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1:私の夢は冒険者でした

世界は別の世界ですが「君は笑っていて」と同じシリーズの話になります。


「あのねジェイク、私……冒険者になりたいの」


 ある心地のいい昼下がりのこと。

 

 私は最愛の旦那様ジェイクにかねてからの夢をとうとう話すことにしたのです。


「急にどうしたの? エリシア」


 ジェイクが夕飯の片付けをしていた手を止めてこちらへやってきた。


 ジェイクは背は高くないけれど優しい目と穏やかな声は私を安心させてくれる。ブラウンの髪に隠れがちな青い目を下から覗き込んでみる。


「私が昔から、冒険者に憧れていたのは知っているでしょう? ジェイク」


 大分あざといと分かっていたけれど、結婚して二年経つのに今でも顔を赤くしてくれる旦那様が大好き。


 ジェイクと結婚したのは二年前。


 ジェイクともう一人の幼馴染の三人でよく遊んでいたけれど、私は気がついたらいつもジェイクと一緒にいた。


 ジェイクのお父さんとお母さんも優しくてよく可愛がってもらった思い出がある。よくジェイクのお母さんお手製のお菓子を貰っていたっけな。


 そんな日々も私が十二の頃に変わってしまう。流行病で多くの人が亡くなって、その中にジェイクの両親が含まれていた。 


 幸い私は誰も家族を失わずに済んだけれどジェイクは独りぼっちになってしまった。


 だから私はジェイクの側にいることを心がけていたんだけど、気が付いたらジェイクを好きだと思うようになっていた。だから結婚したのは当然の成り行きだと思う。


 うん、我ながらいい決断だったと自分で自分を褒めたいな。


 ただ、どうしても諦めることが出来ないでいる夢があって、それが冒険者だった。


 幼い時にジェイクとお手伝いの一環で近所の森に木の実などを採りに行った時にたまたまゴブリンに出会ったことがあった。


 身動き一つ出来ない私をかばうようにジェイクが守ろうと立ち塞がってくれたけれど、所詮子供だった私達は無力だった。


 そんな時だった、私達の前に冒険者が飛び込んできてあっという間にゴブリンを斬り伏せてしまった。


 私は今でも忘れたことはない、流れるような身のこなしも鋭く光る剣の輝きも。

 

 それ以来私は冒険者に憧れた。


 私もあんな風に剣を振るってみたい。


 あんな風にワクワクするような冒険をしてみたい!


 ずっと我慢していたけれど私ももう一六才。冒険者を始めるのなら今から始めないと遅いくらいで。だから、とうとう私はジェイクにおねだりしてみることにしたの。


「それに今ならまだ間に合うし、年齢的に」


「それは……まぁ、そうだけどね」

 

 当然ジェイクが渋るのは分かっていたけど、ここで引き下がるわけにはいかない。


 幸いなことに女性が冒険者をやることは増えてきているらしい。元々才能さえあれば強くなることは出来るからやってみなければ分からないと主張できるかな?

 昔は女性は戦えても冒険者はしなかったらしいから、出来るようになった今の時代に感謝しないと。


 ジェイクが落ち着いてと言いながら出してきたお茶を飲みながら、予め考えておいた説得プランを頭の中で再確認。


「冒険者になるって言ってもどうするんだい? このペルナ村にはギルドの支部なんか無いし、依頼も無いよ?」


 その質問は予測済み。バッチリちゃんと考えてある。


「ほら、領主様のいる領都ケートまで行けばあるわ。毎日領主様の館にミルクを納めに行くペンテ爺さんが連れて行ってくれるって約束してくれたの!」


 私がそう言うとジェイクは困ったようにこめかみを押さえながら更に質問を重ねてきた。防具はどうするのか、武器はどうするつもりなのかと。


 分かってます、家にお金があまり無いのは理解しています。


 防具は既に引退した冒険者から革の胸当てを貰っているので問題はない。サイズは調整しないといけないけれど、幸いにも近いサイズだったからそんなに手を加えなくてもいける筈。


 ただ剣だけは手に入らなかったので・・・ジェイクに作ってもらえないかなぁ?と説明するついでに甘えてみた。


 ジェイクは村で唯一の鍛冶師兼雑用屋だから作れないかなぁって。


 さすがにワガママを言っている自覚はあるからちょっぴり……いや、だいぶ不安です。


「ショートソードくらいなら僕でも何とかいけるかなぁ? あまり出来がいいとは言えないと思うけれど」


「うん、それでいいよ。やっぱり大事な旦那様の用意してくれた物が欲しいもの」


 さすが私の旦那様、優しくて頼りになるんだから。


 その後なんとか渋るジェイクに頼み込んで、比較的安全な薬草採取しかしないという約束の元で認めてもらうことに成功した。


 やった!これで私も冒険者になれるんだ!


