3:私の仲間
ペンテ爺さんに送ってもらってケートに着いたのはまだ陽も出ていない時間だった。
無理を言っていつもよりかなり早く出発してもらったのでちゃんとお礼しないと。
ペンテ爺さんはいいよいいよと言ってくれたけれどこういうのはちゃんとしないとね。
集合場所に行ってみると結構な人数が集まっていた。皆いかにもベテランという人ばかりで強そうだなぁ。
私みたいな初心者は集まる場所が決まっているみたいで、ギルドの職員さんが教えてくれた。装備が整っていない人やオドオドしている人が結構多いなぁ。
「あんたも討伐依頼初めてかい?」
キョロキョロしていた私に同じ初心者?のお兄さんが話しかけてきた。そんなに背は高くないけれどけっこうガッシリとした体で初心者に見えないなぁ。
「そうですよ。もってことはお兄さんも?」
「ああ、訓練とかはしてきたけれど実戦は初めてなんだわ。あ、俺はジェイドって言うんだ。よろしくな」
「私はエリシアです。よろしくお願いします」
ジェイクに名前が似ているからかちょっと親しみがわいてしまった。
「女性の冒険者はいろいろ大変だろうから出来ることがあれば言ってくれよ。お互い初心者なんだし助け合わないとな」
「ありがとうございます。そうですね、そのときはお願いします」
それにしてもやっぱり女性冒険者って目立つのかな?
まぁ初心者は十五人くらいで私を含めて女性は四人しかいないから目立つのは当然なんだけど。
それでも私以外の女性は堂々としていて目を引いた。
ジェイドさんにまた後でと声をかけて女性冒険者のほうに行ってみようかな。
私以外の女性の冒険者は戦士だと思う大きな斧と盾を持った背の高いお姉さんに魔術師だと思う美人なお姉さん。
あとたぶん癒し手だと思う私より年下かな?って思える女の子。
魔術師は炎とか出せる凄い人で、癒し手は傷を治したり出来る人だね。
「おはようございます」
とにかくまずは三人に挨拶してみよう。挨拶は基本だもんね。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
魔術師のお姉さんがそういっておじぎをしてくれる。サラサラの髪が流れて同じ女性だけれども羨ましい。
「おっはよー!今日はよろしくねー」
元気良く挨拶を返してきたのは癒し手?の女の子。小柄な彼女の手には結構ゴツイメイスが握られている……持てるんだ。
「おはよう、今日はよろしく頼むよ」
大きな斧と盾を持ったお姉さんが右手をあげて挨拶してくれた。なんとなく戦いなれている気がするんだけれど。
「ええと、私はエリシアって言います。まだ冒険者になったばかりだけど頑張ります。得意なことはたぶん剣かなぁ?」
出来れば同じ女性冒険者とは仲良くしたいし、ここで自己紹介でもしておこうかな。
「私はレイラと申します。魔術師として活動しています。一応アカデミーは出ているのでそれなりの魔術は使えますよ」
アカデミー? なんだろうそれ。
「へー、アカデミーかい。あんたの年で卒業しているのならかなり優秀なんだね。」
「あのーアカデミーってなんですか?」
斧のお姉さんが感心していたけれどアカデミーって凄いの?
