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10:私のホーム

 小鳥の鳴き声で目が覚めた。窓の外を見てみると陽が昇り始めているのが見える。隣で寝ているジェイクの寝顔を眺めながらサラサラとした髪をなでる。この手触りが気持ちよくて癖になってるんだよね。


「う、うぅん」


 ジェイクがくすぐったそうに身をよじる。逃がすもんか、ジェイクに抱きついて足をしっかりと絡めて離れられないようにしてやる。


「……うぅ、エ……リシア?」


「おはようジェイク。朝だよ」


「おはよう……動けないんだけど」


 そうだと思います。だって逃がさないようにしているんだよ?


「朝からイチャイチャしたかったの」


 私が素直にそう言うとジェイクは顔を赤くしながら私の方に向き直って抱きしめてきた。


「朝から甘えん坊だね、エリシア」


「にゃぁー」


 ジェイクの胸元に頭を擦り付けて甘えてみる。ジェイクの暖かさが心地良いなぁ。しばらく私達はそうしていたけれど、私のお腹がぐぅーと音を立ててしまった。


「朝ごはんの準備しようか」


「……そうだね」


 うう、恥ずかしい。




 パンとスープにサラダを用意して朝ごはんの完成。と思ったんだけれどジェイクが何かを作っている。


「ジェイクは何を作っているの?」


「昨日、卵を貰っていたんだ。だからオムレツでも作ろうかなって」


 やったぁ!ジェイクのオムレツは滅多に食べられないから凄く嬉しい。お店で食べるオムレツみたいにふわふわとろとろだから大好きなんだよね。


 出来立てオムレツも並べて準備完了。


「おいしーい!」


 ふわとろオムレツは卵の甘さとふわふわな食感でどんどん食べちゃう。古い硬いパンもしっかりとスープを吸っているからやわらかくなっていていくらでも入りそう。せっかくのご飯なんだからしっかりと味わって食べないともったいない。


「良かったよ、エリシア。うまく出来たみたいだね」


 ジェイクの作るご飯は美味しいから大好き。そうだ、今日の昼は私が作ろうかな。最近家に居ることが少ないからあんまり作っていなかったし。今日は私が作ろう。


「ねぇ、ジェイク。今日のお昼と夕飯は私が作るね」


「エリシアのご飯か。楽しみにしてるね」


 今でこそジェイクが作っているけれど、ちょっと前までは私が作っていたから腕に覚えありだもんね。私に任せておいてよ。


 その日のお昼と夕飯は宣言どおり私が作ってみた。最近やっていなかったせいで少し腕が落ちた気がするけれどジェイクは美味しいと言ってくれたから嬉しい。これからもちょくちょく作っていくようにしないといけないなぁ。





 ジェイクといっぱいイチャイチャした私はまた冒険者として依頼を受ける日々を過ごしていた。ちょくちょく料理もしないといけないなぁと反省はしたけれど、最近ちょっと帰れていないので反省が生かせてない状態です……はぁ。


 それに難しい討伐依頼を中心に受けていたおかげでランクがなんと四まで上がることができたんだよね。これもちょくちょく一緒に共同依頼を受けてくれる“勇気の盾”の皆のおかげでもあるよね。


 あと最近、薬草の種類を覚えたように知識も増えて来たんだよね。ランクに見合った知識量だと言っていいと思う……エヘン!


 以前リセリアさんから聞いていた通り最初の壁はランク二だったなぁ。


 もっとも一定以上の強さがあればランク四まではすぐに上がるらしい。強い冒険者を低いランクで遊ばせておくようなもったいないことはしないってリセリアさんが言っていたっけな。


 問題はその一定の強さにたどり着けない人のほうが多いらしいから私達は恵まれているよね。


 ランクが上がったご褒美じゃないけれど装備も新しく良いのに変えたんだよね。


「それで今日はなんの依頼?」


「今日は“勇気の盾”のみなさんと一緒よ」


 レイラがそう言って依頼書を見せてくれた。


 ほうほう、オーガ退治ですか。オーガは力が強いし意外と身のこなしも素早いから気をつけないといけない強敵だけど私達なら問題ないよね。


「オーガなら怒らせた後、罠とかいいかも」


「そうだな。単純だが落とし穴とか有効だと思う」


 私の呟きを聞いていたのかラルフさんが後ろから声をかけてきた。


「こんにちは、今日もよろしくお願いしますね」


「ああ、エリシア。今日もよろしく。それにしても君はいつも綺麗だ」


 最近ラルフさんは私にこんなことを言ってくる。最初は戸惑ったけれどなんか慣れちゃった。それに綺麗って言ってもらえるのは嫌じゃないし。


 と言ってもそれに反応するつもりもないけれどね。私には旦那様がいるんだし、貴族ならこういうことを言うのが当たり前なんだと思う。いちいち反応してなんだか意識してるみたいに思われても嫌だし。