 嬉しくてたまらない私はジェイクにたっぷり感謝の気持ちと愛を伝えておこうと決心した。今夜はたっぷりサービスしようかな……きっと嬉しくて寝られないだろうし。




 領都ケートは大きくて田舎者の私にはまぶしかった。


 通りには出店が並び冒険者や朝食を食べに来た人たちでごったがえしている。


 街並は華やかで手入れされた花壇には綺麗な花が咲いていた。


 今日からここで冒険できるんだ! 


 今までにも来たことはあるけれど、村では手に入らない買い物をしに来ただけだった。


 だからいろいろと見て回るのも楽しみだ。


 ただし、その前に冒険者ギルドに行かないといけないんだった。ギルドはどこだろう?


 剣と翼の看板が下がっているところだって予め聞いておいたので街を観光しつつ探してみよう。


 しばらくウロウロとしながら歩いていると大きな建物に剣と翼の看板が下がっていた。


 あれだ! ここに間違いないよ。


「こんにちは~」


 おそるおそる入ってみると中にはいろいろな人がいた。お酒を飲んでいる人や掲示板の前でうなっている人。受付の前で怒鳴っている人もいる。


 うわ~、おっかない人もいるんだなぁ。これが冒険者なんだ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。何かご用ですか?」


 きょろきょろとしていた私は目立っていたのか受付のお姉さんが声をかけてきた。真面目そうな美人さんだ。


「えっと、冒険者になりたいのですけれど……」


「かしこまりました。それではここにお名前などを書いていただけますか?」


 そう言って紙を渡されたのだけどこれって村では上等な紙だったやつだよね。さすが領都にもなると使っている紙も違うんだなぁ。


 文字は村長が教えてくれたから名前は問題なく書ける。特技は何を書けばいいのかな?


「この特技って言うのは?」


「自己申告制ですから特に考えなくてもいいですよ。後から追加も出来ますし」


 そうなんだ、ならとりあえず何も書かないでおこう。


「はい、これでいいですよ。依頼はそこの掲示板を見てください。おススメの依頼や常駐型の依頼はそこにありますので、最初のうちはおススメや簡単な常駐型の依頼を受けるといいですよ。ランクが書いてある依頼もありますが登録したばかりなので書いていない依頼をおススメします」


 ランクっていうのがあるとは知ってたけれどどういうことなのか分からないなぁ。聞いてみようかな。


「ランクは一から始まって順番に上がっていきます。依頼の成功や討伐数などで上がっていきます。注意して欲しいのはあくまでも目安でその人の実力を保証するものではないということです。なのでランクにあった依頼でもきちんと精査してから受けるようにしたほうが安全ですよ。」


 自分で判断しないといけないんだね。


「なお自分のランクより上の依頼を受けることも可能ですが、その場合はギルドは何もサポートはしませんので注意してください」


 なるほど、あくまでも他人から見た実力の目安という意味なんだ。あとはギルドの責任の範囲も決めてあるんだね。


 ジェイクが昔いろいろ話してくれた他人の評価と責任の範囲っていうお話を聞いてなかったら分からなかったなぁ。

 

 まずはお姉さんが教えてくれた通りに掲示板の依頼を見てみよう。薬草採取とかがいいかな、村でも薬草は集めていたし。


「ほう、お前さん今日が始めてか?」


 掲示板をみていると後ろから声がかけられた。振り返って見てみるとそこには背の高い男の人が立っていた。顔に走った大きな傷とに背負った大剣が目立つ、なんか凄腕って感じの冒険者。


