6:私の日常
この世界は簡単な魔力で動く魔道具と呼ばれるランプくらいなら有るという設定です。
三人とパーティーを組んでから私は冒険に出ることが増えていった。ちょくちょくケートに泊まりながら二日に一回のペースで依頼をこなしていくのが楽しくてたまらなかった。
ジェイクに会える回数が減るのは寂しいけれどそれでも今は冒険がしたいのだからしょうがないよね。
今日もギルドで依頼を受けに行く。いつものように沢山の冒険者が依頼や報酬を求めていて凄く活気が出ていた。
「今日はどの依頼?」
レイラに今日の依頼を聞いてみよう。
「スピアボアの駆除依頼にしようと思います。近くの村ですし日帰りが出来そうです。これなら明日エリシアが村に帰るのにも影響は無いと思います」
みんなは私が村に帰ることに文句も言わないでパーティーを組んでくれている。
ありがたいなぁ。感謝はいつも伝えているつもりだけど、お礼に今度ジェイクに頼んで薬草茶でも持ってこようかな。
「ありがとう、みんな。スピアボアっていうとよく畑を荒らすモンスターだよね?」
前に村の近くに出たことがあって大騒ぎになったっけ。その時も冒険者を雇って駆除してもらったんだよね。あの弓使いの女性冒険者かっこよかったなぁ。
「そうそう、うっかり刺されると死ぬかもしれないから気をつけてねー。ちなみにお肉は美味だからいい収入になるんだなーこれが」
アニーがモンスターの情報が載っている資料を見ながら言ってくる。
うん、それは知ってる。弓のお姉さんが倒したスピアボアを振舞ってくれたから食べたことがある。あれは美味しかったなぁ。
「あたしは下手に盾で受けないほうがいいかもしれないね」
シェリアも資料を覗き込みながらうんうん唸っている。私も覗き込んでみようかな。
うん、こいつには刺されたくないなぁ。スピアの名に恥じない鋭い牙が槍のように尖っている絵が描かれている。突進力も凄いって書いてあるから避けることを中心にして動こうかな……でも美味しいらしいこれ。
「それじゃあ、行きましょうか。上手くいけば明日の夕飯は豪華にボアステーキよ」
お肉は寝かせたほうが美味しくなるもんね。明日なら持って帰ってジェイクに食べさせてあげられるし、楽しみで仕方がないよ。
「そこ!」
スピアボアの突進を紙一重でかわしながらその勢いを利用して斬りつける。剣の質は腕でカバーしてみせる!
以前よりも深く斬り付けることが出来るようになった私の一撃はスピアボアの足を斬りおとした。そのままスピアボアは転倒したまま滑るように私の後ろへ流れていく。
「おらよ!」
でもそこにはシェリアがいるのでした、残念だったね。シェリアの斧でトドメを刺されたスピアボアはそのまま動かなくなった。
「これでここら辺のスピアボアは駆除し終わりかな?」
アニーがスピアボアをつつきながら聞いてきた。
「一応、依頼にあった三匹のスピアボアは駆除したので問題ないと思いますよ。アニー、牙を取る際には気をつけてくださいね、指なんて簡単に落ちるんですから」
「うっひゃぁ!」
レイラに注意されたアニーは慌てて手を離す。それを見かねたシェリアが討伐部位回収のため牙を取り始める。
「牙の回収が終わったら街に戻って解体してもらいましょう。お肉が楽しみですね」
レイラは本当に嬉しそうだ。レイラは食べるのが好きなのかな? 近いうちに聞いてみようかな。
