12:私の失敗
「しかし、たまたまだが間に合ってよかった」
ギルドで借りた馬に乗って“勇気の盾”の皆と一緒に壊滅した村へと向かっていた。
「ラルフさん達が来てくれて助かりました。」
レイラがラルフさんにお礼を言うと気にするなと笑ってくれた。なんていうか頼れるお兄さん達なんだよね“勇気の盾”は。
「それにしてもお前さんたちは最初から比べると随分いい装備に変えたな」
オイゲンさんが私達を見てそう言う。それはそうでしょう、私は胸当てに篭手、脛当てを装備しているし、レイラは上等なローブに手袋。アニーに至ってはローブ以外に胸当てとさらにごっついメイスを買っていたし、シェリアは斧を新調して部分鎧もいい材質のモノに変えたって言っていたっけ?
「あれから稼げるようになったからねー」
「もう少しで追いつけるかもしれませんね? “疾風の勇者”様」
私の軽口にラルフさん達は嬉しそうに笑ってくれた。最近、ラルフさんは“疾風の勇者”と呼ばれ始めてきているらしい。なんでも疾風のように振るわれる剣にちなんだとか。ラルフさんはかっこいいから勇者も似合うと思うしね。
そんなラルフさんが率いている“勇気の盾”はランク五だから私達の一つ上。目標でもあるし憧れでもあるんだよね。
「そうだ、エリシア。この前助けてもらったお礼をしたいんだが、その品を今度一緒に買いに行かないか?」
「一緒に?」
「あぁ、何を贈ればいいか悩むというか、それなら一緒に買いに行けばいいかなと思ってな」
うぅん、気持ちは嬉しいけれどそれはダメだね。さすがに旦那様以外の男性と二人で買い物に行く気はないかな。
「夫がいるのでさすがに二人でというのはお断りします。お気持ちだけで嬉しいですよ」
「そうか、なら贈り物はしてもいいかな?」
どうしようかなぁ。あんまり意固地に断るのもマズいよね?
「それくらいなら貰っとけば? 何贈るかは私がラルフさんと買いに行って選んであげるからさ」
アニーが助け舟を出してくれたので喜んで乗ろうっと。
「じゃあ、それでお願いします」
ラルフさんは良かったと胸を撫でおろしていたけれどあまり気にしなくてもいいのにね。
村へと着くとそこには焼け焦げた家に真っ黒な人だったモノ……酷いありさまだった。
「ちっ、嫌なもんだね」
「生き残った方がいて良かったとは言えませんね」
シェリアもレイラも言葉がないみたい。
私も言葉が出なかった。冒険者をやっていれば人の死体を見ることはあるけれど、こんな死に様を見たのは初めてだった。死に様に良いも悪いもないかもしれないけれど。
「それでどうやってワイバーンを始末するつもり?」
先に様子を見に行っていたコントールさんが戻ってきたみたい。
「ワイバーンはお腹が空いていないでしょうから餌で釣るのは難しいと思います。なのでこれを用意しました」
そう言ってレイラが取り出したのはなんかすごい匂いのする袋? この匂いどこかで嗅いだような?
「フレイムリザードのフェロモンか?」
オイゲンさんが感心したように呟いた。というかそんなの用意していたんだレイラは。
「ワイバーンと聞いてすぐに用意していたもんな。流石だね、あたしらのリーダーは」
「ワイバーンは鼻が利きますから他の魔物の匂いが強ければ必ず来ます。ましてや同じ亜竜種なら効果は覿面です」
匂い袋を持ってきた肉の中に隠してワイバーンが来るまで隠れておくことにする。罠はどうするのと確認したら網を用意しておいたからそれを使うんだって。金属製の網だから罠にかかったらそこに雷の魔術を使って一網打尽の予定だと……一応警戒しておこう。
「……来たようです」
コントールさんが隠れている私達に手で合図をしてくれている。
そこへ匂い袋に釣られてやって来たワイバーン五匹が肉を調べるように突っつき始めた。結構な量を用意したのにすぐに無くなりそう。
そこへシェリア達が網を投げつけた。うまく五匹まとめて捕まえることが出来たみたい。よし、これなら……。
「「サンダーレイン!」」
私とレイラの魔術が発動する。雷の雨が降り注ぎワイバーンを焼いていく。
あっ! 一匹抜けだした! ここで逃がすわけには行かない!
「斬れろぉぉぉ!」
とっさに私は飛び出して魔力の刃を飛ばす。そのまま刃はワイバーンの翼を切り裂いていく。切り裂かれたワイバーンは飛べなくなって地面でのたうち回ることしか出来なくなった。
苦しませる趣味は無いからそのまま首を撥ねて楽にさせてあげる。
「エリシア……今のは?」
ラルフさんが驚いた顔をしている。それもそうだよね、これは非常識らしいから。
「ええと、最近覚えた技です」
「技とかそういう次元かね」
オイゲンさんも呆れ顔だった。なんで呆れられてるんだろう?
