねぇ」
確かに、広場のあちこちにやたら黒い恰好をした人がちらほらいる。黒いコートや黒いジャケット、先がつんつんに尖がった派手な鎧を着た者もいる、顔が素朴な日本人系なのでたぶんあれがそうなのだろう。武器も大剣か刀のどちらかだった。
「あれがそうなのか?」
「そうです。なんで黒い恰好が好きなのかわかりませんけどねぇ。その点、セージさんは派手ですねぇ」
「起きたら着ていたんだ、ワシの趣味ではないよ」
セージは自分の着ている朱色の羽織を見ながら言った。
その後、セージはファウナ達から冒険者ギルドでのパーティ登録を進められたが、まだ冒険者になるか決めかねていたセージは、とりあえず明日行われるというギルドの大きなイベント”開門祭”に参加してからと、二人を納得させ、二人がギルドで参加申請を行っている間、一人広場で待つことにした。
しばらく広場を歩くと”Café&bar”という看板を見つけた。広場にテーブルを並べカウンターで飲み物を注文するオープンカフェのようだ。
セージはカウンターで店主らしき人物にコーヒーを注文すると、目の前にコーヒーの値段の書かれたメッセージウィンドが現れた。少し驚いたが事前にリーゼに教わっていた通りに”YES”にそーっと指を当てるとウィンドが消え注文が受理された。これでセージがこの世界に来るときに神様から持たされた幾らかのお金からコーヒーの代金がひかれたらしい。
適当なテーブル席に腰かけてしばらくするとコーヒーが運ばれてきた。セージはそれを口に運ぼうとして、一瞬昨日のことを思い出し、そなえてあった砂糖とミルクを全部入れてから一口飲んだ、やさしい甘さと程よい苦みが口の中に広がる。
「旨いな、これ」
別にコーヒー通ではないが、それは今まで飲んだどのコーヒーよりそれはおいしく感じた。
気持ちが落ち着く、大きく息を吐き空を見上げた、昨日からあわただしく今はゆっくり考える時間が欲しかった。
不本意な形で人生をやり直す羽目になってしまった…思い出すのはあの世の入り口で待っていてくれたかつての妻の姿だった。
「待っていてくれるかな」
セージはじっと自分の右手を見る。それは間違いなく自分の右手だ。
生前、もう半世紀以上前だ。大きな戦争に参加した時セージは爆弾で右腕を吹き飛ばされ、それ以降片腕で生きてきた。
左腕のみで生活できるように、剣の道も我流ではあるが左腕一本で極める所まで行った。だが所詮は我流、正式に”真一刀無限流”を継承することは出来ずに若くして師範となり、下の者を育てて行く事になった。
―――それに悔いはない―――、
おそらく今のセージは16歳、少なくともあと50年以上は生きるだろう、もう1度剣の道を究める事が出来るだろうか……。
―――一人で?いつかは再婚する?―――
あの世の入口で待っている婆さんの手に刀が握られた。
「だめだ殺される!。あの世でもう一回殺される……」
セージが頭を抱えたその時、騒がしい声が近づいていて来た。
「おい!まずは酒を人数分だ!それと食い物も持ってこい!」
見るからにガラの悪い連中がセージの後ろ向かい席に座っていた。数は5~6人、やたらと上機嫌で、思い思いの席に座った。恐る恐る出てきた店主が、遠慮がちに
「あの~当店は前金制なのですが…」
「なあに心配はいらねえ金ならここに有る」
と、リーダーらしき男はテーブルの下から何かを 引きずり出した…。
―――それはボロボロの姿の少年だった。―――