11:私とアニーの寝れない夜
「ごちそうさまでした」
ジェイクが用意してくれた夕食を私は心のままに食べていく。最近依頼とかで忙しくなってきたから早く食べる習慣がついちゃったけれど食べられるならそれでいいし、味は変わらないもんね。美味しいものは美味しいんだから。
いつものように五分くらいで食べ終わった私は食器を台所へ持っていく。さすが旦那様のご飯、いつも美味しいね。
美味しかったと伝えるとジェイクは良かったと返事をくれた。
台所に入って食器を置くと私はなんとなく口寂しさを覚えてお酒を探してみる。いつも依頼を成功させた日に皆と宴会したりしているから、なんだか飲まないと物足りなく感じてしまうんだよね。
とはいえお酒ないなぁ。いろいろ探して見たれど置いていないみたい。今から買いに行くにしてもケートと違って村のお店は閉まっているし、酒場に行くのは流石に気が引ける。そうだ、ジェイクに聞いてみようっと。
「ねぇ、ジェイク。お酒無い~?」
台所から顔を出して聞いてみる。
「基本、飲まないから無いけど」
「そっか~」
あれ、ジェイクはお酒飲まないんだっけ? つい、いつも一緒にいるメンバーが飲むから飲むのが当たり前になってるんだなぁ……はぁ、残念。
「最近、よくみんなと飲むからつい欲しくなるんだよね~」
しょうがないや。無いなら無いで諦めようっと。明日はケートに行く日だし今日はもう寝ようっと。
今日は厚手のシャツに長めのズボンを着ているけれどこのまま寝ようかな。
最近はこの格好で寝るようにしているんだけど着替えずに寝れるのが楽でいいよね。それにこの格好ならすぐに装備を着けて冒険に出れるから都合がいいんだよね。
教えてくれたアニーとラルフさんには感謝だよ。最近ラルフさんがいろいろ教えてくれたおかげで知識が増えた気がする。お酒の飲み方なんかも教えてくれたんだよね。おかげ他の冒険者と飲む時に役立っている。
ジェイクに寝るねと言うとおやすみなさいって聞こえてきた。少し声に元気がない気がしたけれど気のせいかな?
ジェイクなら何かあれば相談してくれるはずだから多分、気のせいだね。
「それじゃ、一週間位で帰るから」
次の日、準備万端な私はジェイクにちゃんと帰ってくるよって想いを込めて予定を告げた。ちょっと面倒な依頼だからそれくらいかかるということは伝えておいたから大丈夫でしょう。
手を振ってくれるジェイクに手を振り返して私は連れて行ってくれる行商のおじさんとの待ち合わせ場所まで走っていく。
――本当はジェイクもケートに来てくれればなんて少しだけ思っちゃうのはダメだよね。
今回は私達“女神の剣”の仲間だけで依頼を受けていた。
ケートから少し離れた所にある村でアンデッドが発生したとかなんとか。近くの山にどうやら野盗の拠点があったらしいんだけれど、それが何らかの理由で壊滅していたらしくてそれに気が付かなかったんだって。
で、そのまま放置したからアンデッド化したみたい。通常は放置したからって必ずアンデッドになるわけじゃないんだけれど今回は運が悪かったみたい。
「今回は私が活躍する出番でしょう!」
アニーが胸を張って自信満々だ。癒し手はアンデッド相手なら有効な手段をいくつも持っているって以前聞いていたから、今回はアニーが自信満々なのは当然だと思う。
「頼んだよ、アニー」
「ゾンビなら私も炎で焼き払うつもりですが……」
「骨は浄化したほうが早いからね」
あれ? もしかしてアンデッド相手に剣士は不利? ゾンビとスケルトンの対処法は知っているけれど、ゴーストはどうすれば?
「魔剣ならゴーストも斬れますよ」
「そうだったんだ。まだ魔剣については勉強不足だなぁ」
「その分忘れなければいいと私は思うけどね。ほら、行くよ」
シェリアの言う通りだね。それじゃ、いっちょやりますか。
「これは参ったね、嘘だろう? こんなの」
シェリアが呆然としてる。
うん、私もこんなに驚かれるとは思っていなかったんだよ? 本当だよ?
「うわぁ、ちょっとビックリ」
アニーまでそんな顔しないでってば!
