2:私の初めての敵
今日も元気に薬草を探そう!
薬草採取にも慣れてきたしそろそろ違う依頼を受けてもいいかジェイクにお願いしてみようかなぁ。
そんなことを思いながら今日の採取場所へと向かう。
あらかじめ見つけておいた場所へ向かう。いつも同じ場所で採取すると無くなってしまうし、採り過ぎないように注意しているから他の人の迷惑にはなってはいないと思う。
もっとも滅多に他の人が入らない場所を中心に探しているから大丈夫だと思うけれど。
「あれ?」
ここだよね?思わずそう言いたくなるくらい今日予定していた採取場所が荒らされている。なんというか素人がわけも分からず適当に根こそぎ採ったらこうなるんじゃないかなっていう感じの荒れ具合。
「ここまでくる冒険者はあまり居ないらしいし、街の人も来ないし……いったい誰が?」
荒らされていた場所を注意深く見てみると足跡が残っているのが分かった。しかも足の大きさから
子供くらいの大きさだと思う。
足跡の見分け方は以前、ジェイクの幼馴染で狩人のオーベルから教えてもらったから間違いないと思う。
「子供なんてこんなところには……」
――ガサッ
近くの茂みが揺れたかと思うと何かが飛び出してきた。
「ギギギギ、ゴグオグン」
緑色の肌に小汚い格好をした子供くらいのモンスター。これっていわゆるゴブリンだよね?
しかも五匹も出てきた! 向こうも驚いたのかビックリしているし。
「ハッ!」
気がつけば体が動いていた。
剣を抜きながら一番近くにいた二匹のゴブリンの喉を切り裂く。そのまま返す刀でもう一体に斬りかかる。
あわててボロボロの剣で受けようとするけれど、なんとなくそのまま斬れる気がするので体に任せて剣を振りぬいた。
「ギギギ」
スッパリと剣ごと斬られたゴブリンが倒れていくのを尻目に見ながら残った二匹を警戒する。向こうも立て直したのかボロボロの剣と槍を構えているけれど明らかに怯えているみたい。
(これならいけそう!)
突き出された槍をつかんで引き寄せるとゴブリンがバランスを崩した。
無防備になったところを切り捨てて、奪った槍を残ったもう一匹に投げつけてやる。そのまま槍に貫かれたゴブリンはその場に崩れ落ちた。
「ふう~ビックリした。それにしてもなんとかなるものなんだね。ジェイクがくれた剣がなかったら危なかったなぁ。さすが私の旦那様、愛がこもってるなぁ~」
ジェイクがくれた剣が嬉しくてつい頬ずりしそうになるけれど、ついさっきゴブリンを斬ったばかりなのを思い出してやめておく。
まさか自分が戦えるなんて思っていなかったから今でも胸がドキドキしている。無意識に戦えるなんて昔読んだ冒険者のお話に出てくる主人公みたい。
「あ、そういえばたしかモンスターを狩った際には討伐した証拠が必要なんだっけ」
受付のお姉さんと他の冒険者が話しているのを聞いた覚えがある。確かゴブリンは耳だったっけ?
あまり気は進まないけれど冒険者になったんだしこういうのは避けて通ったらダメなんだと思う。
五体分の耳を切り取ってギルドに報告しに行こう!
「すみません、ゴブリンの討伐証拠持ってきたんですけれどリセリアさんいますか?」
ギルドに入ってリセリアさんを探す。
リセリアさんは冒険者登録をしてくれた真面目そうな美人受付のお姉さんだ。
この前名前を聞いてみたら教えてもらえて少しずつ仲よくなれて来ている気がする。
今日はいないのかな?
仕方が無いからクレイスさんのことを教えてくれた迫力美人の受付のお姉さんに声をかけて耳の入った袋を渡す。このお姉さんはレティシアさんと言ってなんと受付業務の責任者らしい。
「あら、ゴブリンがいたのね。えーっと……五体もいたのねってこれどこで見つけたの?」
「街の近くの森です。薬草採取をしようと思っていったら五体まとめて出てきたからビックリしました」
私がそう言うとお姉さんはピタリと動きを止めた。どうかしたのかな?
