ダンジョンの夜
パーティそれぞれのダンジョンの夜
ダンジョン内にも夜は来る。
ゆっくりと天井の明かりが暗くなっていき外と同じく夜になった。
三パーティは湖の近くで野営することにした。
「?」
湖の畔を歩いていたセージは何かの気配に茂みの中を見た。そこには……
「おらぁ!もっと穴閉めろや!」
「もっと!舌使えや!」
ビキニアーマーのマッチョな奴隷二人を連れていた異界人が、奴隷二人に前と後ろからぐっちょんぐっちょんと……お楽しみだった。
「なぁ、あれ……」
――助けなくていいのか?――
リーゼにそう聞こうとするが、リーゼはセージの肩に手を置き、
「セージさん」
――性癖は人それぞれですよ――
「面倒だからほっときましょう♪」
……本音の方が口に出ていた。
食事の後、クーノは一人素振りをしていた。
今日も何も出来なかった、今はじっとしてはいられなかった。
彼は少し前まで冒険に憧れるただの少年だった。ある日一大決心をし、村に立ち寄ったディラン達にくっ付いて村を出たのである。焦るつもりは無かった、ゆっくりと経験を積んで強くなっていこうと思っていた……だが、
村を出て二日目、一行は森の中、オオカミ型モンスターに襲われた。
初めての戦闘でクーノは恐れ、怯え、オオカミに組み付かれもう駄目だと思った時!
…突然オオカミは光の粒子になって消えていた。そこには長い黒髪をなびかせ一人の少女が立っていた。
「あの~、ここは何処でしょうか?」
その少女はキョトンとした顔をして余りにも場違いにそこにいた。
クーノは先ほどオオカミを倒したのがその少女なのか疑ったが、二体のオオカミが同時に後ろから襲い掛かった次の瞬間、
少女は刀を抜き去った一瞬、閃光がきらめきオオカミが光の粒子になっていた。
あの時から、少年はシズに憧れていた。いつか共に戦い方を並べられる存在になりたいと思った。
だが現実は、突然現れた同い年の少年にすべてを持っていかれてしまった。だから焦っていた、強くなりたかった。
「精が出ますね」
突然声を掛けられて振り向くと、何時からいたのかシズがそこに立っていた。
「あ…ああ、少しでもみんなに追いつきたいからね」
クーノはごまかすように言った。
しばらく素振りをしていると、それを見ていたシズが何やらもじもじしているのが気になった。
「な…何?」
「え…と、いいですか?」
「は、はい」
クーノはちょっとドキドキしながら聞いた。
「その素振りでは、一万回振っても上達しませんよ!」
どうやらシズの教育魂に火をつけた様だった。
「まず、肩の力を抜きまっすぐ体の中心に剣先で相手の顎をとらえるように構える!」
「は、はい!」
彼女もまた何十人もの門下生を育てた道場の師範、指示は的確だった。そのまま素振りをさせる。
「まだ硬いですね」
後ろに回ったシズは、後ろから両腕を添えて形を修正しにかかった。小柄と言ってもクーノは男の子、必然的にシズは体を密着させなければならず、彼女のリーゼほどは無いが平均よりもかなり有るソレが彼の背中に押し付けられた。
「!!!!」
思春期の男子にはかなり強烈な刺激に、彼の体がこわばる。
「どうしたんですか?また肩に力が入ってますよ。ほら、右手は添える様に、振り下ろした時、手首を振り絞る感じで」
彼女は真面目に教えてくれているのだ、それに答えねば。と思いつつも、背中から伝わる柔らかい感触にひたすら耐える少年だった。
同じ頃、少し離れた草原にあの魔法使いの異界人が野営していた。
草原の真ん中の目立つ場所だがちゃんと周りに魔物よけの結界を張ってガードしていた。弱い魔物ならば寄せ付けないだろう。
焚火を見ながら彼は考えていた。
……昼間は失敗したなぁ、魔力の練り方が悪かったんだな、もっと練習しないと……。
この場所を選んだのにも理由がある。ここなら多少大きな魔法をぶっ放しても迷惑にならないだろうと思ったからだ。
彼は立ち上がると右手のひらに力を込め魔力を練り始めた。異界人は例外なく大きめの魔力を持たされている、少し練習すればどんな魔法も使えるようになれた。
やがて彼の手に大きめの魔力の球が出来上がる。
彼はそれをまっすぐ飛べと念じてみた。光の球は手のひらからまっすぐ飛んで草原の向こうに消えた。それを数回繰り返す。
やがて、魔力消費による心地よい疲労感から、眠くなってきた彼は、残りは明日にと、そのまま眠りについた。
深夜、草原に飛来する大きな影があった。翼をもった小型の竜”ワイバーン”だ。
モンスターは、強い魔力に反応する。たとえ結界を張っても、あれだけ強い魔力を放ち、魔法弾を打てば、さすがに気付くのであった。
草原の真ん中に降り立ったワイバーンは、目の前で無防備に寝こけている異界人を口の先で突っ突いてみた。
彼は夢を見ていた。ゼリービーンズの様な色とりどりのスライム達に囲まれて、ぷにぷにされる夢だ。
「ふにゃふにゃ」
寝ぼけてワイバーンのくちばしをナデナデしてみた。
硬質で艶のあるワイバーンのくちばしはとても触り心地が良かった。
ガブ!!
ワイバーンはそのまま彼の胴体に噛みついた。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
激痛と共に目を覚ますと、彼はワイバーンに銜えられたまま吊り上げられていた。
ブチン!
引き千切られ地面に転げ落ちる。腹が半分ほど無くなっていたが神様に強化された体はそう簡単には死ねなかった。
「ふ……ふご?」
何が起こったかわからず、胴体を半分ほど失い、ひたすら激痛に耐える事しかできない彼は、逃げる事すら出来なかった。
ワイバーンはこの間抜けなご馳走をゆっくりと味わうのであった。




