13:彼女の輝きは
ここら辺は難しい話で書くのに苦労しています(-_-;)
地獄の入り口から出られない(笑)
僕がエリシアの復讐を止めてから二日後の午後、忘れ物をしたので家に取りに戻ろうとした時のことだった。家の前に誰かいるみたいだ、誰だろう?
「やっほー、エリシア」
白いローブを纏った小柄な女性がそう言いながらエリシアに挨拶をしていた。もしかしたらもう一人の仲間のアニーさんかな。困ったな、ここで僕が家に帰れば二人に気を遣わせてしまうかもしれないな。忘れ物自体はどうとでもなるし、仕事に戻るとするかな。
そのまま踵を返して来た道を戻っていくとアリアとお義母さんの背中が見えてきた。二人とも空の籠を持っていることからどこかへお裾分けした帰りかな?
「こんにちは、お義母さん。アリア」
「あら、ジェイク。仕事かい?」
「こんにちは、お義兄さん。いつもお疲れ様」
エリシアが家にいるようになったことを話した方が二人は喜ぶのだろうけれど、僕は言い出すことが出来なかった。言えるわけがない、死んでほしくないからって嘘をついてまで縛り付けようとしたなんて。
「最近、エリシアは元気かい? 家にすっかり顔も見せなくなって久しいからね。たまには親の顔くらい見に来なさいと言っといてくれよ」
「そうよ、お義兄さん。お姉ちゃんたら冒険ばっかりで私のことを忘れているんじゃないかって思っちゃうくらいだもの……まぁ、この前のお土産は嬉しかったけど……」
アリアはそう言いながらエリシアがこの前買ってきたリボンを嬉しそうにいじっている。アリアの赤い髪に良く似合う綺麗なレースのリボンだった。
「エリシアに伝えておきますね。時間がある時に顔を出すと思いますよ」
皮肉なことに時間はいっぱいあると思う、ただそれを素直に喜ぶことが出来ないだけで。
「そういえばあの悪たれ三人組が最近調子に乗っているみたいだから気を付けるんだよ」
「そうそう、なんかやたらと羽振りが良いみたいだけれど、どこからそんなお金が出てきたのかしら?」
あの三バカがそんなにお金を持っているとは思えないけれど、何があったのだろうか? 悪いことに手を出していなければいいんだけれど。お義母さんとアリアは困った顔で僕に教えてくれた。
二人共あまりあいつらには良い感情を持っていないから気にしてくれてはいたみたい。
昔、エリシアをいじめていたことがあるから二人共好きになれないんだろうな。まぁ、エリシアの夢は理解してくれなかったんだけれどね。
「分かりました。気を付けときますね。それじゃあまた」
仕事に戻らないといけないし、お義母さんとアリアに挨拶をして歩き出した。仕事が終わる頃にはアニーさんも帰っているんじゃないかな?
仕事も終わり帰る頃には日も沈み始めていた。エリシアが待っているし帰らないと。僕が朱く染まった道を歩いていると向こうから誰かがやって来た。
あれは……アニーさん?