「はい、まずは薬草でも探そうかなって。薬草なら少しは詳しいから見分けられるし」


「なるほどな、確かにそれなら薬草採取が一番いいだろうしな。常駐依頼だから失敗もないしな」


 失敗がない?どういうことだろう。


「ああ、悪い悪い。こういう常駐依頼は指定された品を持って来るのが仕事であってノルマがないんだ。その代わり持って来た分の買取だから品質や量で報酬が変わるというシステムだな。だから失敗は無いんだ、なにせ持って来れない場合はただ報酬が無いだけだからな」


 なるほど。これなら気軽に挑戦できそうだね。


「ありがとうございます」


「行くなら南門の東の方にある森を進んで行くと割りと見つかるぜ。まぁ、あまり採り過ぎなければ問題にはならん」


 それはいい情報だ。でもどうしてここまで親切に教えてくれるのだろう?


「どうしてここまで親切にしてくれるのですか?」


 聞いてみると真面目そうな美人さんの横にいた別の受付のお姉さんが横から教えてくれた。同じ女性の私から見ても色っぽい迫力美人さんだ。


「その人は“巨人殺し”のクレイスっていう一流の冒険者なんだけど、趣味は新人冒険者へのお節介っていう変わり者なのよ。あなたみたいな新人にいつも薬草のポイントを教えたりしているわ」


 そんな凄い人だったんだ! びっくり。


「ま、そういう訳で行くなら気を付けて行きな」


 クレイスさんがそう言ってくれたのでとりあえず行って見ようかな。私はクレイスさんと受付のお姉さんにお礼を言うとギルドを出て森へと向かって歩き出した。




 教えられた通り南門から出て東の森へやってきた。薬草自体はジェイクに教えてもらっているから探すのは得意な方だったりする。


「ここらへんかな~」


 ジェイクに教えてもらった希少価値が高い薬草の見つけ方を押さえつつ探してみると意外と多く見つかった。もっとも採り過ぎたらいけないから適当に質の良さそうな物を見繕っておく。


「これぐらいあれば十分かな」


 十株くらい集まったのでここら辺で切り上げておこうかな。いくらになるかは分からないけれど少しは良い結果になるといいな。


 それにそろそろギルドに行って清算してもらわないと待ち合わせの時間に間に合いそうにないかな。


 今日は行商のおじさんに乗せてもらって帰ることを条件にジェイクからケートに行くことを許してもらえたので約束は守らないと。


 少しずつやっていけばジェイクも安心してくれると思うし、いろんな冒険に出ることも許してくれると思う。




「すみませーん。薬草買取お願いします」


 ギルドに入って受付のお姉さんにお願いするとしよう。探してみるとあの真面目そうな美人さんがいた。


「あら、早かったんですね。それでは少々お待ちください」


 お姉さんはそう言うと奥の方に薬草を持って行ってしまった。しばらく待ってみると結構な金額を持ってやってきた。


「……意外と多いんですね」


「高価な薬草を良い状態で持って来てくれたからですよ。通常はこんなになりませんよ」


 以前、ジェイクが教えてくれた薬草ってこんなに高いんだ。


 報酬は銀貨一枚にもなっていてビックリ。普通の平民は贅沢をしなければ一月に銀貨七~八枚くらいで暮らしていける。


 いくら状態が良かったからって薬草でこんなに儲かるなんて冒険者って凄い。


「通常は聖銅貨三~四枚くらいなんですけれど、ここまで上手に採取してくれているのは珍しいのと高価な薬草だったのが理由ですね。だから毎回こんな風に上手くいくと思ったらダメですよ」


 受付のお姉さんがそう言って渡してくれた。確か聖銅貨十枚で銀貨一枚だったはず。


 村では自給自足の生活もあってあまりお金を稼ぐことはなかったから自分で稼いだと思うとなんか嬉しい。ジェイクが教えてくれた技術が役に立ったって教えてあげなくちゃ。


 受付のお姉さんに挨拶をしてから待ち合わせの場所へと向かう。今日はこのまま村へと帰ることになるけれど、また直ぐに来たいなぁ。


 結局それから一週間で二回ほど薬草採取を達成することが出来て薬草採取はもう慣れた。


 さぁ、今日も薬草採取を始めようかな。

彼女の冒険はこれからだ!……打ち切りませんよ?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 薬草にも色々ありそうだから早いうちに鑑定できるくらいに、良い薬草と普通の薬草の差がわかるようになると良いですね。
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