9:彼女の仲間
色々ミスがあってすみません。
なんとか確認しながら書いてはいますがそれでもぽろぽろ見落としが出てる(-_-;)
ある日のお昼前、意外なお客様が僕を訪ねてやって来た。
オーベルと話していた時に玄関をノックされて開けてみるとそこに立っていたのは大きな斧と盾を持った背の高い女性戦士に、背は僕と変わらないけれど理知的な瞳をしたローブ姿の女性の二人組だった。
女性戦士の方は長い茶色の髪を後ろで一纏めにしているけれど綺麗な神をしていた。それにメリハリのきいたボディラインには何かドキドキしてしまうくらいの色気がある。オーベルなんかさっきからのぼせたようにボーっとしていて反応が無いくらいだ。
ローブ姿の女性は黒い髪を三つ編みにしていて肩口から垂らしていた。お淑やかなイメージがあるけれど、瞳の奥には意志の強さを秘めた輝きが宿っている。
この日はたまたま昼を食べに来たオーベルも居合わせたので僕だけじゃなかったのはちょうど良かった。もし僕だけだったら誰かを呼んで同席してもらわないといけなかっただろうから。だって既婚者の僕が妻以外の女性と密会のような真似をするのは良くないからね。
「シェリアさんとレイラさんですよね?」
僕がそう尋ねると少し驚いたようにシェリアさんが反応した。レイラさんは無反応だったから予想していたのかな? エリシアの話通り頭の良さそうな人だ。
「はい、そうです。ごめんなさい、急に訪ねたりしてしまって。ジェイクさん……ですよね?」
「はい。いつもエリシアがお世話になっています。ええと、そこの椅子にでも座っていてください。お二人はお茶でいいですか?」
僕がそう言うとレイラさんとシェリアさんはオーベルの向かい側に並んで座った。来客用に椅子を買い足しておいて正解だったね。以前のままだと足りない所だったよ。
エリシアから貰った茶葉を使おうかなと思ったけれど、安眠効果よりも疲労回復のほうがいいかもしれない。僕はいつものようにブレンドしてお湯を注ぎ少しだけ蒸らしてから薬草茶を淹れた。
「ありがとうね。あんたのお茶は美味いって話だから楽しみだよ」
シェリアさんはそう言って笑顔で受け取ってくれた。鋭い眼光のいかにも戦士という感じの人なのに笑うと柔らかい雰囲気の人だった。ってオーベル? さっきから一言も喋らないけれど本当にどうしたの?
「急に来たのに悪いね。それにしても美味いもんだね、あんたのお茶は」
シェリアさんは気に入ってくれたみたいだ。嬉しそうに飲んでくれるとこちらも嬉しくなる。レイラさんは驚いた顔をしているけれど何かあったのかな?
そうだ、どうせならお昼がまだなら誘ってみようかな。どうせオーベルの分も作らないといけないし、二人も四人も同じだから。何か話があるから来たんだろうし、食事の後の方が話しやすいよね。
「いいえ、気にしないでください。そうだ、もし良かったら昼も食べていきませんか? 二人も四人も変わらないので」
「それは流石に申し訳ない気が……どこか食べれるところがあれば、そこで食事をしてからまたお伺いしますので。昼時に来てしまった私達が悪いのですから」
「うっかりしてたあたしらが悪いんだしね。冒険者やってると昼飯時の時間がいい加減になっちまってね。本当に悪かったね」
う~ん、僕は気にしていないし、村での生活もそこまで厳密に決まった時間なんて無い。何しろ街にある時計なんてものは無いんだから。
「大丈夫ですよ! ジェイクの飯は美味いですし、ぜひ食べて行ってください!」
何でオーベルがそんなに必死に勧めるの? というか作るのは僕なんだけれど?……まさか……オーベル……。
「オーベルの言う通りですよ。遠慮しないでもらえる方が僕は嬉しいので。たまには賑やかな食卓も悪くないので。どうでしょうか?」
僕がそう言うと二人は少し考えた後、お言葉に甘えますねと言ってくれた。
良かった、実は使い切らないといけない食材が多かったから、昨日内に大量に仕込みを済ませておいたんだよね。ただ、ちょっと量を多く作り過ぎてしまって持て余していたから、今日オーベルを誘ったわけで。こうなったのもたまたま野菜のお裾分けが重なったのが原因なんだけれど。だから食べてもらえる方が助かるし僕も嬉しい、作り過ぎたのは内緒だけど。
「お口に合わなかったらすみません」
鳥と野菜のスープを出しながらチーズとパンを並べる。パンは古いけれど、スープに浸して食べるためにスープの味は調整してあるから大丈夫だと思う。
「これ結構、手間暇かけてるね。下ごしらえが丁寧だし、良く味が馴染んでる」
シェリアさんがスープを飲みながら尋ねてきたので僕は頷いた。
