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21:無知は悲劇か喜劇か エリシア ①

エリシアラストです。

一応これで物語自体は完結です。

レイラ編は後で書きますのでご安心ください。

あと本編完結しましたので事前に話していた通り、感想を解放しようと思います。あまり荒れるようだとまた閉じざるを得ませんが(-_-;)


 ラルフが亡くなってからは嵐のような忙しさでした。三男とは言え貴族が亡くなったのです。そんな簡単に葬儀をあげれば終わりというわけにはいきませんでした。


 各方面に葬儀の連絡やお礼品の手配、使用人へ葬儀の準備の指示にスフィールド公爵家への報告。極めつけは遺言がないために遺産の分配まで手続きしなければなりませんでした。


 こういう時に余計な口を出そうとしてくる親族というものは必ずいるもので、アレックス義兄様が次期当主として、遺産は全て子供達へと引き継がれその管理を私がすることを明言してくれなかたら未だに揉めていたかもしれません。


 私個人としてはラルフの最後の様子が気になってしまって純粋に悲しむことが出来ませんでしたが、それでも問題なく葬儀を終えることが出来ました。感情を隠すことが得意になったのは教育の成果でしょう。思えば随分貴族らしくなったように思います。


 ラルフへの愛情はもちろんありますし悲しいのですが、ラルフが何をしたのか次第では何とも言えなくなるかもしれません。それぐらいあの時の様子はおかしかったです。落ち着き次第調べてみようと思いながらも忙しい日々を過ごしていました。


 というのもどうやら貴族間で何やら動きがあるようで、スフィールド公爵家は私に関わっている場合ではなくなってしまったのです。火竜に挑んだことが問題視されているという話ですが、それだけではないでしょう。


 結局手続き等が全てが落ち着くには一月近くかかってしまっていました。






「奥様申し訳ございません。ご指示をお伺いしたいことが」


 あれから暇を見つけてはラルフの書斎などを調べてみたけれど何も出て来ませんでした。時間をかけてじっくり調べたいのだけれど、父親を亡くした子供達は情緒不安定になり、最近は常に側にいないといけなくなりました。特に交流もない関係ではあったのですがそれでもダメージは負うですね。


 そうした日々を過ごしていたある日の夜、家令が申し訳なさそうな顔をしながらやってきたのです。


「何かあったのですか?」


「ラルフ様の従者の部屋を片付けようと思うのですが、身内から荷物の引き取りを拒否されまして……」


 ラルフの従者ですか……確か元々は男爵家の出だったと思うのですが、身内からは厄介者扱いされているようです。それならば荷物の処理をこちらでするしかありませんね。ラルフの従者という立場の関係で使用人だけで処理するのも難しいでしょう。


「分かりました。子供たちが寝てから行きます」


「申し訳ございません」


 家令は深々と礼をした後部屋を出ていきました。子供たちは眠そうに眼をこすっています。


「ほら、もう寝ましょうか。ベッドに行きますよ」


 侍女のマリーとエリーに手伝ってもらいながら子供たちを寝かしつけてから家令の下へと向かいます。家令は従者の部屋に先に行っているようです。


「待たせましたね。荷物はこれだけですか?」


「はい、奥様。よろしければ全て処分しようとは思いますが」


「一応荷物を全部確認はしたのですか?」


「奥様の許可が無くては内容は見ない方が良いかと思ってまだです。ラルフ様の従者でしたので」


 良い判断だと思います。従者である以上主の秘密に触れることもあります。不用意に触らせなかった家令の判断に感謝しましょう。


 私は中身を一つずつ丁寧に確認します。もし処分したらマズいものがあれば大ごとですから。いろいろな書類や手帳を確認していくとメモ書きが多いことに気が付きました。


 ラルフが優秀な人間ではないと従者のことを評価していましたがこういう努力をしながら必死で付いていっていたのでしょうか?