アニーさんは僕の前までやってくると立ち止まって僕を見てきた。もう帰ったと思っていたのにまだいたんだ。アニーさんの白いローブが夕日に染められて朱く染まっている。少しだけ沈黙が続いた後、僕が耐えきれずに口を開こうとした時、アニーさんが口を開いた。
「ジェイクさん、エリシアを守ってくれてありがとう」
え? 守った? てっきり非難されると思っていた僕は思ってもいなかった言葉に激しく動揺してしまった。
「あのままエリシアを戦わせるのは正直不安だったんだよねー。でも私からは言い難いし、ちゃんと言ってくれて感謝してるんだよー」
「……そうですか」
「まぁ、エリシアが落ち着いて冷静になってもまだ戦いたいって思ってたら考えてあげるとこはできないかなー? もちろん、許してあげて欲しいっていうことじゃなくて、考えるだけ、考えるだけ」
……もしそうなったら考えてみるべきかもしれない。アニーさんが言ったからじゃなく、エリシアと向き合ってみるためにもそれは無視していい話じゃない。
「その時が来れば考えてみますね。それじゃあこれで」
僕はアニーさんに別れを告げて家路を急ぐ。何故だか急にエリシアの顔を見たくなってきた。言いようのない不安が胸にこびりついて離れなかった。
その日の夜。エリシアが寝た後、僕はこっそりと鍛冶場にクロノスフィアを持ち込んでいた。あれから手入れもされていないし、このままだといくら魔剣でもいつかは使えなくなってしまう。
これはエリシアの冒険の象徴だから、こいつを手入れすることは例の化け物と戦うことを認めることになる気がしたけれど、それでも鍛冶師の端くれとしてこんな素晴らしい逸品がただ朽ちていくことは受け入れられなかった。
「とは言ってもこんな剣どうやって手入れしたらいいんだろう?」
僕には凄いということしか分からない魔剣だ。下手に手を出して台無しにすることは避けたい。とりあえず今は埃や余計な油を取るだけにしておこう。時間はかかるかもしれないけれどまずはこの魔剣のことを知らなければいけないのだから。
「なぁ、ジェイク。あたしが言うのもなんだけれどさ、このままでいいのかい?」
エリシアが家にいるようになってから十日くらい立ったある日、オーベルの家を訪ねた際にシェリアさんから声をかけられた。
シェリアさんはもうすっかりオーベルの奥さんみたいな立ち位置で最近は慣れないながらも家事をこなし始めている。鎧じゃなくて普通の村人の格好をして、斧の代わりに箒を握るようになった。それに料理もお義母さんに頭を下げて習い始めたみたいだ。お義母さんも冒険者でなくなったシェリアさんには普通に接している。やはり冒険者という職業が好きになれないだけみたいだ。
「このままと言うのは?」
「言わせる気かい? エリシアのあの生気のない顔、あたしだってあんな化け物に立ち向かって欲しいなんて思わないけれど、それでも今のエリシアは見ていられないよ」
シェリアさんの言う通り、エリシアは最近ますます元気が無くなっている。表面的にはいつものエリシアなのだけれど、実態はただの空元気だ。無理に元気でいようとしているし、意識的に冒険の話もしてこない。良く知らない人から見れば何も変わっていないように見えるだろうけれど、確実に精神を擦り減らしていっている。
「正直あたしは復讐は反対だけれど、それが必要な人間だっているのは事実さ。あんたがエリシアをどうしたいのか、どうして欲しいのかちゃんと考えないと、今のあの娘は身動きできなくなっちまってるよ」
僕はどうしたらいいのだろうか?
シェリアさんの言うことはよく分かる。このままで良いなんて思ってなんかいない。それでもまだ決断できないでいた。
僕は悩みながらもエリシアの様子を見ながら魔剣の手入れを続けていた。この魔剣を見ればエリシアの戦いや冒険が少しでも見えてくるかもしれない。そう思ってこの魔剣を通してエリシアのこれまでと向き合ってみることにしたのだけれど。
「……やっぱりこの魔剣は僕の手に余る……鍛冶師として話にならない差が理由かな?」
使われた技術も必要な道具も何もかもが僕には足りていない。壁があるのにその高さが見えてこない、そんな感じだった。
「でも、少しだけ分かることがある」
エリシアがこの魔剣で戦ってきた跡が刻まれている。それは傷から分かるとかではなく何となく見えてくるものだった。そうまるであの時のような不思議な感じだ。
―――よく集中して見てください。
レイラさんにそう言われて魔力を見た時のことを思い出した。すると魔剣の魔力がだんだんと見えてきてそれがどんな風に流れているかが分かるような気がしてきた。剣全体に美しく流れている魔力はまるで精巧なタペストリーのように繊細にかつ大胆に刻まれている。
