新しい日常
かくして1年半が経過した。
朝は早く起きるのが日課だ。
当初は父さんの剣の稽古だった。剣の稽古の間は剣士クラスになる。
ただ、父さん相手だと余裕になってしまい、たまに父さんの相手もするものの、半年前からはほぼ自習の時間となっている。
朝食を終えると、農民になり、畑の世話だ。
とはいえ、まだ子供だ。夜遅くまで働くわけではない。農家って、忙しいときは忙しいけど、暇な時はほんと暇だな。
昼食を含めせいぜい2時まで畑の世話をすると、後は子供の遊び時間だ。
といっても、剣士に就職したマイナと共に剣の稽古だ。
マイナの父、シブは中々の剣士だった。
lv12といえば、今まで見た人間の中では最も高い。たまに町から出張してくる騎士でもlv6や7やそこらだ。
先程も話した通り、正直、父の相手は最初こそ良かったものの、半年で五分五分になり、この1年で楽勝と言えるようになってしまったため、面白くないのか、父は朝おきてこなくなってしまった。そのため朝はほぼ準備運動や様々な実験、魔法の練習を行う場になっている。
剣の本格的な訓練はシブ相手となる。事実上の師匠と言ったところだろうか。
驚いたことに、たった1年半で剣士はlv4まで上がった。
いや、もっと驚いてるのはシブだろう。
農民には惜しい…と常々言っている。
夜に家に帰ると、夕飯の手伝いをして、読み書きのあとは、魔術の理論を母さんから教えて貰う。はなから、使えるとは思っていないのだろう。まあ農民だと思ってるからな…
最近では魔法を練習したり、剣士に応用できないかなどの
現在のレベルは
剣士4
商人3
魔術師3
農民2
職人2
そして、転職代理人4である。
この1年半で様々な実験をして分かったことの1つは、他のクラスに転職した際に、スキルは使用不可になるが、クラスで得たボーナスはそのまま引き継がれるということだった。
つまり、農民の2によって筋力(RPG風にstrと言おうか)にボーナスがあり、同じ剣士lv4よりも強くなるということである。
従って、剣士を中心になるべく様々なクラスを満遍なく上げていき、総合力を上げていくことを主な方針とした。
なぜ剣士かというと、なんたって剣士はカッコいいのと、教わる相手がいるということが大きい。
もちろんテクニックや駆け引きはまだまだな部分もあるが、様々なクラスによる補正で、単に剣士4なだけの父を圧倒するに至っている。
スキルがそのまま使えるようであれば、アニメの骨の魔道王様のように様々なスキルを使ってみたかったが、そうもいかないようだ。残念なことである。
もう一つ、これは少し残念なことだが、転生ものでありがちな魔王並みの魔力量とか、幸運値のチートとか、最強の盾とか、そういうものは無さそうなことだ。なんなら、体に鞘が埋め込まれていて、サーヴァントの召喚、みたいなことも無さそうだ。
とはいえ、サブクラスがあることと、それが前世の職業である転職代理人であることは果てしなく大きい恩恵であるといえよう。
そう、サブクラスでいえば、村人全員の職業を見たが、持っている人はマイナだけだ。他には唯一、王都からきた聖女様とやらが、司祭の他に、奴隷というあまり見たくないクラスを持っていた。神の奴隷ということだろうか、中々に恐ろしいことだ。。。まあやはりかなりレアなのだろう。
残念なことに、マイナのサブクラスは、無職になっていた。サブクラスが無職というのはカオスな状況だが、普通に考えて、サブクラスなど認知されていないし、その設定など方法として存在しないのだろう。
とはいえ、剣士としてはそこそこなようで、すでにレベル3まで上がっている。試しにうちの父さんと戦わせたら、五分五分であった。もちろん父さんが悔しがって、今日は調子が悪い、昨日食べたキノコに当たったんだ!と主張していたことは言うまでもない。
サブクラスを魔術師にしてあげたら、魔法剣士という超かっこいいクラスになるのだろうが、しゃくなのでというのもあるが、まだサブクラスについてなど公にすることはやめておく。
そして、最後に一つ、レベルを簡単に上げるのは難しい。やはり実戦経験が必要だろう。
古参兵の一部は相当な強さで、英雄級と呼ばれるものもいるらしい。
当初父さんを、次にシブを相手にした模擬戦を行い続けているのは効率としては比較的良いといえるが、それではどうしても足りない。なので、朝の時間を活用して、森に入り、獣を相手にしている。
簡単な鳥や、鹿などを狩って帰る度に、父母は大喜びで、食卓も豊かになる。そういえば、農民クラスのおかげで我が家の財政も多少は改善されている模様だ。今年は収穫物を一緒に町に売りにいく約束をしたので秋が楽しみである。
そう、森といえば、奥に踏み入れるとヤバそうなので、まだ浅いところまでしか入っていないが、一度踏み込みすぎて、サイズタイガーと呼ばれる、いわゆる虎より強いやつに出くわしたのはヤバかった。
普段、移動中は体力の消耗が抑えられる商人で、獣を見つけたら、魔術師に変わり、土魔術で足止めをし、動きが鈍ったところを剣士に変わって倒す、という戦術をとっている。
普通、獣は人間を恐れる。簡単には近寄ってはこない。故に、十分距離が取れているときの戦法だ。しかし、サイズタイガーは向こうの方が早く察知し、しかも向こうから襲ってきた。
直前に魔術師がlv3になり、2メートルほどだが、瞬間移動できる、モメンタリーブリンクを取得していなければ、腕の一本くらい持っていかれていただろう。運が悪ければ即死だったかも知れない。
土魔術の効きも悪く、ブリンクを連打したことで、気を失いそうになりながらも、悪戦苦闘し、傷だらけでなんとかサイズタイガーを倒すことができた。
父母は中々息子が帰ってこないので心配していたところに、血塗れで息子が帰ってきて仰天した。
猪を仕留めようとして失敗したと話したが、こってり絞られ、しばらくは森に入るのを禁止されてしまった。まだ、腕の傷痕が残っている。
しかし、剣士のレベルがそのタイミングで4に上がったのは偶然ではあるまい。
いわゆる経験値を稼いだと言うやつだが、かなり危なかった。こんなことを繰り返したら命がいくつあっても足りない。
奥に踏み込みすぎないように最新の注意を払いつつ、森での狩りは継続し、更に半年が経過した。