「シェリアさんは料理をするんですか?」
「ああ、あたしは元々料理は好きなんだ。傭兵時代から趣味でやっていたよ。もっとも男が作るようなガサツな戦場料理だけどね……って、男って言ってもジェイクが作るのは別格だからね」
気にしていないのに、シェリアさんは真面目な人みたいだ。そんなシェリアさんを見ながらオーベルも感心したように頷いている。ただその顔がどこかボーっとしているのでまったく締まらないけれど。これは確定かな。
オーベルのやつ一目惚れしたな。だったら少しだけサポートしてやろうかな。もちろんシェリアさんの反応次第だけれど。
「それにしてもジェイクさんも料理がお好きなのですね。エリシアからよく聞かされていました」
レイラさんはそう言って一口飲んだ後美味しいと呟いた。良かった、二人の口に合うみたいだ。
それにしてもレイラさんは丁寧で落ち着いた人だな。こういうタイプの人とは話も合うから気を張らなくていい。物腰も柔らかいし、こういう人がいるならエリシアが冒険に出て行っても安心できそうだ。
「まだ沢山あるのでどんどん食べて下さい」
エリシアは昨日帰ってくる予定だったから張り切って夕飯を用意したのだが結局帰ってこなかった。最近いないのが当たり前になりつつある。今だってもう四日会っていない。
「そういうことなら味わって食べさせてもらうよ」
「そうですね、いただきます」
こうして昼食の時間は楽しく過ぎていった。僕らの幼い頃の話をオーベルがシェリアさんに話したり、冒険中のエリシアの話を聞けたりと有意義な時間だった。
「一度お会いしたかったんです。ジェイクさんとは」
「エリシアにはいつも助けられているからね。一回くらい挨拶しないのも失礼だと思ってね」
昼食後、みんなにお茶を配っているとレイラさんとシェリアさんが話を切り出した。それにしても、訪ねてきたのがそんな理由だったなんて。気にしなくてもよかったのに。
「ちょうどあたしが怪我をしちまったからね。しばらくパーティーとしては活動できないし、だったら今顔を出しに行くべきだってことさ」
シェリアさんはそう言って足首を指さした。服で見えないけれどおそらく包帯をしているんだと思う。少しだけ薬草の匂いがするから塗り薬かな? この匂いは鎮痛効果と炎症を抑える効果の薬草だろう。
「キリル草とパーレルの花粉の軟膏ですね」
僕がシェリアさんの薬について聞くとシェリアさんはビックリしていた。レイラさんも目を見開いているけれどもしかして当たったのかな?
「そうだけれど、よく分かったね。あたし言ってなかったよね?」
「ええ。ジェイクさん、どうして分かったんですか?」
「匂いと怪我を推測してそれに合う薬草を考えたんです。確か捻挫とかの場合は緊急時以外は癒し手は薬で治すって聞いたことがあったので」
何でもかんでも癒しの術で治してしまうと体が病や怪我と戦う力を失くしてしまうらしい。だから戦闘中でもない限りは薬で治すらしい。ちなみにポーションとかでも治せるけれど、高いので大人しく薬で治した方がマシらしい。
「……マジかよ、おまえ」
オーベルが呆れたように見てくるけれど何か悪いことでも? 最近は簡単な軟膏くらいなら作れるようになってきたんだよね。僕の持ってる薬学大辞典は古いからあまり参考にならないかもしれないけれど、それでも基本くらいは学ぶことが出来たからね。
ただ、独学にはそろそろ限界を感じているのも確かだった。師がいない薬師なんて信用されにくいしね。薬学大辞典に載っている技術もその意味が理解できないものも結構あって、応用に行くための知識が僕には足りていなかった。それはこの村だけで得るのは難しいだろう。
「実は私達はジェイクさんにお聞きしたいことがあったんです」
少し雑談をした後、レイラさんは真面目な顔で僕を見てきた。何と言うかレイラさんみたいな綺麗な人に正面から見られると少し緊張する。
「なんですか?」
「エリシアはどういう……その、女性なのかなと」
エリシアについてかぁ。うーん、話はいくらでも出来るけれど聞きたいことはきっとそういう話じゃないんだろうな。
「それは冒険者になる前のエリシアということでしょうか?」
「そうだね、実はあたしらはエリシアがこのまま冒険者やってて良いのか少し悩んでいるんだわ」
そう言ってシェリアさんは窓から流れる雲を見ながら呟いた。
「傭兵も因果な商売だったけれど、冒険者も意外としがらみが多い商売なんだよねぇ」
「あのー、いつもどんな感じで冒険しているんですかい?」
オーベルが慣れない言葉を使いながら聞いてきた。シェリアさんに気を遣っているつもりだろうけどいつものオーベルの方が良いと思うよ?