無事にケートに帰り着くとシェリアとアニーはスピアボアの肉を解体してもらいに解体所へと向かっていった。私とレイラはギルドへ報告だ。
「お願いしますね」
レイラがスピアボアの牙を提出するとリセリアさんが受付をしてくれた。
「立派ないい牙ですね。頑張ったんですね皆さん。この調子でクエストをこなしていけばランクが上がるのも時間の問題ですよ。最近“女神の剣”の活躍は目覚しいですからね。少々お待ちください」
そう言って報酬の清算をしに行ってくれた。
以前ゴブリンキングを倒したけれど最初のランクアップはそれだけではダメらしく、いろいろなクエストをこなして経験を積まないと昇格は出来ないらしい。
なので今は経験を積むことをメインにいろいろなクエストに手を出しているのだけれど、私があまり遠出が出来ないせいで護衛依頼などが受けられないでいる。
「ごめんね、護衛依頼とか受けられればもっと早くランクが上がるのに。今度ジェイクに相談してみるね」
「エリシア、私達は納得して今の状況にいるのだから気にしないでいいのですよ。それにちゃんと家族に会える環境は大事なのだからジェイクさんを大事にしてあげてください。それに最近は魔術まで習い始めたのですからなおさら時間が足りなくなりますよ」
そうなのだ。最近レイラに頼んで魔術を教えてもらっている。
少しでも出来ることを増やしたいと思って始めたのだけれど、レイラが言うには才能は有るらしくこのまま続けていけば十分戦力になるレベルまで使えるようになるそうだ。
それもあって私が足を引っ張っている面があるのだけれども、レイラはああ言ってくれるしシェリアも文句は言わない。アニーは本当はもっと実入りの良い依頼を受けたいようだけれど何も言わないでいてくれている。
「私は仲間に恵まれているね」
私がそう言うとレイラは嬉しそうに笑ってくれた。
「おやおや、景気が良いじゃねぇかお嬢さん方」
レイラと話していると二人の冒険者がやってきた。二人ともあまり清潔とは言えないし身なりもかなり悪い。しかもお酒臭いから近づかないで欲しい。
「なんでしょうか?」
レイラが厳しい目付きでにらみつけた。ちょっと私でも怖い。
「おいおい、そんな怖い顔するなよ。ちょっと仲よくしたいだけだからよ」
「そうそう、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ。なぁ、赤毛のねぇちゃん」
私を見ながらニヤニヤしている。うう、気持ち悪いなぁ。
「私には旦那様がいるからお断りです!」
ハッキリと言ってやれば引き下がるよね?
「まじか!旦那持ちかよ!」
「嫁に冒険者させるような甲斐性無しだろどうせ。なぁ、そんな甲斐性無しよりも俺のほうが良いって絶対」
な、なんでグイグイ来るのー!
なんか逆に火を注いでしまったような気がするんだけれど。うう、対応が難しいよぉ。
私の腕をつかもうと男の一人が手を伸ばしてきた。
気持ち悪い!触らないで!
とっさに振り払おうとしたときスッと私と男の間に杖が差し込まれた。
「そこまでにしてもらえませんか?これ以上絡むなら外で話し合う必要があると思うのですが?」
レイラがそう言いながら杖に魔力を集めていく。バチバチと音を立てながら杖の先端から放電し始める。
「おい!ギルドで暴れる気か!?」
「あなた方がこれ以上何もしなければ問題はありませんよ。断られたら潔く諦めてくださいね?」
笑顔が怖いけれど頼もしい!
