死闘
戦いは続きます
戦闘は混戦化してきた、セージは焦っていた。
右腕が思うように動かせない、意識していないとすぐに左手一本に頼りそうになる、半世紀以上そうだったのだから仕方ないが、普通の人が無意識で扱えるものが意識しなければ使えないのは相当の負担だった。
「はぁはぁ…」
「大丈夫?息上がってるわよ」
静がまた後ろからすっと現れて注意する。
「うるさい、大丈夫だ!」
「何よ、意地っ張り!」
またケンカになりかけた時、
「な、何だありゃ!?」
冒険者の一人が悲鳴にも似た声を上げた。
ズゥゥン…、ズゥゥン…、
門の奥から地響きと共に現れたのは巨大な赤いドラゴンだった。
「バカなこんなSクラスのモンスターがゲート近くまで出てくるなんて!」
「あんなの勝てるわけねぇ!」
普通ならダンジョンの最深部にしか居ない筈のモンスターの出現に、ベテランの冒険者達ですら怯む中。
「なんだ、ただの赤竜か」
一人だけそんな事を考えながら前に出てくる者がいる。派手目の鎧を着て肩には巨大な剣を担いでいる、銀髪の青年だった。
「仕方ねえな、まぁ大物食いが俺のプレイスタイルだし」
彼にとってドラゴンなどゲームの中で何度も倒した敵だった。『やれやれこんなザコに大げさだぜぇ』得意顔でドラゴンに挑もうとする彼の足が…、
突然止まった。
足が重く暑い、……恐る恐る下を見てみる。
虫…?。
初めは玉虫色の大きな虫が足にしがみついて居る様に見えた、だが違った。それは子供ほどの小型モンスター”ゴブリン”だった。
足にしがみついたゴブリンが彼の足に短剣を突き刺していたのだ。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴と共に大剣を振り回しゴブリンを払おうとする。が、刃の部分だけで身の丈以上ある大剣では、足にへばり付いた小型のモンスターを払うのには不向きだった。大振りの剣をすり抜け2体目のゴブリンが彼の足にしがみ付き、短剣を刺す。
「ごぎゃゃゃゃ!!」
更に剣を振り回すが当たらない。3体目のゴブリンは鋭い爪で彼の体をよじ登り鎧の隙間から短剣を刺しこんだ。
「ぐへぇぇぇ!!」
絶望的な状況の中、周りに助けを求めようとするが、誰も助けに来てはくれなかった。
……いや!、厳密には滅茶苦茶に振り回す大剣が危なくて近づく事が出来なかったのだ。
さらに数体のゴブリンが襲いかかる神様にもらった鎧をはぎ取られ、鋭い歯で噛み付き魔力を吸い取り始めた。彼の動きがどんどん遅くなる。最後に神様にもらった”イケメン”もぐちゃぐちゃにされ彼は絶命した。
突然、ゴブリンたちが光りだした。魔力を限界値以上まで吸収したため進化が始まったのである。胴体にいた3体と足元の3体が融合する。”ゴブリン兵士”から一回り大きな”ゴブリン戦士”に進化した。
「やれやれ仕方ないな」
ゴブリンの前に出たのは、今度は黒髪・黒いコート・さらに長い刀を腰に差した少年だった。幸いゾンビゲームのやりすぎでグロい死体には慣れていた…。
「行くぜ」
腰の刀に手をやり、カッコよく居合切りのポーズを決めゴブリンに向かって勢いよく刀を引き抜いた!
・・・・・。
ゴブリンは軽く避けた。代わりに、
ボタボタボタ!
鞘を握っていた筈の彼の左指が根こそぎ落ちた。どうやら刀を引き抜くときに一緒に切った様だ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
左手を抑え、のた打ち回る。ゴブリンはゆっくりと近付き少年に向けショートソードを振り上げる。
ザッ!
飛んだのはゴブリンの首の方だった。セージが割って入ると続けて2体目も一刀のもとに切り伏せた。
「早く逃げろ!」
「ぶひぁぁぁぁぁ!」
別に怒ったつもりは無かったのだが、セージに怒鳴られた少年はあらぬ方向に駆け出した。
「おい!そっちに行くな!」
止めようとするが遅かった、少年が駆け出した先にいたのはあの赤竜だった。ゴォ!!ドラゴンの口から炎の塊が噴き出し、少年は一瞬で消し炭になった。
「何やってるのよ…」
静が後ろから現れる。
「何でもないよ!」
ぶっきらぼうに言うとセージは刀を構え直し、ドラゴンに向かっていった。
「しょうがないわねぇ」
静もその後に続く、正面から赤い火山の様なドラゴンが迫る。口が開きマグマの様な炎を吐き出す、二人はそれを左右に同時によけ両足に切りかかる!
息の合ったコンビネーションで攻撃を加えるが太いドラゴンの足はそう簡単には切り崩せない、
「硬いな」
「ちょっと、無茶しないでよ」
文句を言いながらも静はしっかりとセージの後ろについて来ていた。
「とにかく!あれ、殺るぞ!」
「分かってるわよ!」
ドラゴンが迫る!腕も頭もゴツゴツして岩の様にデカいが、その分動きは遅かった。
―大した事は無い―
セージに油断があった訳ではない。だが鋭く動くそれは静の位置からしか見えなかった。
「誠司!」
気が付いた時には静はセージの前に出ていた。
ガッツ!
静の華奢な体が弾き飛ばされる!それはドラゴンの巨体には不釣り合いな、二本の鞭の様にしなる細い尻尾だった。静はそのまま闘技場の壁に叩きつけられた!
「静ッ!!」
セージが駆け寄る!静は動かなかった…。
「お…おい、静…」
何が起こったか思考が追い付かず。静を抱き起そうとすると。
「待って、うかつに動かさないでください!」
珍しく強い口調でセージを制止するとリーゼが駆け寄って来た。
「治療します。大丈夫、この程度の怪我ならすぐに治せます」
リーゼは魔石の付いた杖の先をかざし、スペルを唱え始める。
「私も手伝います!」
遅れて駆け付けたヒースも同様に回復スペルを唱え始める。
「安心しろ。二人に任せておけば間違いは無い」
ファウナがセージにそう伝えるが、動揺が収まるにつれセージには別の感情が沸いてきた。
怒り。
それはドラゴンに対して…?違う…!うかつな自分に対してどうしようもない怒りがこみ上げていた。
だがそうしている間に二体の小型モンスターが襲い掛かる!
ザァッ!モンスターは一瞬で切り捨てられた。
「リーゼ、静を頼む」
静かにそう言ったセージの刀は、左手に握られていた。