「アカデミーっていうのは魔術を専門的に学べる学校のことだよ。入るのも大変だけれど卒業するのはもっと大変っていうエリートが行く場所だね。もっとも卒業した人が冒険者になるのは聞いたことが無いけど。大抵は国に仕えるからね」
癒し手?の女の子が教えてくれたけどこの子物知りなんだぁ。
「もともと冒険者になりたくて魔術の勉強をするために行ったんです。だから国に声をかけられる前に逃げ出しちゃいました」
見た目はおしとやかそうなお姉さんなのに結構アグレッシブな人だった。人は見かけによらないんだね。以前ジェイクが言っていた通りだったよ。
「はいはーい! あたしは癒し手のアニーだよ。自分で言うのもなんだけど、結構優秀だから怪我の心配はしなくてもいいからね」
アニーと名乗る小柄な少女はそう言って親指を立てながら自慢げにウインクしてきた。なんだか元気な子だなぁ。
「あたしは元傭兵のシェリアって言うんだ。といっても人相手がほとんどで魔物の経験は大したことないから皆と同じ初心者だね」
シェリアさんは同性から見ても色っぽいお姉さんだからなぜか私もちょっとドキドキしちゃう。ジェイクに会わせられないなぁ、嫉妬しちゃいそうで。
自己紹介を済ませたらちょうど出発の時間になったみたいで皆が歩き出した。遅れないようについて行かなきゃ。
目的地に着くまで三人とお話しした結果いろいろなことが分かった。
一番ビックリしたのはアニーが私と同い年だと言うこと。
レイラさんとシェリアさんは私よりも年上だったから予想通りだったけれど。
私も村から通って冒険者をやっていることを話した。そのとき結婚していると話したら何故かアニーから恨めしそうな目を向けられたけれど……なんで?
一時間ほど歩くと私達は止まるように指示された。聞けばここから離れた場所にある森に巣があるらしく初心者の私達はここで討ち漏らしなどの支援をするらしい。
「ここで討ち漏らしの相手かぁ」
「まぁ、暇なのはしょうがないね。それに討ち漏らしなんか無いほうがいいに決まっているからね」
シェリアさんはそう言いながらもしっかりと巣のほうを見ながら警戒は解いていない。
「そうそう、神官と癒し手は暇が良いって言うしね。あたしは暇なほうが良いという訳でのんびりしとくね~」
アニーはそう言いながら岩を枕に寝転んでしまうし、いいのかなぁ?
「そういえば、今回のゴブリンキングの巣の発見にエリシアさんが貢献したと聞きましたよ」
レイラさんがそう言いながら私の隣に座ってきた。どうぞと自分の横を叩きながら座るようにうながしてきた。
まだ動きもないし座っておこうかな。
「たまたま五匹のゴブリンに出会っただけですよ。運よく倒したことを報告したらなんか大事になっちゃって」
「それは初心者が出会うには危険な相手らしいですよ。倒せるのは運だけじゃないと思いますが」
「そうそう、ゴブリンだろうと数は力だからね。あんたはそれなりの力はもう持っているという証拠だよ」
レイラさんとシェリアさんがそう言って認めてくれた。なんか嬉しいな認めてもらうのって。
「というかー、エリシアって話し方が硬ーい!もっとフレンドリーに気軽に話そうよ。真面目そうなレイラはしょうがないとしてエリシアはもっと気楽で良いと思うよ」
アニーがこちらに転がりながらそう言ってきた。
「そうだね、あたしはもっと気楽な話し方のほうが好きだよ。あたし自身こんな感じだしね」
「私はこの話し方がもう染み付いているので変えられませんが、エリシアさんはもっと肩の力を抜いてください。今この瞬間は仲間なのですから」
三人がそう言ってくれるので砕けた話し方で話してみようかなぁ。
「分かった。みんなよろしくね」
「そうそう、その方がいいよ。そういえばエリシアは旦那がいるって聞いたけどどんな人なんだい?」
シェリアがそう言いながら首に腕を回してくる。あれ?私捕まってる?
「あたしはこんなんだからあまりそういう話が無いんだわ。でも興味はあるわけよ」
「そうですね、私もエリシアの旦那様がどんな方か興味があります」
「どうせ暇だしここはじっくり聞かせてもらえるよねー?」
三人がそう言って興味津々で近づいてくる。
よし、いいでしょう。
ここはジェイクがどれだけ自慢の旦那様なのかたっぷり聞かせてあげようじゃありませんか。
「悪かった、あたしが悪かった……もうおなかいっぱいだから勘弁」
「なんかあたしの口から魂出てない?……気のせい?……そう」
「ジェイクさんは素晴らしい旦那様ですね。ちょっとうらやましいです」
心のままにジェイクのいいところを話したらシェリアとアニーがぐったりしてしまった。
レイラだけは嬉しそうに話に付き合ってくれるんだけどなんか元気になってない?