「驚きました。遠い東方の地で使う人がいるとは聞いていましたが、まさか本当に斬撃を飛ばす人がいるなんて……」
レイラお願いだからそこでやめないで。なんか私がヤバい人みたいだから。
以前何となくクロノスフィアに魔力を乗せてみたらみたら馴染んだことがあったんだけれど、そのとき思い切って振りぬいて飛ばすイメージをやってみたら出来たんだよね。
陰でこっそり練習してて、今回のアンデッド討伐で使ってみたんだけれど、みんなに引かれました。
グスン……だってゾンビを直接斬るのは嫌だったんだもん。
「おっと、いつまでも呆けていたらマズいよ、皆」
シェリアの言う通りだよ皆。もうこうなったらやけだ! まとめて魔力斬で叩き斬ってやる!
「そうだね、エリシアはゴーストお願ーい。私は骨いっとく……ホーリーヒューネラル!」
アニーが淡い光を放つとスケルトン達が砂のように崩れていく。
これは負けていられないね、私も行くよ!
「魔力斬り!」
ゴーストをまとめて斬り飛ばしていく。魔剣の力で本来斬れないゴーストも一刀両断だね。
「アニーはそのまま浄化を続けてください。ゾンビは私が! フレイムストーム!」
レイラの魔術が炎の嵐となってゾンビを焼き尽くしていく。それにしてもレイラの魔術は凄いよね、エリート魔術師ってこんなに凄いのか、それともレイラが凄いのかどっちなんだろう?
「あたしがいる限り二人には近づかせないよ!」
シェリアの斧が唸りをあげてスケルトンの腰骨を砕く。うん、ああなったら復活も出来ないよね、流石シェリア。皆を守るのはシェリアが一番頼りになるよ。
気が付けば二十五体ほどいたアンデッドは全部倒し終えていた。私達はここまで強くなってきたんだ、凄く嬉しいよ!
ジェイクにここまで出来るようになったって褒めて欲しいな。
早く帰って褒めてもらいたいけれど、ちょっとだけ物足りないこの感じは何なのかな?……もうちょっと冒険したいなって。
「ねぇねぇ、エリシア」
依頼してきた村の人が用意してくれた部屋で今日は寝ることが出来たのだけれども、何となく眠れなかった私は外の空気を吸いに外に出た。村には魔物避けの結界があるから安全だし。
一応クロノスフィアは持ってきたけれど。
私の後を追ってきたのかな? アニーが後ろにいた。
「アニーも眠れないの?」
外套を羽織ってちょっと寒そうにしているけれど帰る気はないみたい。
「ううん、ちょっとエリシアと話したかったんだー」
「何の話?」
「雑談、にひひ」
アニーは私の横に座るとそのまま寝ころび始めた。
「汚れるよ」
「大丈夫大丈夫」
アニーったら結構おおざっぱというか何と言うか。小柄で淡いブラウンの髪を持つ可愛らしい見た目をしているのにそういうところがあるんだよね。見た目とのギャップってやつかな。
「ねぇ、エリシア。ジェイクさんて凄いよね」
「どうしたの? いきなり」
「だってさ、奥さんがこうやって冒険者してても怒らないんでしょ? 普通反対してやらせてくれないと思うけどなぁ」
「……うん、それは私もそう思う」
本当にジェイクは凄いよね。だからいつも感謝しているんだ……もっとも最近あまり家にいないから申し訳ない気持ちもあるんだよね……はぁ。
「どうしたの?」
「うーん、ジェイクに甘えているなぁって思ってさ」
「そうかなぁ? だって納得ずくでやってるんでしょう?」
「そうだけれど……」
「それにさ、依頼で稼いできたお金は家に入れているんでしょう?」
うん、それは間違いなく入れている。正直、冒険者やる前より大分貯まってきている。
「だったらいいじゃん」
「え?」
「家族のためにお金を稼いでくることが悪いことなわけないじゃん。そりゃ、お金も入れず遊んでいたらダメだけどエリシアは違うじゃん。だからそこまで自分を悪く言う必要ないよ」
そうなのかなぁ……そういうものなのかな?