作戦が上手くいったからこちらの被害もないし討伐自体は大成功なんだけど、やっぱりこの被害を見てしまうと純粋には喜べないな。
「それでは急いで片づけをしましょう」
レイラが私の方を見ながらそう急かせてきた。うん、気を遣わせてしまったね……みんなごめん。
私は帰ってからジェイクになんて謝ろうかと頭を抱えてしまった。
結局ケートに戻ってくるまでに一週間かかってしまった。ワイバーン五匹の片づけは簡単じゃなくて時間がかかってしまったのが理由だったりする。
ケートに到着したのは日も暮れかける頃で今から村に帰るには遅いよね……はぁ、仕方ないよね。
「ごめんね、皆……気を遣わせて」
「気にしないで明日の朝急いで帰りな」
「馬はまだ借りておきますから、馬で帰ってください」
シェリアとレイラがそう言ってくれるからお言葉に甘えてみようかな。
朝、急いで準備をして馬に跨る。
「朝早くごめんね。ちょっと急いでいるから頑張ってもらえるかな?」
馬の首を撫でながら謝っておく。馬だって朝からこき使われたら嫌だろうしね。
お願いが効いたのか馬は頑張ってくれました。なんとか午前中には家にたどり着くことが出来たみたい。家の様子を遠巻きに窺ってみるけれど静かで逆に怖くなってきたんだけど。
絶対ジェイク怒ってるだろうなぁ……私が悪いんだし覚悟を決めて行こうかな。
「……ただいま~」
恐る恐る家に入って行くとジェイクが飛び出してきた。今まで見たことないくらい真剣な顔をしている。私は優しいこの人にどれだけの心配をかけてしまったんだろうか?
「おかえり、エリシア……無事でよかっ……た」
「泣いているの? ジェイク」
肩を震わせながら声を絞り出すジェイクの姿に私はとても胸が苦しくなった。どれだけ身勝手なことをしてしまったのだろうか。
簡単に連絡を取ることが出来ないとしても伝言くらいは出来たはずだった。
だからこれは私のせいだ。
「ごめんね、ジェイク」
謝ることしか出来ない私はただジェイクが落ち着くまでその背中を撫でることしか出来なかった。
それから私はしばらく日帰りの依頼しか受けないように決めた。みんなに相談したらその方がいいと言ってくれたし、アニーからはちゃんとジェイクと話し合ったほうが良いと忠告されてしまったくらい。
「近場で野盗退治なんて嬉しくないんだけれどね」
「まぁ、治安が悪くなるのは嫌だけど儲けに繋がるこの悩みってやつだねー」
そんなある日の野盗討伐の依頼の帰り、シェリアのぼやきにアニーが答える。
今日はケートに向かう街道に野盗が出るって言うからその討伐依頼を受けたんだけど、それってここら辺に出るってことだから治安が悪化しているってことなんだよね?
数年前に隣国が侵攻されて戦になったらしいんだけれど、その時の兵士とか農民が野盗崩れになってこっちに流れてきているんじゃないかって話なんだよね。
ケートの近くだから馬さえ借りれば日帰りで村に帰れるし、これなら受けることも出来るからね。
「みんな、ありがとう」
「仲間だから気にしないで下さい」
「家族は大事にするもんだからね」
「まぁ、ランク昇格は遠のくけれどその為だけに冒険者やってないしね、にひひ」
私の仲間は優しくて頼りになる素晴らしい人ばかりだと思う、心から。なにか返すことは出来ないのかな?
やっぱり依頼で長い期間家にいないことをジェイクとちゃんと話さないとね。
「エリシア、少しいいか?」
家に帰ろうと馬に荷物を積んでいるとラルフさんが声をかけてきた。
「はい、どうかしましたか?」
「この前話していたお礼の件だが」
「ああ、あれですか。はい、覚えていますけど」
「これを受け取ってもらえないか?」
そう言って渡されたのは美しい金の装飾で縁取られ、中央に青い宝玉のようなものが埋め込まれていたネックレスだった……って、え?
いやいやいや、こんなものは貰うわけにはいかないというか高いものでしょう?……これ。
「あのー、さすがにこれは……」
「それは防護のタリスマンと言ってマジックアイテムなんだ。身に着けるだけで身の守りが上がるものだから冒険の最中にでも使ってもらえると助かる」
これがアニーの持っていたマジックアイテムと同じようなモノなんだ!?
驚いてしまった私はついマジマジと見てしまう。近いうち見に行こうと思っていたけれどなかなか見に行けていないんだよね。
「でも、結婚しているのでネックレスはちょっと……」
そう言って断ろうとした時アニーがやって来るのが見えた。
「にひひ、うまく渡せたー?……ってあれ? なんかあった?」
「えっとね」
アニーに私には夫がいるから装飾品はちょっとと伝えることにした。
「ふぅむ、言いたいことは分かったよ。エリシア」
「えっとだからね」
「でもそれは根本から間違っている!」
え? どういうこと?
「エリシアの言いたいことも分かるけれど、それ装飾品と言うよりもマジックアイテムが主な役割なんだから身につけないと意味が無いんだよ? それにそれは私も一緒に選んだやつなんだ。エリシアに似合うかなって思ったんだけどどうかなー?。それに家で着けないで依頼中だけにすればいいじゃん。それともそれすら嫌?」
そう言われると困るなぁ。
気持ちは嬉しいし、憧れのマジックアイテムだから助かるんだけれど……良いのかなぁ?
「それともジェイクさんは仕事道具に文句を言うような人なの?」
「仕事道具?」
「マジックアイテムは冒険者の仕事道具の一つだよ。それに変な勘繰りをする方がどうかと私は思うなー」
ジェイクは仕事道具の大事さは理解しているからそんなことで怒らないと思うけれど。
「なら貰っておきなって。冒険者同士の間ではこういうお礼をすることだってあるらしいよ。エリシアだけが特別なわけじゃないからさ」
ラルフさんを見てみると頷いている。そっか、これって珍しいことじゃないんだ。
―――なら
「分かりました。ありがとうございます」
「良かったぁ~、そうだエリシア付けてみてよ」
私はネックレスを下げてみる。なんかしっくりと来る感じが気に入ったかも。
「見えるところにあるのが気になるなら服の中に入れとけば良いよ」
アニーのアドバイスに従って服の内側に入れておくことにしようかな。
「ありがとうございます、ラルフさん」
お礼を言うと元々お礼だから気にすると言われてしまった。
二人にまたと声をかけて家路へと急ぐ。日が沈む前に帰らないとね。
今帰るよ~旦那様。