 それにジェイクもいつも綺麗って言ってくれるから私は満足です。


「みんな、来たようですね。それでは行きましょうか」


 私とラルフさんが話している間に他のメンバーも来たみたい。それじゃあ今日も頑張りますか。




「危ない!」


 それは完全な油断だった。


 落とし穴にはまった最後の一体のオーガに止めを刺した時、死んだと思っていた別のオーガが最後の悪あがきで放り投げた石がラルフさんに向かっていくのが見えた。全員終わったと油断していたから誰も間に合いそうにない。


「クロノスオーバー!」


 私はとっさにクロノスフィアの能力を解放する。加速状態になって時間がゆっくりと流れ始め飛んでくる石も止まっているように見える。これなら何の問題もない。


「はぁっ!」


 石を斬りとばしたあとそのままオーガの首をはねる。そのままゆっくりと流れていた時間が元に戻っていく。魔力を消費して維持する能力だから魔力が尽きたんだね……うぅ、目が回る。


「今のが噂のクロノスフィアの能力なのかよ……」


 オイゲンさんが呆然と呟いた。そういえば“女神の剣”のメンバー以外に見せたことなかったっけ。やっぱり驚くよね。


「すまない、エリシア。助かった」


 ラルフさんが私のもとへやってきてお礼を言ってくれる。仲間だから助けただけで気にしないでいいのに。私がそう言うとラルフさんは首をふる。


「仲間だからこそ礼はしっかりしないといけない時もある。今度なにかお礼をさせてくれないだろうか?」


「別に気にしないで欲しいんですけど……」


「まぁまぁ、エリシア。こういうのは貰っておくのが礼儀ってやつだよ」


「あまり大袈裟なモノを貰わなければいいんだよ、酒場で奢ってもらうとかね?」


 アニーとシェリアが困った私を見かねて助け舟を出してくれた。なるほど、そういうモノなんだね。一つ勉強になったよ。


 私はいいのになぁと思いつつもお礼を受け取ることに同意することにした。


「それじゃあ急いで後始末をすませましょう。急がないと日が暮れてしまいますよ。野営の準備をしないと間に合わなくなりそうですから」


 レイラがそう言って皆をせかす。そういえば今日は野営だったっけ。シェリアのご飯美味しいから楽しみなんだよね。


 本当は私が作るって言えれば良かったんだろうけれど最近作っていないから自信ないんだよね。




 次の日の夕方ギルドに帰ってくるといつものように酔っ払いの声が聞こえてくる。ギルドに併設された酒場で今日も出来上がった飲兵衛どもが騒いでいる。


 しかし、みんなお酒好きだなぁ。と言いつつ最近アニーに進められてお酒を飲んでみて美味しかったから私も人のこと言えないんだけどね。


「エリシア~、昨日はオーガ叩き斬ったんだって?」


「さすが、“赤雷の剣姫”だな」


「今夜相手してくれよ~」


 何度か一緒に依頼を受けたことがある冒険者達が私達に気づいて声をかけてくる。


「みんながいたからだよ、オーガを倒せたのは。あと相手するかバーカ」


 私だけが戦った訳じゃないんだからね、まったく。あと私には最愛の旦那様がいるから浮気はしません。誰だそんな馬鹿なことを言ったやつ。ちょっと待ってなさい、股間蹴ってあげるから。


「それにしても、あっさりとランク上げていくな~。お前らは」


「まさか、エリシアが魔法剣士だったなんて驚いたぜ。もういくつか魔術も使えるんだろ?」


「ランクも一週間前に四になったんだろ?」


「まだ、四種類だけだけどね、練習中でーす。ランクはそうだよ」


 まだレイラから合格をもらえていないから練習中としか言えないんだけどね。それでも大分使えるようになってきたからそろそろ合格もらえるかも。


 あと最近馬に乗れるようになりました。シェリアに練習に付き合ってもらったんだよね。あとは馬さえ買えれば村から日帰りで来れるのにな。


「エリシア、奢るから来いよー、おもしれぇ話があるんだ」


 なんだろう? それに奢ってもらえるなら行こうかな。今日はお酒飲むぞー、アニーにも声かけようっと。


「行く! ちょっと待ってて~」


 話しかけてきた他の冒険者に返事をすると皆がこっちへ来てくれた。さぁご飯が待ってるよ。




 美味しいご飯とお酒を楽しみながら仲間たちとくだらない話をして笑う。今回初めて挑戦してみたお酒はちょっと強かったけれど美味しかった。


 ここが私の居場所の一つで帰ってこれる場所なんだって私はそう感じ始めていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 加速して戦える、魔剣の能力、順調に魔法剣士として仕上がって来てますね、戦闘描写はあえて少なめでも、重要なシーンを抜粋してる感じで、うまく前後が繋がるのが話の立て方が上手いなあって。 [一言…
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