6:彼女のための忠告とレシピ
毎回誤字報告ありがとうございます。誤字が多くてすみませんm(__)m
クレイスさんの馬に揺られながら村への道を進んでいく。立派な馬で僕が乗ってもビクともしなかった。凄腕の冒険者になるとこういう馬を買えるのかな? 二人分の荷物を積んでもびくともしない。
「わるいな、急に無理言っちまって」
申し訳なさそうに言うクレイスさんに僕はとんでもないと返す。
「送ってもらってるぶん、むしろこちらが申し訳ないくらいです。村には大したものは無いですけど」
「美味い茶でもあれば十分さ。ジェイクの淹れる茶は美味いって良く聞かされたもんだ」
クレイスさんはそう言いながら苦笑していた。
「聞かされた? エリシアにですか?」
「ああ、簡単な依頼を一緒にやったことが何度かあってな。あっという間に初心者卒業されちまったがな」
「そうだったんですか。エリシアがお世話になりました」
夕日が僕たちを照らしながら赤く染めていく。沈む夕日に引っ張られるように影が伸びていく。
「気にすんな。俺も何回か助けられた」
「今日は僕が助けられましたけどね」
情けないなぁと僕がこぼすとクレイスさんは真面目な声で否定してきた。
「情けなくなんかねぇよ、あの啖呵は良かったぜ。あそこで大人しくはいとか言うようだったら見捨てるつもりだったしな」
「……そうなんですか?」
風が吹いてきた。少し寒い風は僕らの間を抜けていくと、先ほどまでの明るい雰囲気も連れて行った。
「こうやって、送っているのも理由があるんだわ」
僕は黙って続きを待つ。
「話をしたかったんだ。……ジェイク、お前とな」
そう言って振り返ったクレイスさんはとても真剣な目をしていた。
家に帰ると僕はクレイスさんをもてなすために薬草茶を淹れる準備を始める。ついでに夕飯の準備も簡単に済ませてしまおう。クレイスさんに一言断って僕はスープの準備だけさっさと済ませてしまう。終わるころにはお湯が沸くはずだから、その間クレイスさんにはテーブルでくつろいでいてもらおう。
じゃがいもを食べやすい大きさに切っておく。確か野菜の切れ端が残っていたはずだからそれも使おうかな。干し肉で十分塩気は取れるから塩は少な目にしておくと丁度いいかもしれない。そういえばクレイスさんは苦手なものがあるのかな?
「苦手なものはありますか? もしあれば遠慮なく言ってください」
「食い物は何でも食うから気にしないでくれ」
それならばとスープにニンジンと玉葱を加えて、最後に台所の側に置いてある植木鉢からキシリ葉を取って入れたらあとは煮込むだけ。キシリ葉はえぐみを抑える効果と食欲増進効果のある薬草だからスープにいいんだよね。新鮮なやつなら独特の苦みもないから問題は無い。
エリシアはキシリ葉独特の苦みが嫌いだからいつも新鮮なモノが使えるように台所で育てているんだよね。どちらかと言えばお子様な味覚のエリシアは。キシリ葉を見ると警戒するようになってしまったけれどそれは仕方ないかもしれない。この独特の苦みが出ないようにいろいろ試した際に味見させたのが原因だろうし……やっぱり悪いことしたなぁ。
スープの支度が終わるとお湯が沸いたようだ。僕はとっておきのブレンドを使うことにした。血行促進に疲労回復、さらに免疫向上の効果が見込める上に一番美味しくできた逸品だ。一緒に焼き菓子も出しておこうかな。
それにしても普通の椅子なのに大柄なクレイスさんが座ると小さく見えるから何か不思議だ。同じ人間なのにこんなに体の大きさが違うんだから驚きだ。僕より頭一つ分背が高いクレイスさんはおそらく190㎝くらいはあるんじゃないかな?
「約束のお茶です」
「お、ありがとうな。……うめぇな! このお茶! どうやって淹れたんだ? それとも茶葉が違うのか?」
クレイスさんは薬草茶を一口飲むと身を乗り出して僕に尋ねてきた。
「茶葉じゃないでしょうか? 近くの森で取れる薬草を煎じているので」
「なるほどな~、おかわりいいか?」
もう飲んでしまったのか、空になったカップにおかわりを淹れる。気に入ってくれたのかな?
