回想
コロシアムの戦いは続く、シズは不思議な夢を見る
「おお~っと!これは凄い!片腕一本でモンスターを次々と倒す、少年剣士の登場だ~!その姿はまるで鬼神の様だ~!」
司会者が興奮気味にまくしたてる。それほどセージの戦いは鬼気迫っていた。闘技場を駆け抜けながら周りのモンスターを次々と切り倒す。
すでに右手の存在を忘れていた。だが問題は無い、半世紀以上かけて磨き上げた左手剣には絶対の自信があった。
再びドラゴンと対峙する。今度は隠す事なく2本の尻尾の連撃が襲ってくる。刀で弾くものの防戦一方になる、攻防が続く…。
キーン、キーン、
おぼろげな意識の中、静は懐かしい音を聞いたような気がした。
……あれはいつだっただろうか…?、
道場の中庭で静と誠司は今日も打ち合いをしていた。道場の一人娘として生まれた静は、早くに母を亡くし、それからは自分が道場を継ぐのだと剣の腕を磨き続けた。男になど負けない自信はあった。
だが最近は思う、男に比べ身長も体格もどんどん追い越されていく、自分が女なのだと……。
そして何より許せないのは目の前にいる誠司だった。初めて会った時には簡単に叩き伏せたのだが、それからは何度も挑んでくるようになり、気が付いたら道場に入門していた。それからは基本を学びめきめき上達して1年ほどで静と肩を並べるほど強くなっていた。嫉妬していた、自分が男ならと…。
それ以上に腹立出しいのは…
静は誠司の一瞬の隙を突きご苦闘を弾き飛ばした。
なぜかいつも勝ててしまうところだった。
「どうしていつも肝心な所で気を抜くのですか?!」
とっくに自分より強いはずなのに…、ややイライラしながら静は言った。誠司はバツが悪そうに木刀を拾いながら、何かぼそぼそと言った。
「何ですか?!聞こえませんよ!」
「……なんだよ…」
「聞こえません!」
「お前が奇麗だから…、その、時々見惚れるんだよ!」
誠司は、顔を赤くしながらそれだけ言った。
ボッツ
静は耳まで真っ赤になっていた…。その時彼女は初めて自分が女だと自覚したのだった…。
―突然世界が変わる―
気が付くと静は、緑の丘の上で椅子に座っていた。目の前には丸いテーブルを挟んで女性が座っていた。その顔は忘れもしない、あの女神だ。
「さっ、冷めないうちにどうぞ」
にこにこと紅茶を差し出す。
「私は死んだのですか?」
紅茶を一口、口に付けると静はまずそれを聞いた。女神はにんまりと笑うと
「おや?気になりますか?人生に未練は無い様な事を言ってたくせに」
「あの人の事がほっとけ無いだけです」
シズは頬を膨らませながら、そっぽを向いた。
「そうですよねぇ、心配で死後5年間も守護霊やってたくらいですから…」
「わ~~!何で知っているんですか!」
「神様ですから」
ひとしきりからかった後、女神はコホンと口調を戻し、
「ご心配なく、あなたは死んではいません。今あなたの体は、シーリス神の巫女が回復させています。そう!慈愛に満ちた大地の女神シーリス神の力を借りて!」
それは私!と、手を広げて大げさに言ってみた。
「どうしてあの人をあの世界に呼んだのですか…?」
静はもう一つの質問をした。シーリスは少し真面目な顔をして
「確かに、かわいい奥さんに沢山の子宝に恵まれ、人としてとても幸せな人生だったでしょうね。でも、彼の剣士としての人生ははどうだったのでしょうか…?」
「どういう意味ですか?」
「深い意味はありません、ただ、この世界でならあの人のもう一つの望みが叶うかもしれないという事です」
「そんな事!」
「あら、そろそろ時間の様ですね」
立ち上がろうとした静の足元が突然消え、そのまま下に落ちて行った。
「ちょっと~!」
―大丈夫、あなたが一緒なら彼は道を踏み外しませんよ―