「……これは?」


 一つのメモ用紙がふと目に留まりました。何気なく見てみるとそこにはジェイク追い出しと書かれていたのです。


「……どうしてこんなものが……まさか!」


 私は慌てて残りの遺品をひっくり返しながら調べ始めました。するといろいろなメモ帳にラルフからの指示と思われる内容が書かれていたのです。


「商人達へペルナ村のジェイクをラルフが嫌っているという情報を流す……村の三バカと呼ばれていた三人を使っての情報収集……ジェイクと最後に会った後、アニーに依頼した手紙は……アニーは出してくれていたのに、従者が握りつぶしたのですね……」


 更に残されていたジェイクの手紙も従者が処分し、偽りの手紙を私に用意までしていたのです。


 これらは全てラルフの指示でした。細かい内容などは指定していないようですが、ラルフが命じたことが原因で起きたことなのは確かなようです。


「……なんてことを……それではジェイクは……」


 私に愛想を尽かして出ていったのではなく追い出されたということになります。それどころかこの書いてある内容を見る限り、村への嫌がらせも行っていたようです。それに私とラルフの噂をバラまいていたのはどうやらラルフの様でした。


 ……許されることではない行いです。たとえ貴族であってもこのような振る舞いはあってはならないのです。これはお義父様に報告する必要がありそうです。


 家令に指示を出しながらも、私は全てを飲み込むことは出来ませんでした。信じられないという思いと、ラルフの最期を見てああと納得できる自分がいました。


 少しだけでもいいので時間が欲しかったのです。あまりにもな内容に私は言葉が出ませんでした。とにかく調べなければいけません。調べてみてからでも遅くはないのですから。しかし、私の心の中にあるラルフへの愛情はこのときたしかにヒビが入り始めていました。







 まず私は見つかったメモの中に名前があった二人の人物を訪ねることにしました。ラルフの以前の家令であるフォルドとアニーです。


 フォルドは何やらラルフの邪魔をしていたことが断片的に分かりました。きっとフォルドなら何か知っているはずです。


 アニーに関してはラルフと何らかの協力関係だということしか分かりませんでした。それならばアニーに直接聞くしかないでしょう。アニーが誰と結婚したかは分かっています。ですから何とか時間に都合をつけて会いに行くべきでしょう……もし可能ならその時に両親や妹に会いに行きたいのですが。ラルフが村にした仕打ちを謝りたいのです。赦してもらえるとは思っていません。それでも謝罪は必要なのですから。


 まず最初にほぼ隠居生活をしているフォルドを訪ねることにしました。当時の話の背景を理解したかったのです。子供たちは今日はマリーナお義姉様が見てくれるので心配はありません。


 一応今回の件は後継であるアレックス義兄様には全て話してあります。最初はお義父様に話すべきかと思いましたが、お義父様は良くも悪くも貴族的な方です。このことは揉み消す方に動かれるでしょう。なにしろ今はラルフの行いの後始末でただでさえ良い状況ではありません。


 揉み消させるわけにはいきませんでした。知ってしまった以上は無かったことになどするわけにはいかないのです。アレックス義兄様ならまだ話を聞いてくれるところがあります。


 事実アレックス義兄様はお義父様にいち早く火竜に財宝を慰謝料として渡し、ラルフの行いを謝罪することを主張しておられました。アレックス義兄様曰く揉み消そうとして余計なところに借りを作るよりも、ダメージを受けようとも今は身を軽くすることの方が大事だと。


