表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/56

52 想像力、妄想力、空想力

         

想像とは思い巡らすこと、妄想とは根拠のない勝手な思いを言う。空想とはこれらより非現実的な考えを指すらしい。


過去、二十代後半、私には彼女がいない時期があった。

しかし、いかんせんもう歳も歳だし、このまま一生独身で過ごしてやろうかとも考える。何せ出会いらしい出会いがなかったからです。


と、そんなときに心強い味方がイントァーネッツ! もとい、インターネット。


エンジンで「出会い」と、検索すればサクサク、出会い系サイトが立ち並ぶ。どれにしようか迷うほどであります。出会いが運命ならば、まさにこれらのサイトとの出会いも運命といえよう……などと鯱張ることもあるまい。適当にアットホームぽいのにアクセスしてみます。


むう、とりあえず登録とかどうこう言う前に覗いてみよう。会員にならないと中が覗けないようなサイトはヤバげなのでスルー。ついでに異常に書き込みが多いサイトもサクラが多いという事なのでこれもスルー。もし登録するならできるだけ登録に手間のかかるサイトのほうがいい。 と、わたしは考えました。


メル友とか恋人探しとか、いろいろとカテゴリーがあるが、なんとまぁ、実質稼動しているのが何人くらい居るのかはわからないが、数百から数千の登録数がある。この中から選べるのであればもう選びたい放題ではないか! などと喜んではいけません。


仮に1000件の登録があったとしても、それを47都道府県で割ると一府県約20件、隣接する県を含めてもせいぜい30から50件、人口密集地で100件くらいはヒットするかもしれない。その中から年齢など条件を絞り込んでゆくと10件残るか残らないかというところだ。贅沢な条件設定をすればするほどその確率は減ります。


高校大学受験でやったように、誰しも「滑り止め」という知能が働き、決して一撃必殺、一点集中、百発百中、金大中、なんてことは期待しておらず、弾は予備を持っておくのであるべきです。


男性側が登録してもまず女性からメールが届くなんて事はありえない。それは女性が奥手だからではなく、女性はほおっておいてもいくらでもメールが山ほど届くからである、それもうんざりするくらい。


それは過去に私が実証した事があるからわかります、本当に読むのが嫌なくらいの数が届くのです。(極めてプライベートに女性名でメル友募集投稿した。いわゆるネカマをやったのですが、応募してきたそのうちの男性数人とは、1年近く女のまま続けました。無論最後まで夢を壊すようなことはしませんでしたが)


*蛇足ですが、当時私は男女五人くらいの人格を創作して、それぞれ別のメールアドレスでメル友作って遊んでいました。(当時関わった人すみません、全部嘘です)他に印象深かったのは、ネカマで「お悩み相談――臨床心理学のお姉さん」を演じて、世の迷える若者の悩みを毎日のように引き受けていたこともあります。(さすがにこのときは自分の気が狂うと思い、相談者数30人を超えた時点で閉鎖しました)


だから、よっぽどでないと女性からメールが来ることなど期待できないのです。


よっぽどというとどのくらいかと例に挙げてみると、「28歳、大学卒、某大企業勤務、年収1000万円、身長185センチ、福山雅治に似ています」である。


これに似たプロフィールを騙った結果、女性から山のようにメールが届きました。


これも私は実証済みです。(同じ名前でちゃんとしたプロフを書いても、ものの見事に一件もこなかった。ちなみに福山雅治で来たメールは全部捨てた)


しかし、そんなことをしなくても女性からメールが届く事があります。


「あなたの事が気になって、他の人にはお断りをいれているんですけど次々メールが来るので返信がなかなか出来ません。ここを退会して直接連絡をとらせてもらえると嬉しいです、メールアドレスは――」


という文面であり、いきなり女性の側からアドレスを通知してきます。


ここで男よ、喜んで飛び上がっている場合ではないのだ、そういうメールは即刻削除するのである。ここでは妄想は不要である、想像力を駆使してみればすぐにわかる。


間違ってもそのアドレスにメールなどは送らないことです、あとで自分のPCなり携帯なりにすごい数のメールが入ってきます。


ガラケー時代の話ですが、これは本当にすごい、5分おきくらいにアダルトサイトからのメールが送られてくる、それも一日中。 まあ、若気の至りでこれも私は実証済みです。(当時携帯などのメールは受信に際しても料金が発生するような仕組みだったため、この迷惑メールだけですごい料金になった)


あと、電話番号が書かれていても絶対にかけてはいけません、あとで必ず「なんとか回収機構」という怖い人から電話がもらえます。 じつはこれもまた実証済みです。(最初は極々丁寧な語り口調で御利用料金のなんやらの件で、という話から始まるのだが、こちらが知らないというと、ものの1分で豹変してチンピラ口調になってゆく。この人一日中これをやっているんだろうと思うとかなりおかしかった)


まあ、のうのうとそれでもこんなこと書いていられるのは、わたしが遊びで相手をしているからであり、誰からもメールも電話もない寂しい孤独な夜には、話し相手も欲しいものであります。少しくらい気が紛れるから、一人身の方にとってはある意味おすすめではあります。


