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6 みんなで食べるご飯は美味しい

失踪してました。許してください。

またよろしくお願いいたします!

「「「「いただきます!」」」」


 全員で手を合わせ、食材に感謝をしてから一斉に食べ始める。

 カナタもこの美味しいシチューらしき白い液体をしっかりと味わう。ルティなどの時はあんなにも警戒していたカナタも空腹に加えて一度異世界のものを口にしたということが不信感を薄めたのだろう。


「それで早速だけど、初モンスターはどうだったよ勇者様」


 神父が意地悪そうな顔でカナタに質問する。

 カナタは非常に気まずそうにしながらシチューのようなものをすすった後に猫背のまま口を開く。


「正直、勇者の資格のある男の戦闘とは思えない結果だったよ」


「でも無傷じゃないか。センスはあるんじゃないか?」


「わ、私もそう思いました! センスというか、勇者らしいと思う場面が多々ありましたよ!」


 テレシアがすかさずフォローを入れる。

 そのフォローは話に割り込むために少々焦っているようではあったが心からそう思っているような話し方である。


「勇者様はアホキノコを一人で一撃で倒しました! それに、モンスターに対して慈愛の心を持ってらして、こういう人が勇者なら世界が救われるだろうなと私は思いました」


 そういうとテレシアはカナタの方を見て微笑む。カナタはそんなテレシアを見て今にも泣きだしそうになっていた。


「モンスター相手にそんな風になるなんて、正直この先思いやられるわね」


 ため息交じりでローザが言う。まさにその通りである。

 きっと初めて出会ったキノコのモンスターを切った後に抱きしめたのはこの男が初であろう。

 ローザはテレシアの言葉に感動して涙目になっているカナタをちらちら見ながらまたため息をつく。


「ま、神父という立場から言わせてもらえば、こいつはすげえいい勇者ってことだ」


 神父はあははと笑い、ローザに食事中に大きく口を開けるなと叱られていた。


「そもそも、お前のところではモンスターもいない、戦いもしない、そんな幸せな生活を送っていたんだ。初めから何でもできる奴はいないよ」


「まあ、それもそうね。一応勇者様なので期待をしすぎてしまっていたようだわ」


 カナタもそれを聞いてそりゃそうだと思いながらパンをかじる。

 カナタ自身が自分の勇者に選ばれたことで何かしらの才能が開花していると思っていたのだ。魔法陣に自ら飛び込むような人間である。痛々しい妄想もあっただろう。


「それで、明日は勇者様と一緒にツィオに行こうかなって思っていて……」


「一体何をしに行くのよ」


「一応近隣の街に行けるようになっておいた方がいいかと思って……それに、近いうちに旅に出るでしょうし、防具の調整もしておくべきだと思うんです」


「いいじゃないか! 調整をしてもらってから訓練に励んだ方がいい! けがも少なくて済むしな!」


 調整とは何のことやらさっぱりついていけていないカナタを放置して神父たちはどんどん話を進めてゆく。そして、明日の予定もしっかりと決まってしまっていた。


「よくわからんが明日もよろしくな、テレシア!」


「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 その後、みんなでまた手を合わせて「ごちそうさまでした」と食材に感謝をし片づけを始めた。

 全員で食べ始め、全員で食べ終わる、というのがここのルールらしい。


「俺、今まで一人暮らしでさ、誰かとご飯をこうやって食べるのって久しぶりなんだよな」


 皿を運びながらカナタは小さな声で話し始める。


「勇者様は今までどんな生活をしていたのですか? 私、実は勇者様の世界のお話興味があります」


 テーブルを拭いていたテレシアが反応する。奥で洗い物をしているローザもほんの少し手が止まった。彼女もまた興味があったようだ。


「人に話すような面白エピソードなんて何一つないんだけどさ。まー、就活っていう地獄のような日々を乗り越えてさ、俺そこそこいい企業に勤めて、両親に恩返しをしていくっていう予定だったわけ」


「就活? 初めて聞く言葉です」


「簡単に言えば精神攻撃をされるわけだよ。それに耐え抜いたものがパーティメンバーとして採用されるみたいな?」


「ははは、お前の世界はお前の世界でなんだか大変そうだなあ! パーティメンバーをそんな選び方するのか。俺なら、俺に攻撃するような奴とは一緒に戦いたくはねえけどな」


 神父はソファーに座り食後のルティを楽しみながらカナタに答える。

 カナタは興奮したように激しくうなずきながら神父の隣にいき密着する。神父はそれを優しく引きはがす。

 カナタははっとして、少し照れ臭そうに神父と距離を開けた。興奮するとその人に近づいてしまう、というのは彼の癖らしい。


「正直、毎日がつらかった。家に帰っても一人で、食事だって適当なもんで、こういうあったかい食事じゃなかったよ。だから、まあ、異世界でこんなおいしいものが食べられると思ってなかった」


「勇者様……」


「ふん、私の料理をそこまで褒められると流石に嬉しいものね。ここにいる間はこんなもので良ければいくらでも食べられるわよ」


 ローザは顔だけをカナタの方へ向けふふっと笑いながら言った。

 カナタもそれを見てローザに感謝を述べて、立ち上がり、食器を拭こうとする。


「手伝うよ。こうやって見ず知らずの俺に親切にしてくれたお礼に少しでも働かないとな」


 すると、テレシアがカナタの後ろに立ちカナタをつかみ、ふわりと足元の浮いたカナタはくるりと180度回転しテレシアと位置が入れ替わっていた。


「勇者様はこれから大変なんですから、今はゆっくりしていてください!」


 それは非常に優しい笑顔であったが、言葉の意味と力業にカナタは多少の恐怖を覚えたのだった。


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