「お茶好きなんですか?」
「ああ、酒より好きだな。酒は弱くてな、茶のほうが良く飲む」
意外だった。冒険者はみんなお酒が好きなイメージしかなかったから。良くある物語とかでは冒険者は酒盛りが大好きなものだけれども、クレイスさんみたいな人もいて当然か。飲めない人の気持ちというのが分からないけれど、それでも楽しめないのなら飲む必要はないよね。
「それで、話って何でしょうか?クレイスさん」
僕が尋ねると少し考える仕草をしたあと僕をまっすぐ見つめてきた。
「ジェイク。おまえさん……エリシアが冒険者になったことをどう思う?」
僕は一瞬考えてしまった。でもきっとこの人なら僕がどう思っているか話してもちゃんと聞いてくれると思う。
「エリシアの昔からの夢なので本気で取り組む以上はサポートしようと思っています。いつまでもエリシアと離れ離れは嫌なので、まずはいつかケートへ移住しようと思っています。まだ準備が出来ていませんけれど」
いくらエリシアがお金を稼いでくれているとはいえ、そこまでのお金は貯まっていないしそれに周りにも話していない。さらに仕事をどうするかも決めないと。ケートで鍛冶仕事が出来るなんて思ってはいない。そこまでの腕が無いのは自覚しているからね。
「……そうか」
僕の答えに何か思うところがあるのかクレイスさんは暫く押し黙るとお茶を飲み干してから口を開いた。
「冒険者に向いている人間と向いていない人間がいる。分かるか? ジェイク」
「戦えるかどうかですよね?」
「違う、そいつはある意味どうとでもなる。いいか、今から言うのはあくまでも最悪の場合だ。必ずしもそうなるとは限らない。だが、それでも頭の片隅くらいには覚えていて欲しいことだ」
僕には分からなかった。何が向き不向きを決めるのか見当もつかない。戦えるかどうか以外に何があるというのだろうか。それにしてもそこまで言うような内容なんてあまり良さそうな話じゃなさそうだ。
「冒険者をやってるとな、上手くいっている時ってのが必ずある。それがいつまで続くのか、そのまま上に行けるのかはそいつ次第だが、一つだけ気をつけないといけない事がある」
「気をつけないといけないこと……」
僕が呟くとクレイスさんは頷いて続けた。どこか悲しそうな瞳をしながら僕を真っ直ぐ見つめてくる。昔、クレイスさんもそういう経験をしたのだろうか? 聞くわけにもいかないので気付かないふりをしておく。
「大事なものを見落とすんだ。しかも、見落としてることにすら気がつかなくなる。上手くいってる時ほどな」
「大事なものですか?」
「ああ、何のために冒険をしているのかとか、冒険の理由ではないけれど心から大事にしていたはずのもの。そういったものがまるで心から滑り落ちてしまったかのように簡単に見落としてしまう。それに気が付けるか気が付けないかが向き不向きだと俺は思っている」
「向き不向きですか」
「今まで見て来た中では強さを求めるやつや向上心の強すぎるやつ、あと冒険馬鹿に多いな。」
何も言わない僕にクレイスさんはお茶のおかわりを頼んできた。台所でお茶を淹れる僕の背にクレイスさんは問いかけてきた。
「エリシアはどちらかと言えば真っ直ぐなタイプだろう?」
「……はい、そうですね。エリシアは純粋というか真っ直ぐな性格です」
「エリシアみたいな素直なタイプは人を信じやすい。それは長所でもあるが、冒険者としては短所に近い。だからこそ仲間は大事なんだがな。話を戻すが」
クレイスさんにおかわりを渡して席に着く。
「上手くいっている時ってのはな、次の目標がハッキリ見えてくるんだ。するとどうしたらいいのか分かってくる。何が足りないのか、何が必要なのか理解できれば後は手に入れるだけだ。それに冒険者稼業に慣れて来れば習慣も変わる。それこそ元々の人間性にすら影響が出るような変わり方をする奴もいる。」
「例えば?」
「良くあるのは粗暴になったりすることだな。揉め事の解決を殴り合いで解決することもあったりする。あと上手くいっている時は金回りがいいから金銭感覚が狂う。それに冒険者に規則正しい生活の奴なんて少ないからな、生活も荒れる奴が多い。それと向いていない……だいたいの奴に起こりやすいのが一つある」
嫌な予感がする。聞きたくはないがそうもいかないだろう。
「それは?」
「物の価値観が狂うんだ。これは凄くいいマジックアイテムだとか。凄い武器だとか。その物自体の効力や価値に目が行くようになる。逆に何の効力も価値も無い物には扱いを気にしなくなる。それに元々どういう想いが込められていたのかが分からなくなる」
重かった。クレイスさんの言葉は何人もそういう冒険者を見て来たのか重みが違った。
「なぜ、そうなるんですか?」
