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7 いざ、出発。

 清々しい朝が来た。支度を早々に済ませ、教会から一番近くの街であるツィオに向かうところである。


「いい朝だなー! 就活で早起き鍛えておいてよかった……」


「はい! 天気もいいですし、安心してツィオに行けますね!」


「鳥の鳴き声もなんだか清々しいよ」


「あら、これは鳥系モンスターが朝から喧嘩をしている声よ」


「マジかよ、せっかく清々しい気持ちになっていたのに!」


「ふふ、可愛いモンスターがいても油断しないことね。テレシア、気を付けていってくるのよ」


「はい! 行ってきます!」


 ローザは相変わらずテレシアの心配しかしていない。テレシアはそれに気がついているのかはわからないが満面の笑みでローザに手を振る。左手にはあの重い十字架が握られている。

 カナタも聖剣を持ち、軽く手を振り教会を後にする。


「相変わらず重そうだな―、それ」


 カナタはテレシアの持つ大きな十字架を指さして何かすごいものを見るような目で見る。

 実際、素材は謎の鉱石や聖水からできていて、さらに彼女の背よりも高い十字架はいつ見ても圧巻である。特にそれをか弱そうなシスターが持っているというところに誰しも驚くだろう。

 彼女が小さいのか十字架が小さいのかという問題にも発展しそうなものだった。


「勇者様の聖剣だって重いはずです! 私を怪力扱いしないでください!」


 乙女の恥じらいというものだろうか。テレシアはすこし顔を赤くしてふいっと顔をそらした。

 そして、なぜか十字架を両手に持ち直した。両手であろうとカナタには持てないだろうと思われるためそれが怪力ではないアピールにつながることはなかった。


「実はその聖剣、選ばれ者しか持てないようになっているんですよ」


「そうなのか?」


「はい、なのできっと私の力があってもその聖剣は私には振り回すことはできません」


「そうは言ってもなあ、使いこなせないし、魔法はないし、正直勇者になったけど今までの俺に聖剣がついたって感じで……」


「剣術は使っているうちに身についてくるはずですよ!」


 勇者としての自覚が全くわかないカナタ。せっかく異世界に来たのだから魔法の一つでも打てたらと思うのは普通のことである。

 カナタは心の奥でもしも自分が社会人として生きていたら……と少し思いながら聖剣を見つめた。


「俺なんかが本当に勇者でいいのかな」


「聖剣が選んだのは他の誰でもない勇者様ですよ! そこは誇りに思ってください。みんな勇者様のことを待っていたんですから……街についたらきっと英雄ですよ!」


 カナタは納得しきらない様子でテレシアについていく。

 流石にまだ森の中を革靴で歩くのは慣れないが、街に続く道はある程度整備されており昨日ほど足が疲れることはなかった。


「見えてきましたよ! あれがツィオです!」


 遠くに見えたのは5か6メートル程度の壁だった。


「なんだあれ、でっかい建物の中に街があるわけじゃないもんな……なんか色々はみ出てるし」


「今はどの街もあんな風に壁で覆ってあります。モンスター対策です。ちなみに近くに街がいくつもある場合は橋のようなものだったり地下通路があったりと以前よりも移動はある意味面白くなりました!」


「お前はなんか、その、人生楽しそうだな」


 テレシアはうきうきした様子で街の構造を語る。

 モンスターに支配され変わってしまった世の中にうまく適応しているという様子だった。


「さすがに空からのモンスターまでには対応できないので地上のある程度のモンスターから防げるような構造になっています!」


「空から襲われまくるだろそれじゃあ」


「こちらから何かしなければ基本は襲ってきません。彼らのテリトリーにさえ入らなければいいので……街は人間のテリトリーで外はモンスターのテリトリーという訳です」


「魔王に支配された世の中ってこんな感じなのか……」


「まあ、支配されたとはいえ多少なりとも抗っているのでこんな感じですねー。この世のどこかにたった一国だけ魔王軍と協力関係にある国もあるそうですが……基本は人間が住むところは人間のものとされています」


「じゃあ神父様たちは普通じゃなかったんだな。俺はあんな感じで街があると思ってたからさ」


「教会は神父様のお力もあって何とかなってるところがありますから確かに普通ではないですね」


 テレシアは「確かに今思えばすごいですよね」とくすくす笑い始めた。


 二人は話しているうちにあっという間にツィオに着いてしまった。


「近くで見ると結構でかいなー、これは頼もしいわ」


「はい、厚さも結構ありますからある程度のことには耐えると思われますよ」


 門の向こうには街が広がっていた。

 人間が笑いあい、市場もあり、家もある。そして地面もタイルが敷かれており歩きやすい。

 ちゃんとした街がカナタの目に入り、カナタは少し驚いた様子だった。


「すげえ、これ、本当に街だ……」


「当たり前じゃないですかー、もう、何を不思議なことを言っているんですか?」


 今まで異世界に来てからというもの、森や草原、建物はその森の中にある教会しか見てこなかったカナタにとってそれはなんだか新鮮であり少し安心できるものだった。


「いや、なんか、思ってたよりも人が多いし、ちょっと驚いてさ」


「とりあえずこの布をどうぞ!」


「何に使うんだこの布?」


「聖剣、むき出しのままで街に入るのは気が引けるので、人に当たっても大丈夫なように一応持ってきていたんです!」


「本当に気が利くなあ、ありがとう」


「どういたしましてです!」


 テレシアから大きな布を受け取るとくるくると聖剣に巻き付けていった。

 あんなに強そうな聖剣も白いふかふかした布に包まれると突然可愛らしさがにじみ出た。


「いや、はじめから勇者の威厳なんてないと思ってたよ? でもこの聖剣、どう見ても勇者が持つやつじゃないよね? なんか下位ハンターの装備の一部みたいな……」


「何を言ってるのかわかりませんが、とりあえずですよ! そこは鍛冶屋さんとかに頼みましょう!」


 煮え切らないままとりあえず門をくぐることにした。

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