9:私と約束
ケートに戻った私達は報酬を受け取って分け合うことにした。“勇気の盾”の皆さんにも約束通り山分けをする。結構良い状態の鱗が獲れたせいか銀貨十枚も貰えちゃった、ラッキー。
あとリセリアさんがもう少しでランクが上がると教えてくれた。
「やったねー! エリシア。今夜は打ち上げだー。それにもう少しでランクも上がりそうじゃん。約束を果たせる日も近いね」
みんなにはジェイクとの約束は話しておいたのでアニーが飛び跳ねて喜んでくれている。
「まだ昇格じゃないけれどそれでもあと少しってなると嬉しいもんだね」
「私達の実力なら当然の結果ですよ」
シェリアもレイラも嬉しいみたい。私も嬉しいからアニーと一緒に飛び跳ねちゃう。
「おめでとう“女神の剣”のみなさん。もう少しでランクが上がるようだね。これは我々もうかうかしていられないようだ」
ラルフさんがそう言って負けていられないなと呟いた。
「はい、頑張りますからまた一緒に冒険に行きましょうよ」
「そうそう、また近いうちにでも一緒に依頼を受けようね」
私が決意を込めてそう言うとアニーもラルフさんに約束を取り付けていた。
アニーも気に入ったみたい。もしかしてラルフさんみたいなカッコイイ人が好きなのかな?
今日はもうここでお休みということなので依頼しておいたナイフを受け取りに行こうかな。明日はジェイクのところに帰るから準備もしておかないと。
「ナイフ取りに行くの?」
鍛冶屋に行くとレイラたちに告げてギルドを出ようとしたらアニーが声をかけてきた。
「私が紹介したわけだし、ちゃんと見届けたいんだけれどいい?」
もちろん大丈夫なので一緒に行こうよと答えて、私はアニーと一緒に歩き出した。
いったいどんな風に生まれ変わったのか楽しみだなぁ。ジェイクの剣がナイフになればずっと使っていけるもんね。
そんな風にいろいろ想像しながら歩いているとすぐに着いてしまったみたいで、ちょっと心の準備が出来てないかも。
「おっちゃーん」
そんな私を置いてアニーはやっぱり先に入っていってしまう。だから待ってってば。
「おお、来たか。ナイフは出来とるから待っとれ」
休憩中だったのかな? パイプをふかしながらおじさんは立ち上がると工房から一振りのナイフを持ってきた。
「抜いてみてくれ」
手渡されたナイフをゆっくりと抜いてみる。
スッと斬れるように滑らかな曲線を描きながらも力強さを感じさせてくる。肉厚な刃は重さも備えていて耐久性も高そう。綺麗な刃の部分が光を反射してきらりと輝いた。
でもこのナイフにはジェイクの作った剣の面影は無かった。
「なんだか全然別物なんですけれど……」
私が困惑しているとおじさんは頭をかきながら申し訳なさそうに言った。
「なんとかそのままナイフにしてやりたかったんだが、いかんせんどうにもならんくてな。他に方法が無かったんで仕方なく溶かして打ち直すことにしたんだ。」
最悪の方になっちゃったんだ……覚悟はしていたつもりだったけれど……甘かったかも。
「まーまー、一度溶かすしか方法が無かったのならおじさんに文句は言えないし、それに大事なのは形じゃなくて魂でしょ? そのナイフには旦那さんの想いはしっかりと受け継がれていると私は思うけどな。それともこのくらいで消えちゃうくらい軽いものなの?」
む、そんなことは無いよ。ジェイクが心を込めてくれた剣だったんだからその想いは消えることは無いって私は思ってるもん。
「だったらそれは生まれ変わっただけで元の剣と同じ魂さ。胸を張って大事にすればいいんだよ」
……確かにアニーの言う通りかもしれない。これが私にとってどういうものかということが大切であって形じゃないんだ。
「うん、そうだね。おじさんありがとうございました」
「いや、また何かあれば来てくれよ。その時は少しはサービスするぜ」
気前がいいなぁ、それは。私はお代を払って鍛冶屋を後にする。
さぁ、明日帰るためにお土産とか買っておかないと。
「というわけで買い物に付き合わない? アニー」
「いいよー、もっちろーん!」
私はアニーと一緒に市場へと歩き出した。
「ただいま~」
我が家に帰ってきた私を愛しの旦那様が出迎えてくれた。大好きなジェイクに抱きついて頬を摺り寄せる。ジェイクが抱きしめてくれるから私も抱きしめ返す。
もう嬉しくてつい頬が緩んじゃう。
「エリシア、その剣どうしたの?」
ジェイクが私の腰にあるクロノスフィアに気が付いたみたい。
「これはね、報酬として貰ったものなの。なんでも魔剣なんだって」
そうだ、ジェイクに見せてあげなくちゃ。この剣は刀身も綺麗だからジェイクも気に入ってくれるかな?