「いつものあたしらかい? そうだねぇ」
「私達“女神の剣”は私の魔術に経験豊富なシェリア、優れた癒し手のアニー、魔法剣士のエリシアとバランスの取れたメンバーで構成されています。討伐系の依頼を中心にこなしていますがそれ以外の依頼もそれなりにといった所でしょうか?」
なるほど、それなら安定して結果を出しているのは納得できる。それにしてもよくそんなに都合よく集まったものだね。これも運なのかな?
「特にエリシアの剣の才能は群を抜いて高く、依頼をこなす上での大きな戦力でもありました。足りないものと言えばエリシアの腕に見合う武器が見つからないという贅沢な悩みくらいでした」
「エリシアの腕に見合う武器、これさえあれば更なる躍進が見えていたよ。なにせ腕の立つ戦士や剣士にとってその腕に見合う武器が見つからないというのは贅沢な悩みだけど切実な悩みでもあるからね。それで出会っちまったのがあの魔剣クロノスフィアだったのさ」
実は今日来た二人に最初から聞きたいことがあったのだ。なかなか切り出すタイミングが無かったけれどそろそろいいかな?
「それで、どうして今日はお二人で? それもエリシアがいない時に?」
「……エリシアは今日は違うパーティーと合同で依頼を受けています。私はシェリアさんのサポートと魔術の勉強がしたいと言って行きませんでしたが」
「あたしがエリシアがいない時に行ってみたいって言ったんだよ。どうしても確認したくなってさ。あの娘がいたら聞けないことだったんでね……なぁ、ジェイク。あんたなんでエリシアが冒険者になることを許可したんだい?」
意外だった。パーティーメンバーなら頼りになる冒険者が仲間にいることは歓迎するはずなのに、逆に冒険者をやることを心配してくれるなんて。この人たちはいい人なんだね、エリシア。
「先ほどの質問の答えですがエリシアは良くも悪くも純粋と言うか、一直線な性格です。こうと決めたらなかなか止まらない性格です。だからそれを止めてしまうと、必ず何か心にしこりが残っていつか爆発するタイプなので止め方を考えないといけないんです。そのくせ気が弱い面があって誰かに支えてもらわないとたまに立てなくなるような女性なんですけれどね」
「……私達は冒険者になった後のエリシアしか知りませんから、エリシアがそういうタイプだとは思っていませんでした。」
「それはそうだと思いますよ。今まで冒険者に憧れていた夢を笑われて押さえ付けられてきたエリシアでしたが、今回とうとう我慢できなくなったみたいですから。今はその勢いで頑張っている面もあると思います」
「だからエリシアに冒険者になることを許可したのかい?」
シェリアさんが鋭い目で僕を見てきた。それは僕に嘘偽りが無いかと問うているようだった。
「それもあるけれど、僕はエリシアが本気で冒険者をやりたいって言った瞬間から応援するって決めたんです。もしそれがただの憧れだったら応援しなかったんですけれどね。僕はエリシアの元気そうにしている姿が好きなんです。もちろん側にいないことへの寂しい気持ちはありますが、極端な話ですが僕はエリシアと心が繋がっていれば例え違う場所で生きていても愛していると言えます」
嘘偽りない本音だ。だから僕はエリシアが冒険者をやっている事を応援していられるんだ。
でも恥ずかしいな、こんな本音を話すのは。
長くなったのでここでいったん切ります。
今回はシェリアメインで。次回はレイラメインかな?




