コロシアム
バトルスタートです
この世界にはダンジョンと呼ばれる物が各地に点在している。
これは古代文明が造った物で、その最深部には”コア”と呼ばれる物が在り、魔獣はここで造られているのだという。
そして魔獣を倒せば魔石が手に入り冒険者達はそれを求めてダンジョンに潜る。
もちろん規模の大きいダンジョンが1日や2日で攻略出来るものでは無く、何年、何十年と掛かり、やがてダンジョンの周りにはそういった冒険者を相手にする武器屋や防具屋が現れ、さらには宿屋や魔石のバイヤーなども集まりやがて一つの町へと発展していったのである。
このオリエンスの街もそういったダンジョン都市の一つで、このあたりの地域では最大級の規模を誇っていた。
セージは眠い目をこすりながらファウナのそんな説明を聞いていた。
「なんだ人がせっかく説明しているのに」
セージは昨夜一晩中逃げまくり一睡もしていなかった。
「うふふふ、昨夜はお楽しみでしたものね」
「全部お前のせいだ!」
「えっ?、昨日も!?一晩中!!?あうあうあう!」
ファウナ顔を真っ赤にしてあたふたした。
「いや違うから。変な誤解すんな!」
――「で、俺たちの目的はそのダンジョンに入って”コア”とやらを壊せばいいのか?」
変な方向へそれた話をセージは何とか軌道修正しようと話を切り替えた。
「え…ああ…いやいや、こほん。コアを破壊してしまってはこの先魔石も得られなくなる」
「つまりですね、ダンジョンのコアはそのままに魔獣だけを倒して魔石を得る。これが冒険者のお仕事なのです」
「まるで炭鉱夫だな…」
今セージ達はこの街の中央に聳えるダンジョンの入り口にいる、だがその入り口は巨大な鋼鉄製の扉で固く閉ざされていた。
おそらくこの扉が開くから”開門祭”なのだろう、周囲には同じく扉が開くのを待っているであろう冒険者達が3~40人はいるだろうか。
だが一番の疑問はこのゲートの前はなぜか、コロッセオの様な巨大円形闘技場になっていて、周囲を囲む客席は溢れんばかりの観客で埋め尽くされ、周囲には声援が飛び交っていた。
「つまりだな、魔獣を狩りすぎても困るのでダンジョンに入れる期間を制限しているんだ。この街は1年の半分、半年間と決まっている」
「それに、冒険者が入れない期間、魔獣たちも魔力を得るために他の魔獣を襲ったりして魔石を吸収、より強い魔獣になっていたりしますから」
「つまりは養殖か」
「神様も、このイベントに合わせて異界人を落とすからな、周りを見てみろ」
セージが周囲を見渡すと、確かに黒い恰好をした連中があちこちにいた。いや!ファウナとリーゼの周りにも結構な数の異界人とおぼしき連中が集まっていた。
皆それぞれ二人をチラ見しながら、「金髪巨乳……、魔女っ娘ロリ…」「このイベント中に…」「ハアハア…」……容姿だけならトップクラスの二人であるが、周りの誰も彼女らに声を掛けるでもなく、妄想だけで満足しているようだった…。
「異界人の人たちは人見知りが多いですからねぇ」
リーゼがこっそり耳打ちしながら、ファウナの肩をそっと押すと、
「だから、最初にこんな美少女二人もゲットしたセージさんは人生勝ち組なんですよ」
セージの背中に、丁度ファウナを挟み込むような形で抱き付くと、そう言った。「くるしい」とファウナは文句を言ったがリーゼは、周りから、「くそー」「うらやましー」とか「ま、まだチャンスはあるー…」とか言う異界人の反応を楽しんでいる様だった。
だが、その中で刺さるような視線を感じ、セージは振り返った。
「何よ」
ぶすっとした表情でそこにいたのは静だった。昨日会った三人の冒険者もそこにいた。リーダーの青年がこちらに気づき軽く手を振る。だがセージは静の格好に少し違和感を覚えた。
「おや、おシズちゃんニーソックスとはエロい」
リーゼが目ざとく見つけた。言われてみれば確かに、昨日セージが言った事を気にしてか、今日は素足ではなく黒のニーハイソックスを着用していた。
だが、世の中には”絶対領域”なる物が有り、スカートとニーソックスの間に限りないエロスを感じるというものである。現に静の周りにもいる異界人たちはちらちらと太ももを覗き見ていた。だが静は気に留める様子もなくセージにべーと舌を出した。
「あいつめ子供みたいなマネを…」
「まあ、精神の年齢は肉体の年齢に引っ張られるからなぁ、お前もいつの間にか一人称が”ワシ”から”俺”に変わっているだろう」
「いわれてみれば」意識はしていなかったが、確かに若返った静と再会してから急速に精神が若い頃に戻った気がしていた。
「皆様ー!お待たせしましたー!」
良く通る声が会場内に響き渡った。見上げると、巨大なゲートの脇のステージから司会者らしき男が現れ、客席から歓声が上がる。
「さあ!いよいよ今年もこの時がやって参りました!」
「一体何が始まるんだ?」
「開門祭、ダンジョンの入り口が開くイベントだ」
「それはわかるが、じゃあ周りの観客は何だ?」
円形闘技場を埋め尽くす観客がただ、冒険者を見送るためだけに集まったとは思えないセージはファウナに聞き返した。
「つまりな、冒険者がいない間もコアは魔獣を作り続けているわけだ。共食いしたりもするが半年間で魔獣は増え続けやがて…」