「ゴブリン単独を五回見つけたんじゃなくてまとめて五体だったのね?」
「はい」
急にお姉さんは机の上の資料を漁り始めた。なんかマズイこと言ったのかな?私。
「あの~、私なにかやらかしたのでしょうか?」
「ゴブリンは基本的に群れで巣を作るんだけど、基本的に人里には近づかないの。だからゴブリンを見つけた場合はだいたい群れからはぐれたやつだったりするんだけど、それでも二、三体で行動することが多いわ。巣の中ならボスがいるから集団行動できるみたいだけど一歩外に出れば協調性なんか無いからせいぜい二、三体でしか行動できないのよ」
そうだったんだ。ゴブリンなんか初めて見たから知らなくて当然なんだけど、ジェイクなら知ってたのかなぁ?
「ただし、これには例外があってね。巣の中にキングと呼ばれるゴブリンが生まれたら話が変わってくるの。巣の外に出ても集団行動をとるようになるし、武器や魔術なんか使うゴブリンも出てくるわ。普段は木の棒なんか振り回している連中が武器を使い出すのよ、もう最悪。そうなると放っておけばかなり危険なことになるから一刻も早く巣を見つけ出して処理する必要があるってわけ」
「そういえばボロボロの剣や槍を持っていました」
「ほぼ、決まりかしら。もちろんあなたの証言だけで動くことは出来ないけれど、偵察を出す理由にはなるから助かったわ教えてくれて……ところであなたランク一のルーキーなのに良くゴブリン五体に出会って無事だったわね」
ん?……どういうことだろう。あまり強くなかったからあれくらいなら誰でも倒せると思うんだけど。私が倒せたんだし。
「あれくらいなら誰でもやれるんじゃないんですか?」
私がそう聞くと受付のお姉さんにとんでもないと怒られてしまった。
通常ゴブリンは弱いモンスターと言われているらしく、実際に素人に毛が生えた程度でも二匹程度なら相手できるらしい。
ただし、それが五匹となると話は変わってくるらしい。パーティーを組んでいれば問題が無いけれど、一人で五匹以上の相手は一人前の冒険者でもないとなかなか油断出来ないんだって。
あれ、もしかして私結構ピンチだった?
「そうよ、危なかったんだから注意してちょうだい。もっとも一定以上の実力がある人なら何も問題が無いんだけれどね。あくまで初心者や駆け出しくらいの話だから。そういうわけでエリシアさん、あなたはランクが上がるから」
「へ?」
「これだけ戦えるならランク一で活動するのはもったいないわよ。ランクが上がると上の依頼受けられるから早くランクを上げて活躍してちょうだい」
あれ、なんか期待されている。恥ずかしいような、嬉しいような不思議な気分。
「それで一つお願いがあるんだけれど」
「なんですか?」
「私の勘だけどおそらくゴブリンキングが生まれていると思うの。だからもし調査の結果生まれていると分かれば二、三日中に巣の処分の依頼が出ると思うわ。それでこういう依頼は大規模な依頼になるから、その依頼に参加してもらえないかしら」
私が!?
素人に毛が生えたくらいなのにいいのかな?
「いいのよ、前線に出てもらうわけじゃないし。こういう依頼には駆け出しとか初心者を集めて後方支援や討ち漏らしの処分をやって経験を積んでもらうっていうのがもう一つの目的なの。後進の育成もギルドの大事な仕事の一つよ」
なるほど、それなら受けてもいいかなぁ。
もっとも生まれていなかったら依頼は出ないわけで、明日状況がハッキリするのを待つしかないよね。
今日は家に帰る手段が無くてケートに宿を取っていたから、明日ギルドで確かめることはできそうだね。
まぁ、もっとも明日の夕食には家に帰ると約束をしているから帰らないといけないけれど。
明後日の朝早く出発するペンテ爺さんに頼めば昼ごろにはケートに戻れるはず。だから依頼にも間に合うと思う。
ジェイクには依頼を受けたことを事後報告になるけれどジェイクなら許してくれるよね?……たぶん。
次の日お昼ごろギルドへ向かうと何やら騒がしいみたい。入ってみると掲示板に大きく張り紙がしてある。
「ゴブリンキングの討伐と巣の処理かぁ。やっぱりいたんだ」
「あら、エリシアさんこんにちは。掲示板の依頼をみられたようですね」
受付のお姉さんのリセリアさんが声をかけてきた。あれ、いつもピシッとしているのに今日は少しくたびれているみたい。やっぱり忙しいのかな?