レイラの気迫に押されたのか二人の冒険者は舌打ちをしながら去っていった。助かったぁ。
「ありがとう、レイラ」
「気にしないで下さい。私は一応ここまで旅してきたからこういうのに少しは慣れているだけですから」
「そうなんだ。そういえばどうしてレイラはこのケートで冒険者を始めることにしたの?」
レイラは恥ずかしそうに頬をかきながら教えてくれた。
「アカデミーの親友が占いを専攻していたんですが、その親友に占ってもらった結果このケートから始めるといいと言われたんです。彼女の占いは当たると有名でしたし、それに親友の占いなら信じてもいいかなと思ったんです」
「そうだったんだね。私もその親友さんに会ってみたいかも」
「そうですね、いつか行けたら行きましょう。お礼も言いたいですし。彼女の言う通りケートから始めたらこんな良い仲間に出会えたんですから」
「お待たせしました」
リセリアさんが報酬を持ってきてくれた。金貨二枚にもなってくれたみたい。難易度の低い依頼だからここまで稼げるのは嬉しい。
これを四人で割るから銀貨五枚だね。最近レイラ達に計算も習ってるから分かるようになってきたのです。今まではジェイクに任せきりだったけど冒険者になったからには自分でやらないとね。
「またいらしてくださいね」
リセリアさんに挨拶をしてギルドを出る。
そしてそのままシェリア達と合流をして報酬を山分けする。ついでにお肉も山分けだ。
「それじゃぁみんな、明後日の朝だね」
「気をつけてくださいね」
「お土産よろしくー」
「旦那によろしくな」
仲間たちに見送られて村へと向かう行商の馬車に揺られる。ジェイク喜んでくれるかなぁ。なかなか手に入らない良い部分を分けてもらえたからきっと美味しい夕飯を作ってあげられるはず。楽しみ。
「ただいまぁ」
二日ぶりの我が家はやっぱり落ち着くなぁ。台所から音がするからジェイクは夕飯の準備中かな? 覗いてみよう。
「ジェイク~お土産あるよぉ」
台所で準備中のジェイクの背中に声をかけてみる。大好きな旦那様の背中にそっと後ろから抱き着いてみる。
「おかえり、エリシア。危ないよ、今ナイフ使っているから」
穏やかに優しい声でやんわりと注意されるけれどこればっかりはやめられない。ジェイクの背中は暖かくて心地よくてうっとりしちゃう。
「スピアボアのお肉もらったんだ。夕飯に使っちゃおうよ」
「スピアボアか……うん、このお肉ならこのまま焼いても美味しそうだね」
スピアボアのお肉を見たジェイクはステーキにしようと言ってくれた。私もステーキで食べたいから大賛成。
ジューシーなスピアボアのステーキはやっぱり絶品だった。ジェイクの味付けも上手いからこんなに美味しいのかな。
「美味しいよ~ジェイク」
「良かったよ。良いお肉だから美味しいんだね」
ジェイクったらすぐそうやって謙遜しちゃうんだから。まぁ、それもジェイクの良い所なんだけどね。
夕飯を食べながら“女神の剣”の仲間のことを話していく。レイラが意外と食いしん坊な所とかアニーが結構ケチだったこととか、シェリアが実はかなり乙女な部分があるとか。ジェイクは私の話を嬉しそうに聞いてくれた。
私がいない間の村の様子を聞いてみたけれど大した話は無いみたい。まぁ、田舎だから話題になるようなことなんて滅多にないもんね。ただお母さんがたまには顔を出せと言っているらしいから明日行こうかな。
夕飯の片付けも終わってジェイクが薬草茶を淹れてくれた。体が温まって優しい味に心が安らぐ。
ジェイクが淹れてくれる薬草茶は美味しいから大好き。ジェイクが言うには体の調子を整えて風邪とかひきにくくしてくれるらしい。
魔光ランプに照らされたジェイクが嬉しそうに笑ってる。
「ありがとうジェイク。いつも通り美味しいよ」
「それは良かったよ。エリシアが健康なままだと僕も嬉しいからね」
ジェイクは優しいなぁ。そんなジェイクのことが大好き。
だから今日は少し早いけれどジェイクの手を取って二人でベッドに入る。
ケートの宿もいいけれどやっぱり愛する旦那様がいる方が嬉しいし心が落ち着く。
「えへへ、ジェイク。大好きだよ」
私がそう言いながら抱きつくとジェイクが頭を撫でながら抱きしめてくれる。
「僕もだよ、エリシア」
嬉しくなってキスをしてそのままジェイクと溶け合うように愛し合う。今日は寝れないかな?
次話くらいから物語が動きだします。助走が長くてすみませんm(__)m