僕にはこの魔力の流れがどんな意味を持つのかもどんな理由があるのかも理解できないけれど、それでも魔力の流れが少しだけ、ほんの少しだけだけれど淀んでいるところや歪んでいるところが分かる。これは小さな異常だけれど放っておけば必ずいつか大きな事故につながる。それだけは何となくだけれど理解できる。そしてエリシアの魔力を流す癖なんかも見えてきた気がする。この小さな異常もその癖のせいで起きているみたいだ。
「だったら、エリシアのための魔剣にすればいいんだ」
魔剣の魔力の歪みや異常を感覚でだけれど少しずつ直していく。知識は無いけれどこれで正しいのだと確信が持てた。
「ふぅ……今日はここまでか」
全身がだるい。凄く疲労しているのが分かる。魔力を見るだけでこんなに疲れるのかな? それともいじったせいかもしれない。とにかくゆっくりやっていくしかない。毎日やっていけばきっと慣れてくるに違いないのだから。
それから僕は毎日魔剣の魔力の見ながら調整を続けていった。最初はすぐに疲れてしまっていたけれどだんだんと疲れなくなっていき、魔力の流れがもっと分かるようになっていく。するとエリシアの癖がさらに深く理解できるようになっていって効率的に魔剣に魔力を流せるように調整が出来るようになっていった。
自分がどんどん成長していくのが理解できる。今まで見たこともない世界が見えてきて楽しくて仕方が無かった。大した力が無いと思っていた自分がこんな凄い魔剣の魔力を少しずつでも理解出来るというのが嬉しくて仕方が無かった。
そうか、エリシアはこの感覚が楽しかったのかもしれない。自分で出来ることが増えていって、思うように力を活かせる環境が楽しかったのだろう。それは何もおかしいことではないし、当たり前の感覚だ。
復讐を望んだ理由もそこにあるのかもしれない。仲間を失っただけではなく、力をつけてきた自分自身へのプライドを傷つけられたからそのままでいられなかったのだろう。村にいた頃のエリシアならそんな理由は存在しなかったかもしれないけれど、もうエリシアは村にいた無力な村娘ではないのだから。一人の誇りを持った冒険者だということを僕が理解できていなかっただけだったんだ。
そんなエリシアを僕は卑怯な嘘で縛り付けてしまった。失うことを避けるために会えないことが辛いとついた嘘が僕の卑劣さを浮き彫りにさせる。その嘘が今のエリシアにしてしまったというのなら、それは僕の罪でありエゴでしかないのだから。
エリシアを失うことを恐怖して閉じ込めることにしたけれど、結局エリシアの心は死んでいっている。こんなの本人に何とかしろなんて言えるものじゃない。
素直に死んで欲しくないから復讐は止めて欲しい。でも冒険者はしても構わないと言うべきだったのに僕は間違えた。側にいて欲しいなんて言えば冒険者すら辞めてしまうのは予想できたはずなのに!
僕は……結局エリシアを信じていなかったのかもしれない。冒険者であることすら取り上げなければ復讐をしてしまうかもしれないと。なんて無様な話だ。妻を信じ切れてすらいないのに夢を否定しないなんてどの口が言えたものやら。
「あははは……ははは……ははは」
笑いが止まらない。止められない、だってこんなに滑稽な自分が存在していたなんて。
何が本気なら応援するだ! 何が夢を否定しないだ! 全部僕がエリシアに嫌われたくないから言っているだけじゃないのか!? こうやって現実を突きつけられて初めて剥がれた虚勢は僕の醜さをもう隠しきれない。
でも……本気なら応援したいと思ったことも、夢を否定したくなかったことも本当にそう思えたんだ……エリシアの嬉しそうに輝く姿が好きなんだ……だから……だから
虚勢だって受け入れよう。それが偽りでもそうありたいと願ったのだから。だったらその願いからだけは逃げないでいたい。
エリシアについて行くのは大変だけれど、戦うことを諦めたらその瞬間にダメになる。
だったら! 僕はエリシアを信じよう。例の化け物に勝って帰ってくると!
エリシアの変化も受け入れて、ダメなところは諦めずに指摘していってやる!
ラルフにも負けないように戦っていってやる!
何度もショックを受けることがあるかもしれないけれどその度に立ち上がって抗い続けて行ってやる!
僕の本当の敵は僕が諦めることなんだと分かったのだから。
明日エリシアに魔剣を渡そう、そして話さないといけない。彼女の誇りを守るために。
ジェイクの才能は現時点で書ける範囲で
鍛冶:9/8+1
魔力感知:35/secret
魔力操作:40/secret
魔力解析:38/secret
魔力内蔵量:50/secret
薬学:15/secret
な感じです。