「なんか、大変そうですね」
「どうしても大掛かりな依頼になる分やることも多いので」
ギルドも大変なんだなぁ。書類仕事なんか私には無理だろうなぁ。文字ばかり見てたら頭痛くなりそうだし。
「依頼は明後日の朝、南門に集合かぁ。これなら間に合うかな」
「どこか行かれるのですか?」
「いったん家に帰らないといけないんです。旦那様に無理を言って冒険者やらせてもらっているのでちょくちょく帰らないと心配かけてしまうし……それに会いたくなるので」
素直に自分のことを話してみたけれどちょっと話しすぎたかも……恥ずかしい。
「ご結婚されていたんですね。そうですか、分かりました。時間に間に合えば問題は無いので気をつけて帰ってくださいね」
「はい。もっともまだ帰るまでに時間があるから薬草採取くらいはしてから帰りますけどね」
リセリアさんにそう言って今日の薬草採取をしに街の外へと出発する。実は薬草採取だけではなくて人気の無い場所で剣の素振りとかの練習も始めてみたりしていた。
あのときのゴブリンと戦ったときからなんとなく剣の使い方が分かった気がして、素振りとかをしていろいろ試してみているんだ。
やればやるほどしっくり来るというか戦い方が頭に浮かんでくるようになってくる。だから今度の討伐依頼も少し楽しみだったりする。
もっとも討ち漏らしが来るくらいで大した敵なんて来ないのは分かっているけれど、それでもつい期待してしまうのはどうしてなんだろう?
そうこうしているうちに村に連れて行ってくれる商人さんに乗せてもらう時間になった。一日ジェイクに会えないだけなのに会いたくなっているだなんて私も寂しがりやなのかな?
家に帰って夕食後に昨日あった出来事をジェイクに話してみたらビックリさせてしまったみたい。
まぁ、ゴブリンと戦ったって言ったらビックリするのは当然だよね。
流石に心配されてしまいました。
冒険者を続けることに反対されそうになったけれど、ちゃんと自分の気持ちと夢への想いを話したらなんとか納得してくれた……というよりもさせたというか。
だから半年以内にランクを上げられたら、もう一年だけ冒険者をやらせてもらえるようお願いをしてみた。無理な依頼の受け方はしないっていうのも忘れない。
ランクを上げるのは簡単じゃないから自分の可能性への挑戦にもなるしね。
「それでね、ジェイク。実は言わないといけないことがあるんだ」
うう、言い辛いけれど言わないといけないから、ゴブリンキングのことを切り出してみようかな。
ジェイク怒るかなぁ?
「今回のゴブリンはねどうやら偵察隊だったらしく、近くに巣があるんじゃないかと言う話になったの」
「それで、どういう依頼を受けたの?」
凄い!まだ依頼のことを話していないのに分かるなんてジェイクは頭良いなぁ。
さすが私の旦那様。
驚いて私が聞くとジェイクは笑いながら答えてくれる。
「君の様子と状況を考えれば予測はつくよ」
そうなんだ、私分かりやすいのかな? とにかく説明はしておかないと。
「ギルドから討ち漏らしの討伐だけでいいから出てくれないかって言われたの。もちろんランクも低いから後方に配置になるだろうって言ってはいたけど。あと、最悪二、三日かかるって言われたんだ……だから」
後方に配置なので基本的には安全だということとギルドからの依頼をだということもちゃんと説明しておくのを忘れない。
「分かったよ、それなら仕方ないよ。それに君と約束したんだ。反対するのは約束破りになる」
「ありがとう~ジェイク~」
さすがジェイク、優しいなぁ。私は嬉しくてジェイクに抱きついた。
「危ないところに自分から近づいたらダメだからね。冒険者は無用のリスクは冒さないんだろう?」
「もちろん、それに私にはこの指輪があるしね。これがある限り私にはジェイクがいるって教えてくれるから。あなたがいるのに無用の危険を冒すことなんて出来ないもの」
右手の中指に嵌めた結婚指輪を見せてちゃんと約束をする。この私達の夫婦の証がきっと悪い運命なんかから守ってくれるはず。どんな指輪よりも世界で一番大事な私の宝物。
だから行ってくるね旦那様!
貨幣設定はこんな感じです。
銅貨 約十円
大銅貨 銅貨10枚 約百円
聖銅貨 大銅貨10枚 約千円
銀貨 銅貨10枚 約一万円
金貨 銀貨10枚 約十万円
大金貨 金貨10枚 約百万円
聖金貨 大金貨10枚 約一千万円
となっています。