「冒険者達よ!準備は良いか!求める物は富か?栄光か?それとも思い半ばでダンジョンの土となるか!さあ運命の扉が開くぞ!」
その言葉と共に巨大な鋼鉄の扉が音を立てて開き始める。徐々に暗いダンジョンの中が見えてくる。
ッツ!、セージは扉の向こうから何か禍々しい気配を感じ身構えた。
「ほう、判るかやはりお前はアタリのようだな」
ファウナがクスリとそう言った直後、扉が開き終えた。会場が一瞬静まり返る。
ゴゴゴゴゴ…、辺りに地の底から湧き上がる様な地響きが鳴り始め、地獄の窯を開けた様にゲートから這い出してきたのは異形の魔物モンスターだった。
「いくぞ~!」冒険者たちは一斉に魔獣に向かって駆け出した。獣型や人型に近い物まで大小合わせると百は下らないモンスターと冒険者達のバトルが始まった。客席から歓声が上がる。
「つまり、開門と同時に増えたモンスターが外に溢れだすのだ。これの掃除が冒険者の最初の仕事というわけだ」
「一般の人達にとっては冒険者と魔獣のバトルが見られる数少ない娯楽というわけです」
「なるほど」セージは観客の意味を理解した。
「これは新人冒険者の最初の試練だ。この戦いに生き残れない様では、この世界で生き抜くことは難しいと思うのだな」
「それよりもセージさん、彼女さん守ってあげなくていいんですか?」
リーゼがいたずらっぽく言うが、
「その心配はないよ」
と、セージはそっけなく答えた。
そのころ、静の方もパーティのリーダー”ディラン”から同じような説明を受けていた。
彼のパーティはこの街のギルドの登録しているパーティの中でも最大級の10名を超える大規模パーティであるが、今ここに居るのは後ろに控えている僧侶の”ヒース”一人であった。3人目の駆け出し風の少年”クーノ”は二人がこの街に帰る途中で仲間に入れた、正真正銘の”駆け出し”だった。
「まあ、お二人は初めてですので、現場の空気を感じるだけでいいのであまり無理をしないでください」
金髪の好青年はにこやかに言った。
「大丈夫です!静さんは俺の後ろに下がって…」
クーノはやや緊張しながら、そう言うが、静は腰の刀に手をやると。
「私のことはご心配なく。これもリハビリですので」
一呼吸置き…、居合いの体制をとると、一気に駆け出した!。
迷いなく一気に駆け抜け、数体のモンスター群に飛び込むと、まず先頭の狼頭のコボルト型モンスターの脇をすり抜けた瞬間、いつの間にか抜いた刀をすっと鞘に戻す、途端にコボルトが切り裂かれて地面に転がった。
だがその後ろから全高2メートルを超える一つ目のサイクロプス型のモンスターが、こん棒を振り上げ襲ってきた。静は振り下ろされたこん棒をクルリと身を翻しながら紙一重でよけるとその勢いのまま刀を切り上げる!
こん棒を持った腕が宙を飛ぶ、さらに2撃目で胴体を切り裂いた!
オオオオオオ!!客席から歓声が上がり、司会者も興奮気味に声を上げる。
「おおっと、いきなり凄い新人が現れたぁ!細い刀でバッサバッサと魔獣を切るのは、見目麗しい美少女剣士だぁ、その姿はまるで風に舞う花の様だ!」
ファウナやディラン達もさすがに呆気にとられる中、セージだけが「なっ、強いだろ」と落ち着いていた。
「じゃあこっちもリハビリと行きますか」
セージは刀をしっかりと両手で構えると、モンスターに向かって駆け出した。
「はぁ!」近くに居た中型モンスターに狙いを定め、一気に間合いを詰めると勢いよく刀を振り下ろした!
ザッツ!
モンスターは肩口から大きく切り裂かれ、倒れたがセージは右手に力が入り過ぎたのかバランスを崩してよろけてしまった。
ヒュン!
それを狙ったのか右側面から矢が飛んでくる、セージは咄嗟に刀を左手で持ち替えると矢を切り払った!そのまま矢を放った小型のゴブリンタイプのモンスターに接近すると切り伏せた。
『ふぅ…」一息入れるが後ろから
「ほら!誠司、右手忘れてるわよ」
静がすれ違いざまに忠告すると、またどこかに行ってしまった。
「分かってる!」
セージは再び刀を両手で構え直すと次の獲物に向かっていった。
静かにそれを見つめている者がいた。
黒髪に黒い日本風の甲冑、そして黒い刀を持った少年だ。
『やれやれ、徹夜でゲームをしていて気づいたらこんな異世界、カンストしたレベルは1になっちまったが装備は最強のままなんて俺ってチ~ト~♪さぁ~てここで俺の異世界チート侍伝説始めちゃう?』
少年は刀を抜くと、正面に見える鎧を着た騎士型のモンスターに向かって突進した!
「とおお!」気合と共に鉞の様に担いだ刀を全力で振り下ろす!当たればホームランのフルスィングだ!
ガッツ!!
ものすごい音と共に、大振りの刀はあっさり避けられ、刀は勢いのい止まらぬまま石畳の地面に深々と刺さった。
「あれ?ちょっと…」
必死に抜こうとするが根本まで刺さった刀はそう簡単には抜けない、
少年はなおも刀を抜こうと奮戦する。……鎧騎士は静かに剣を構えた…。
「え?ちょっと…」
刀を捨てて逃げだせば助かったかもしれないが、『これさえ抜ければ勝てる!』と言う考えが彼の手を刀から離さなかった。静かに剣は振り下ろされた。
ザクッ、
地面にボールの様な物が転がり、彼の短い異世界ライフは幕を閉じた。