「凄いとしか分からないや、僕には」
「でしょでしょ? 私も使ってみたけどこれ凄いの! モンスターも簡単に斬れちゃうんだよ!」
ジェイクは感動しているのかちょっと声がふるえていた。
凄いよねこの魔剣。斬れ味も凄いんだよ。
私はクロノスフィアをどうやって手に入れたのかジェイクに話すことにした。依頼の終わりにたまたまアレイシア様に会って助けたご褒美にもらったのだと。
「そういえば前の剣はどうしたの?」
ショートソードが無いことに気が付いたのかジェイクが聞いてきた。
「あぁ、あれ? あれならここにあるよ」
私はそう言いながらジェイクのナイフを取り出した。
「ナイフ……だよね、それ?」
「うん、打ち直してもらったんだ。もう大分ガタが来ていたし捨てるのも嫌だったから」
新しいナイフをジェイクは感心したように見ている。ジェイクから見ても凄いのかなやっぱり。でもこれでジェイクの作った剣を持ち歩けるんだよ。形は違っちゃったけれど魂は同じだからね。
「凄いな。やっぱり本職の職人は違うんだね」
ジェイクも頑張っていると思うんだけどな。
確かにジェイクは村のみんなの為に兼業でやっているから本職とは言えないかもしれないけれど。
私は嬉しかったんだよ。
だからジェイクは胸を張っていてよ。
夕飯を食べてジェイクが焼いてくれた焼き菓子を食べながらお茶を飲む。
うーん、やっぱりジェイクの薬草茶は美味しいよー。少し独特の苦味があるけれどそれが焼き菓子の甘さを引き立ててくれる。
「うーん、さすがジェイク。この焼き菓子美味しいよ」
「それは良かった。蜂蜜を少し増やしてみたんだ。上手くいってよかったよ」
ジェイクもいろいろ試しているんだね。私も色々な依頼を受けて冒険者としてランクアップしないといけないね。
「はい、ジェイク。あーん」
せっかく美味しいんだからジェイクに食べさせてみたくなった私は焼き菓子をジェイクの口めがけて突進させてみる。
「なんだか恥ずかしいなぁ」
なんて言いながら口を開けてくれる旦那様。やっぱり優しいよね。
ジェイクに食べさせた指が少しべたつくから舐めてみて、まるで間接キスみたいって思っちゃって少し恥ずかしくなっちゃった。
でも、今日はいつもよりイチャイチャしたいかも。
「ねぇ、ジェイク。今日はもう寝ようよ」
ジェイクの手を引いて寝室まで連れて行く。
月の光が窓から差し込んできて少し明るい部屋でキスをしてジェイクを押し倒す。
冒険者やっているから力が付いたのかな? 前より簡単にできちゃった。
「エリシア綺麗だよ」
そのまま私はジェイクに愛される。私も貪るようにジェイクを愛していく。
この時間が何よりも幸せで愛おしかった。
それから一週間後、いくつか依頼をこなした私達は装備なんかも新調してみたりした。結構お金が貯まってきたからここら辺で少しは良い装備にしようってみんなで話して決めたんだ。
名前も知られてきたのか変な冒険者に絡まれることも減ってきた。
そんなある日、リセリアさんがちょっと待ってくださいと声をかけてきた。なんだろう?
呼ばれたのでみんなで行ってみるとリセリアさんが書類を手渡してきた。
「今回の依頼でランクが二に上がります。おめでとうございます“女神の剣”のみなさん」
え? 本当に今回でランクが上がったの? やったぁぁ!
「イェーイ! やったじゃんみんな」
「やったね、みんな」
「まだこれからですが確実な一歩です」
「これでまだあと一年冒険出来るー!」
凄く嬉しくて皆で抱き合ったりしちゃう。もちろんこれから先は長いけれどこれでようやく冒険者として初心者を卒業出来るんだ。
その日は皆でハメを外して宴会をしちゃって二日酔いでダウンしてしまった。
うぅ、気持ち悪い。でも“勇気の盾”の皆さんもお祝いしてくれたしラルフさんもおもしろい話をしてくれたし親切だったなぁ。
でもまさか貴族様だなんて思っていなかったよ。それもアレイシア様のお兄さんだったなんて。みんなから名前で気付いていると思っていたって言われて少しへこんだ。
鈍くて悪かったですねーだ。
一応これからも今まで通りの態度の方が良いって言ってくれたから助かったかも。礼儀作法とか分かんないもんね。
次の日家に帰った私はジェイクにランクが上がったことを伝えてた。驚いているジェイクに抱きついて私は宣言する。
「約束どおり、もう一年頑張らせてね」