それに、むこうも商売であるから、人間そこまで無実の人間を責めるわけにもいかないわけで、こちらが心を開くと向こうも心が折れる。「はぁ、すみませんバイトなんですよぉ」と。


余談ですが、それと同じく出会い系のサクラとメル友になったこともあった。思えば暇なことをしていた。


話がずれましたが、出会い系の場合、順次男はメールという矢で女性のプロフィールを狙い打つわけですが、的によってはすでに自分の矢が刺さらないほど他のものが射た矢が満タン刺さっているターゲットもあるわけです。


こういうのはいくら自分が文学賞をとるほどの文才の持ち主でも、世界の人を感動させる詩人であっても、まるで無力なのである。まず読んでももらえず、削除される。


あわよく、読んでもらえたとしても、返信という作業は結構な体力と知力を伴う作業である、ましてや初めて話す人間、その人となりを想像しながら失礼のないようにと細心の注意を心がける。


文章におかしなところはないか、主語が統一しているか、誤解される言い回しはないか、堅すぎないか、かといって砕け過ぎてはいないか、などなど相手が見えないだけに一苦労する。


そのような面倒くささを越えなくてはメール交換は成立しないのだが、ふと我に返り「自分は何故こんな見ず知らずの人間に対して悩んでいるのだろうか」と覚めてしまうと元も子もない。よっぽど失礼なことを書かない限り返信が来ない多くのケースはこのようなものでありましょう。


こう言った事を繰り返すことで、随分文章の勉強にはなったと思う。


無論、ストレートに運良く返信が来ることもある。ただ、むこうの知能が低いのか想像力がないのか、単文でしかメール交換が出来ない人間がいる。しかもこちらが質問したQに対してAでしか返さないような単細胞さであります。話に発展性がない。これではやがて質問しているほうがまるで尋問でもするかの様な気分になりげんなりしてしまいます。


メールの交換が長く続くということは、読める文章を正しく書けるということと同時に想像力があるということであり、その下支えに大いなる妄想力があるということなのだとおもいます。


想像力とは悲喜交々の思いが含まれるが、良い想像よりもどちらかというと前述した注意喚起、慎重性、といった危機回避的実用的ツールな側面が大きく見て取れる。


自動車教習所で再三言われる「だろう運転」は「この先の路地から子供が飛び出してこないだろう」ではなく、「この先の路地から子供が飛び出してくるだろう、かもしれないから気をつけよう」という危険予測をしろという意味です。


対して妄想は根拠のない自分勝手な都合のいい想いであります。

「オレは無事故無違反で3年後にはゴールド免許を取る」とか「あやまって女性を事故ではねてしまった、しかしそれは、大金持ちのお嬢様で奇しくも恋に落ちてしまい逆玉になる」といった言い換えればスーパーポジティブ思考とも取れます。いかがわしい響きを持つ「妄想」だが、このように考えると妄想ができないと夢も希望も生まれないことがわかるかとおもいます。


くどいようだが空想とは「俺は人をひき殺しても生き返らせる事が出来るから大丈夫」といった類のエキセントリックな思考で、心の中にだけ停めおいた方が無難ではありましょう。


こういったサイトを覗くと、男が女に求める条件はそれほどないが、女が男に求める条件、俗に言う「三高」というものは今でも充分健在である事がわかる。


高学歴、高身長、高収入、女性のほとんどがこの三つを重視している。

つまるところ女性は選ぶ側であるという構図なのです。これは動物の世界でも通用する通念で、孔雀のオスの羽が美しいとか、強いオスのシカだとか、そういった類の話と一緒であります。メスの本能としてより良い強い遺伝子を残すために強い優勢なオスの遺伝子を選ぼうとするのでしょうな。


だが、人間の馬鹿なところは、自身が生物界においては最も複雑な身体構造を持ち、精神という独立した意識体を持ちながら、最も形骸的な部分に判断をゆだねるという原始脳的思考が未だに拭いきれないところにあります。


何故そこまでいえるのか、それは、人間の住む環境は変化するからであります。環境が変われば全て無意味になるかもしれない条件だから。


三高というブランドは今の日本社会において支えられているだけであります。

想像力と妄想力に乏しいものほど判断を外部条件であるブランドに委ねたがる、「○○だから間違いはない」そう、多くはそれで正解かもしれない、それはこの社会がそれだけ安定しているということだからです。我々はそういうものにぶら下がって生きているという事もよくわかります。


ただ、想像力と妄想力がなければ自身はその指し示されたブランド条件の上でないと歩く事が出来ず、そこからは決まった花しか開花させる事が出来なくなる。より長く蔓を伸ばし、より大きな花を咲かせる、そんなまだ見えない希望を夢見ることはかなわない。そして今が自身の到達した最上級だと疑いやまない。


かくして、こういった出会い系サイトに足を踏み入れた私の頭にはこの三つの想力が浮かんだのです。


この三つの想力は、私の小説執筆意欲の原点となり、苦い思いも無駄ではなかったなぁ、と思う今日この頃です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