「もし、それでも申し訳ないならお土産でも買って帰ればいいんだよ」
なるほど、それは悪くないかも。アニーは良いこと言うなぁ。
「ありがとう、アニー」
「どういたしまして。それにしても理解がある旦那さんって羨ましー。あたしもそんな旦那欲しいなぁ」
「アニーはそういう人が良いんだ?」
「理想を言うならね。もちろん冒険者でもいいよ、ラルフさんみたいな人とか」
あら? やっぱりアニーはラルフさんが好きだったんだ。なるほどなぁ。
「アニーはラルフさんが好きだったんだね、そうじゃないかと思ってはいたけれど」
「いやいやいや、違う違う。あくまでも例えで私はラルフさんはお断りー。好みはどちらかと言うともうちょっと男らしいほうだしね……オイゲンさんはパスで」
オイゲンさんも男らしくてカッコいいところはあると思うけれどこれは好みの問題だもんね。
「エリシアこそラルフさんに気に入られているみたいだけれど大丈夫?」
「あれは妹を可愛がるお兄さんみたいなものじゃん?」
いろいろからかってくるけれど、そういうものだと思っているから気にしないことにしている。
「そっか、なら良かった。流石に恋愛沙汰のトラブルは怖いからねー」
というか人妻なのでそのつもりはありません。
「でも信頼できるお兄さんみたいな人がいるのって安心できるね」
「それは確かにそうだね」
よいしょっとアニーが立ち上がる。首から下げているネックレスがじゃらりと音を立てた。
なんか綺麗なネックレスだなぁ。少し魔力のようなものも感じるけれど。私が見ていたことに気付いたアニーがネックレスを取り出して見せてくれた。
「これが気になるんでしょ? これはね守護のタリスマンって言って身を守ってくれるんだ。マジックアイテムって言われる冒険者の心強い相棒だね」
マジックアイテム……そんなのあったんだ。
「エリシアも使ってみたら? 見た目装飾品に見えるけれど効果の方が大事なマジックアイテムなんだから。結構役に立つよ」
「今度、探してみるね」
「もし、良いのが見つからなかったらおススメのお店教えてあげるよー。こういうのは自分で探すのも楽しいんだよねー」
うん、分かる。
「それじゃ寝るね。エリシアもそろそろ寝なよー」
アニーはそう言って部屋へと戻っていこうとした時、急に立ち止まった。どうしたのかな?
「あのさ、私エリシアがいるから安心して冒険者やれているっていうのもあるんだ。もちろんシェリアやレイラも頼りにしてるよ。でも、一番頼っちゃっているのはエリシアなんだ。だからこれからもよろしくね」
楽しそうな顔でにひひと笑ったアニーは今度こそ部屋へと戻っていったんだけど、な、なんか恥ずかしいんだけど……面と向かって言われると照れるものなんだね。
頬の火照りを手で扇ぎながら私はアニーのタリスマンのことを思い出していた。
マジックアイテムかぁ……どんなのがあるんだろう?
無事に依頼を終えケートに帰ってくるとなんかギルドが騒がしい。なんかあったのかな?
「何かあったんですか?」
リセリアさんに聞いてみるとここから結構離れた場所にある村が魔物に襲われて凄い被害が出たらしい。不幸中の幸いに生き残りがいて連絡をしてきたらしいのだけれど。
「ワイバーンかい……」
シェリアが忌々しそうに呟く。ワイバーンと呼ばれる魔物は空を飛びながら火を吐く竜みたいな竜の偽物なんだよね。
空を飛ぶせいで倒しにくいし鱗も硬いから誰も相手したがらない魔物ランキング上位にに入っているんじゃないかな?
「すみません、”女神の剣”の皆さん。申し訳ないのですがこの依頼受けてもらえないでしょうか?」
リセリアさんが申し訳なさそうに依頼書を見せてきた。
ワイバーン五匹の討伐……報酬は金貨二枚……って少ないよね、これ。
「村の生き残りが搔き集めてきたお金ですが相場より少ないことは理解しています。もうそれくらいしか残っていないそうです……しかも討伐出来そうな実力のあるパーティーは今、出払っていまして」
そういう事情があるのかぁ。可哀そうだしなんとかしてあげたいな。
「レイラ、報酬少ないけれど受けない?」
私がそう言うとレイラは驚いた顔をした。
「帰らなくてもいいのですか? エリシア」
「そうだよ、あんた旦那待たせてるだろ?」
シェリアとレイラが心配してくれるけれど今はそういうこと言っている場合じゃない。
「それは大丈夫。ちゃんと説明するから問題はないよ。それよりも早く助けてあげないとね」
「あんたがそう言うんなら」
「私達はこれ以上言うつもりはありませんが、本当に大丈夫なのですね?」
「うん、大丈夫」
「なら、一刻も早く助けに行こうよー。怪我人いるなら早く診たいし」
アニーの言う通りだね。
急いで私達が準備をし始めた時だった。
「その依頼、我々も行かせてもらおう。“女神の剣”でもワイバーン五匹は大変だろう?」
そんな声をかけてきたのはラルフさん達、“勇気の盾”の皆だった。