こういう恋話とか好きなのかな?
「来たぞ!」
そんな風に過ごしていると誰かが森のほうからゴブリンがばらけて逃げてきているのを見つけたみたい。
「よし、行くか」
「ええ、気をつけていきましょう」
「死ななければ助けてあげるからねー」
三人も準備万端。よーし、私も行きますか!
一人ならまだちょっと怖いけれど皆がいるなら頑張れる気がする。
それにあんなに憧れた冒険者になれたんだ。
「みんな、行くよ!」
「はぁっ!」
シェリアが斧を振るうとゴブリンがあっさりと両断されていく。
「吹き荒れよ、フレイムストーム」
レイラの声と共に炎が嵐のように吹き荒れてそこにいたはずのゴブリンは灰一つ残っていない。
「わ、ほ、わわわわ~来るな~」
アニーがそう言いながらゴブリンに追われて逃げ回っている。
あわてて助けに行こうと思ったらアニーはニヤリと笑うと魔法陣を発動させてゴブリンを縛り上げてしまったんだけど、もしかしてわざと?
「これなら避けられまーい」
そう言いながら縛られているゴブリンをあのごっついメイスで殴り倒していく。うーんやっぱりアニーは侮れないなぁ。
「負けていられないよね」
私もゴブリンの集団の中に突っ込んでいく。あのときは無我夢中なところがあったけれど今は何故か冷静に敵の動きや気配が分かる。
だからもうゴブリンくらいなら何匹いても大した敵じゃない!
流れのままに逃げてきたゴブリンを斬りながら、ふと戦場の空気が変わった気がした。
その瞬間とっさに飛んできた何かを剣ではらい落とす。
「え?」
私がはらい落とした何かは人の形をかろうじて残していた。私はこの人に見覚えがある。
え?……どうして?
「ジェ……イドさん?」
ほんの一時間前くらいに話した人がもう話すことも出来なくなってそこにいた。
ジェイドさんが飛んできたほうを見ればそこには他のゴブリンとは比べ物にならないくらい大きな2m程のゴブリンが暴れていた。
他の初心者の冒険者をなぎ払いながらこっちに向かってくる。
「エリシア!しっかりしな!」
三人が私の元へと駆け寄ってくる。シェリアが呆然としていた私の頬を叩いた。痛いけれどここが戦場だと思い出せたから助かった。
「まったく、なんであいつがこっちに来るんだろうね。ベテラン連中はなにやってんだい!」
シェリアが悪態をついてレイラが迎え撃つ準備を始める。
その様子を見ながらも私はジェイドさんが亡くなったショックが抜けきらない。
「でも、逃げるのは難しそうですよ。アレは私達を狙っています。エリシア、生きて帰るんじゃないんですか?このままだと死にますよ」
「そうそう、こうなったらしょうがないよね。死ななければ何とかできるのをいいことに、ここで無理してみない?」
アニーがメイスを素振りしてる。
そんな三人を見ながら私は戸惑っていた。
だって三人の言う通りアレから逃げるのは難しそう。
でもあんな化け物に立ち向かえる自信なんかないよ。
まだ遠くにいるからいいけれど、あれは怖い。
膝が笑い始めて逃げ出したくなる。
でも、ここで逃げたらみんなはどうなるの?
私なんかいなくても大した差はないかもしれない。みんなは凄いから大丈夫。
そんな私の弱い声が聞こえる。
でもそれは私が憧れた冒険者の姿かな?
ううん、違う。そんなの私の大好きな冒険者じゃない!
絶対に死ぬわけには行かない。生きて帰ってジェイクに抱きしめてほしいから!
私は冒険者なんだ!
――だから戦って勝つしかない!
「そうだね、みんなの言うとおりだと思う。ここで死ぬわけには行かないし戦おう。だからみんな死なないでね……。それじゃぁ、行くよぉぉぉぉ!」
私は自分を勇気づけるために声を張り上げる。
「はい!」
「任せな!」
「オッケー!」
三人と一緒に私は駆け出した。