 私もそう思います。やってしまったことはもう取り返しが付かない以上、これからをどうするかでしか自分の失態は取り戻せないのですから。








「お待ちしておりました、エリシア様」


 フォルドの家に向かうとすでに準備がされておりフォルドが私を待っていました。


「ごめんなさい、隠居しているところに押しかけてしまって」


「いえいえ、エリシア様のためでしたらこの老骨この程度は大したことには入りません」


 フォルドは相変わらず綺麗な礼を見せてくれました。ちなみに我が家の家令を鍛えてくれたのはフォルドなのです。


「それで本日はいかなるご用件でしょうか?」


「……ラルフがしていたことを聞きたいのです」


 私がそう言うとフォルドは少しだけ固まった後、そうですかと呟きました。


「いずれ話す日が来るやもしれぬと思いながらも、話すことが出来ずにいた私の不明をお詫びします」


 そう言って深々と私に謝罪してきたのです。やはりフォルドは何か知っているようでした。


「話してくれますね、何があったのか」


「……はい、エリシア様」


 フォルドは知っていることを全て話してくれました。ラルフが直接ではないにしろ村への行商へ圧力をかけて嫌がらせをしていたこと。フォルドはそれを知り可能な限り村を支援してくれていたこと。しかし、そのせいでラルフから遠ざけられてしまったことを。


「その後結局ご当主様に話すことも出来ませんでした。話せば必ず隠蔽に動かれるでしょう。もし、いつかエリシア様が真実を知られたときに調べることも出来なくなるのではと思うと……ですが結局は私に勇気がなかっただけです。エリシア様に全てを話してラルフ様をお止めする勇気が」


 やはりラルフは村への嫌がらせを行っていたのは確かなようです。目的はジェイクへの圧力でしょう。そうすることでジェイクが村から出て行かざるを得ない状況にするためなのでしょう。


 私にはこの件でフォルドを責めることなどできませんでした。すでにフォルドはお義父様に報告しないという主に取っての反抗を行っています。これ以上求めるのならばそれはフォルドの人生を背負う覚悟が必要でしょう。


「ありがとう、フォルド。よく話してくれました」


「いえ、主すら裏切りながら何の結果も出せなかった使用人です。本来なら私も裁かれていなければならないような存在です」


「そうだとしても、あなたが話してくれなければそれすら分かりませんでした。だから顔を上げてください」


 床に跪くように謝罪をするフォルドを起こすと私は言いました。これで何があったのか大まかな背景は分かりました。


 やはりラルフは許されないことをしていたのです。私に見せていた顔も嘘偽りに満ちていたのです。


 私がジェイクがを愛していたから引き裂こうとしたのでしょう。


 ジェイクが私を愛してくれていたから排除しようとしたのでしょう。


 私がラルフを愛して結婚したのは自分で決めたことですが、それでも許せないものは許せません。まだラルフを信じたいという気持ちは枯れ残ったのは行き場のない怒りと悲しみだけでした。





 それから二月ほど経った頃、ようやくケートまで行ける準備が出来ました。子供たちが不安定なこともあって中々長期に家を離れることが難しかったことが主な原因ですが、それだけではありませんでした。ラルフの行いが思ったよりも問題視されお義父様が責任を取って隠居して、アレックス義兄様が後を継がれることになったのです。


 その引継ぎの関係で忙しくなり、ケートに行っているような状況ではなくなったのもあったのです。今回の当主交代にはスフィールド公爵家と敵対しているエーランド公爵の要求でもありました。何か企んでいるようなのですが、用心するしか今は手段がないことも事実です。


 そんな状況の中でようやくケートへと向かうことが出来るようになったのです。二月もかかりましたが子供達も連れていけそうなので安心です。正直ラルフへの愛情はもうありません。それどころか行き場のない恨みや怒りすらあります。


 もちろん最初はラルフの子だと思うと怒りの様な物さえ湧いてきました。それでも私を母と慕いながら不安そうに見てくる子供達を見れば、辛く当たることなど出来るわけがありません。それに子供達には何の関係もないことなのです。だからこの子達を愛していた時間があったからこそラルフへの愛は壊れても、子供達への愛情は壊れませんでした。


「お母さま! ケートってどんな街?」


「おっきいのですか! いっぱいモフモフいますか!?」


 辺境の自然豊かな大きな街だとしか教えていないのでこの子達なりにいろいろ想像しているようです。私は楽しみですねと返しながらも待っているであろう真実を知ることが恐ろしくてたまりませんでした。

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