「言ったろ、上手くいっている時は何が足りないか、何が必要か見えてくると。そういう物を補ってくれるのはなにも自分の実力だけじゃない、強力な道具や武器でもいいんだ。冒険者にとっての目標ってのは結局はランクの昇格になる。それには強さが必要不可欠だ。そうしているうちに大事なものが自分の強さや出世、もしくは冒険と言う名の非日常になっていく……もちろん、俺が向いていないという冒険者にもランクが上の奴もいる。あくまで俺が向き不向きを勝手に言っているに過ぎない」
そこまで話すとクレイスさんは窓の外を見ながら寂しそうに呟いた。
「でもな、向いていない奴が上に行った時にはな、もう最初の頃のそいつじゃないんだ。大事なものを無くした人間が他人の大事なものを護れるのか……俺は信じられん」
「エリシアが……そうだと?」
「そのタイプかもしれんと言うことだ。とはいえこれはすぐにそこまで悪化するものでもないからな。必ずそうなるというわけでもない。俺が言いたいのは気を付けて見てやれということだな」
「……分かりました。気を付けてみます」
クレイスさんの心配を僕は気のせいで済ますことが出来なかった。もし、悪い方に転べばそうなる可能性をエリシアは十分に秘めているように僕にも思えたのだから。
ただ、そうなるかもしれないという理由だけでエリシアの夢を否定することは僕には出来なかった。
次の日の朝早く、クレイスさんは出発の準備をしていた。
「泊めてもらってすまんかったな。ジェイクの作る飯は美味かったよ。また食いに来ていいか?」
「送ってもらったお礼ですから気にしないでください。いつでも歓迎しますよ、クレイスさんなら」
また来ると言ってクレイスさんは去って行った。昨日聞いた話だと、これから遠くの村へ巨人退治に行くらしい。クレイスさんくらい強くないと倒せないらしく依頼が回ってきたらしい。もしそうだとしたら冒険者って強くなればなるほど、凄腕になればなるほど自由から遠ざかっていくのかもしれない。
「今日は久しぶりに私が作るね」
依頼から帰ってきたエリシアが帰ってくるなりそんなことを言い出した。まだ胸当てとかを着けている状態で包丁を持とうとするから、僕はとりあえず落ち着くようにエリシアに言う。はいどうどう。
「どうしたの? 急に。それにまだ着替えもしていないよ?」
「うっ……着替えはします。それでええっとね、依頼で立ち寄った村の酒場で食事をしたの。そうしたらね、そこの鳥の香草焼きがとっっっても美味しかったの! 絶対ジェイクに食べさせたいって思ったからダメ元でレシピを聞いてみたんだ。そうしたらそこの村では家庭で作れる料理だったらしくて、快くレシピを教えてくれたの。もうこうなったらぜひともジェイクに食べさせたくなって……いろいろ買ってきたんだよね……」
そう言いながら持っていた袋からいろいろ取り出し始めた。鶏丸ごとに様々な香草、そして玉葱などの野菜。もしかして結構本格的な料理なんじゃないだろうか?
「……大丈夫? 最近料理やってないよね?」
「……ガンバリマス」
不安だ、何とも言えない不安が胸を襲う。前のエリシアなら心配いらなかったかもしれないけれど、最近のエリシアには荷が重いかもしれない。でも、なんでわざわざこんな大変そうな料理を?
「……いつもジェイクに迷惑かけているし、わがままも聞いてもらっているから……少しでもお礼がしたかったの。本当に美味しかったし、ジェイクに村の外の料理も教えたくて……ジェイク料理好きだから」
エリシアは両手を合わせながら恥ずかしそうに呟いた。
まさか、そんな理由で用意してくれていたなんて。僕は料理をするのは好きだし、知らない料理を習うのも好きだ。ただ僕は基本村から出ないし外の料理に触れる機会は少ない。ごくたまにケートまで行くことがあった時に、知らない料理を食べて家で再現するのが楽しみだった。薬草茶以外の僕の趣味かな。
「僕も一緒に作ってもいい? 久しぶりにエリシアと一緒に料理がしたいな」
僕がそう言うとエリシアはぱあっと顔を明るくさせた。本当に嬉しそうに笑うと僕の腕を取って立ち上がらせてくる。
「急いで着替えてくるね!」
そう言ってドタドタと部屋に駆け込んで行ったのを見届けると僕は台所の準備を始める。レシピと材料を見る限り、鶏肉に野菜とかを詰め込んで香草で臭みとかを消して味付けするタイプだと思う。正直言って二人では量が多いから後でオーベルにお裾分けでもしようかな。
それにしてもエリシアが僕のために用意してくれたのだと思うと僕は顔がにやけるのを止められなかった。
クレイスさんは意外と知的だった!?Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
エリシアは現時点で
剣術:65/120
雷魔術:25/90
体術(身のこなし):45/100
料理:8/30
な感じです。
ちなみに最近短編を投稿しました。もし良かったら読んでみてください。
『僕の幼馴染はドローンです』というタイトルです。




