宿屋にて
時間は再び戻ります
夕方、ようやく森を抜けた誠司・ファウナ・リーゼの3人は近くの町の酒場にいた。
小さい町だが、こういった宿と酒場を兼ねた店は数多く点在し、今日はどの店も旅人で賑わっていた。その中の一軒に入ったのだが、にぎやかに酒を酌み交わす客の中……、
――誠司は1人テーブルに突っ伏して落ち込んでいた――。
「おいどーした?転生した異界人はもっと喜ぶもんだぞ」
誠司は顔だけファウナの方を向き
「うるさい、ワシは生き返る気なんて無かったんだ。それをあの自称女神…」
「まあまあ、生き返ったものはしょうがないじゃ無いですか。イジケテ無いで前向きに人生を楽しみましょうよ。他の異界人の人はみんな、『ひゃっほ――ここが俺の世界だ――!』みたいな感じで大喜びだっていうのに」
リーゼがにこやかに言った
「さっきから、その、異界人ってのは何だ?」
「お前と同じ、こことは違う異世界から来た者達の事だ。私達はまとめてそう呼ぶ」
「では、ワシの外にも異世界から来た者がいるのか?」
「ああ結構いる。明日向かう街にも結構いるはずだぞ」
「おお、セージさんちょっと前向きになってきましたね」
誠司と言い辛いのか、いつの間にか名前を”セージ”に略されていた。
「では、セージが少し前向きになった所で、まずはこれだ」
ファウナはテーブルの上にゴトンと手のひら位の赤い水晶の様な物を置いた。
「見覚えが有るだろう」
それは、昼間にセージが一刀両断したメタル大イノシシが、やがて光の粒子の様になって消え去り、後に残った赤い石だった。
「これは魔石と言う」
「魔石?」
また知らない単語が出てきたのでセージは聞き返した。
「そうだ、魔力が結晶化した物で、魔獣のコアでもある。」
「え…っと」
「つまり魔獣はこの石を中心に造られたものであり、倒すと再び元の魔石に戻るというわけです」
今一つ理解していなささそうなセージにリーゼが補足する。
「この世界の人たちは皆いくらかの魔力を持っていてこの石に魔力を込めると色々な事が出来るんです。例えば、ほら、天井の明かり!。」
リーゼは天井を指さした。日も落ちあたりは暗くなっているはずなのに店の中は明るい。天井には幾つかの電灯の様な物がぶら下がり光を放っていた。
「あれが?」
「そうだ、簡単なスペルコードと少しの魔力で光り続ける。誰でも使える魔法だ」
「つまり魔石は生活に必要な物なのですが、魔獣を倒さなければ手に入らない」
「人々の平和を生活を守るため、日々魔獣と戦う正義の戦士それが私たち冒険者なのです。」
リーゼは大げさに両手を広げて締めくくった。セージは少し考えて、
「つまりワシにその冒険者になれと」
「そうです。今ならかわいい仲間が2人も付いてきますよ」
「一つ、分からない事が有る……。」
「なんでしょう。」
セージは兼ねてより気になっていた事を聞いた。
「お前達、ワシがあの場所に現れる事を初めから知っていた様に思えるのだが…?」
「ああその事か。このリーゼは神学校をクビになったが力は一番だったのでな。神様と交信できるのだ。」
今、サラリと気になることを言ったような気がするが、あえてスルーし大事な所を聞いた。
「神様と交信って…」
そういえばこの世界に飛ばされる前に、チャラい神様に会っていた様な気がするセージだったが、それは置いといて、
「あー信じていませんねー。いいでしょう証拠を見せましょう。」
そう言うとリーゼは指で空中を2回タップした。するとそこにセージがこの世界に来た時にも表れたあのウィンドウ画面が現れた。
「なっ何だ?!」
「ステータスウィンドだ。この世界の人間ならば誰でも使える。」
「そ、そうなのか?。」
「セージさんには後で使い方を教えてあげますので、今はここを見てください。」
セージは恐る恐る、リーゼが出したウィンドをのぞいてみた。そこには神様と思しき人物との会話が文章で残っていた。
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㋷ やっほー神様げんきー?
神 元気だよー
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それはまるでLINEの様な軽い文面だった・・・
「なんだこれは?」
「神様との交信ですよ。一見簡単なように見えますが誰にでも行える事では無いのですよ。」
「へ、へ―…」
気の抜けた返事をしながらもセージにはこの軽いノリの神様に心当たりがあった。
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㋷ ねぇねぇ神様、神様、誰でもいいから強い異界人送ってよ―
神 丁度、打って付けなのがその内行くよ―
㋷ どんなのどんなの?
神 剣の達人!95歳!
㋷ ジジイじゃん"(-""-)"
神 大丈夫、若返らせるから。何歳くらいにしようか?渋めで35歳?
㋷ ぴちぴちの16歳でよろしく
神 おっけー!(^^)!
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セージはすべてを理解した……。
「どうです、ご理解できましたか?」
「ああ…よーく分かった」
セージはリーゼに、側頭部両こめかみに両拳を当て、通称”ウメボシ”もしくは”グリグリ攻撃”と呼ばれる技の体制をとると
「すべてお前の仕業かー!」
「いたいいたいいたい!」
力いっぱいグリグリした。
そうしている間に、テーブルに料理と木のジョッキに入った酒らしい飲み物が運ばれて来た。
「これは酒か?」
「エール酒だが、どうした?味覚も若返ってお子様にはジュースの方が良かったかな?」
ファウナがニンマリと笑いながら言う、ムッとしてセージはジョッキを持ち上げると酒を一気に飲んで、むせた…
「げほっなんだこれ苦い、まずい」
「ぷっ、やっぱり味覚もお子様になってるじゃないか」
「何を言うワシが若いときは、こんな酒の1杯や2杯……」
もっとも医者に止められてからは20年ほど飲んでいなかったが、そう言いながらセージは空が回っていく感覚に落ちいった、いや目も回っている、
――バタン!
そのままひっくり返るように倒れた。
「ありゃりゃ寝てますね」
リーゼがのぞき込みながら頬を突っ突いてみるが起きる様子はなかった。
「さてどうしたものか……」
まだセージのパーティへの加入を終えていないファウナは少し考えていると。
「あたしに任せてください」
リーゼはニコニコしながら、眠ったセージをのぞき込みながら言った。