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5 マーティンは花粉症 

私は花粉症、でした。


20数年のキャリアを持つベテランでした。幼少の頃は周りでも花粉症に悩まされる人などおらず、正確には「花粉症」という言葉がまだ出来ておらず、(少なくとも私どもの耳にはまだ触れない程度で)単なる「アレルギー性鼻炎」と片付けられてきたのです。


それが何時の頃からか杉の花粉が原因であると囁かれだして、その由来は戦後の杉林の乱植と都市圏の舗装化で春になると舞い上がる花粉が過剰に空気中に滞留するためだと、まあそんな風に言われて久しい。


大抵この時期の「花粉症もち」の日記やブログといえば、花粉症に対する嘆きが大半なのですが、私は今までこれをやりませんでした。


というのも、永らくキャリアを積み重ねるとどうでもいいことになってしまうのと、今更感という諦めが混在して、もはや話題にも触れることを忘れるためであると思われまして。


基本花粉症は一度罹患すると治らない、といわれております。


ところが私はこれまで八年ほどの間、ほとんど無症状ですごしています。

花粉の飛散量の問題もあるのでしょうが、ある年からぴたりと止んだのです。


おそらく物心ついてから「春」に「深呼吸」をすることのすばらしさを初めて体感したものでした。この時ばかりは「春とはなんと美しい季節なんだ」と実感いたしました。


このことから「20年以上花粉症を続けた人間」には克服の道が開いているのだと確信に変わりつつあるのですが、そのくらい耐えれば体質が花粉に順応してしまうのではないかと、そう考えたわけです。


事実私の周囲の人間も数人ベテラン選手がいましたが、私と時期を同じくして症状が軽くなるか、無症状になったため、無邪気にもその説を吹聴しています。


なんといっても花粉症キャリア20年を超えるその極みに達した者というのは、ある意味、後発の花粉症キャリアより多くの時間その苦しみに耐えてきたのですから「達人」と言っても良い。マイスターと呼んでくれてもかまわないし師匠でもマエストロでも超越者でもニュータイプ(以下略)でも。 


丁度私の症状が軽くなりだした頃から「花粉症のクスリ」をはじめマスクや各種グッズといった便利グッズが多く販売されるようになったのは御存知の所、そういうシェアが生まれること自体が巷で花粉症に罹患した人が増えだした証拠といえ、そんな人々を横目にどんどん改善してゆく私は「ざまぁ見ろ」だったわけです。


性格悪いですが幼少の頃よりこの苦しみを味わってきた私からすれば言いたくもなったものです。


さて、それはさておき長年花粉症と対峙してきたベテランからの見地で改めて考えてみたい事があります。


花粉症とは一体何なのか? 治るものなのか?


専門分野ではありませんから細かいことはわかりませんが、結論としては「治りません」、が有力で、花粉症の症状は抗体の過剰反応である限り、反応しないようなカラダになるしかないと結論づいています。これを科学的にどうかしようとしても結果としては対処療法しか手立てはなく根治治療は確立されておりません。


また、巷では乳酸菌が良いだとか言われていますが、これは腸内環境を改善し、体質が改善することで過剰な防衛反応をしなくなる体にするということですが、そもそも腸というのは敏感な臓器でして、ちょっとしたストレスで調子を悪くしてしまいます(要するに健康の元は腸にあるのです)その根本を改善するというのはあらゆる健康につながるわけでして、じゃあ、そもそも健康な人間は花粉症にならんのではないか、というとなります。


ですのでこれは悪くはないでしょうが直接的に効果があるとは思えませんし、私は信じていません。何より私は何もしていません。


また、歴史も意外と古く、古代文献などを紐解いてもそれと酷似するような症状が書かれているそうです。その風土病は季節と風により影響し土地を移ることによって改善した(転地療法)というわけでして、工業公害でなければまがいもなく花粉症の類でしょう。


アレルギー反応はある一定量のアレルゲンに晒されることにより抗体が発動するとされておりまして、アレルギーコップが溢れると例えで言われるように一度発動すると文字通り覆水は盆に還らないわけです。


ですから、長く花粉とのお付き合いをしている職業人や、花粉が飛んでくる地域に永らく住んでいる人は必然的に罹患しやすいです、もちろんもともとの体質がかなり影響しているというのはいうまでもありませんが。


では杉林の中に住んでいるような田舎の人がこれに罹るかというと、未舗装面積が都会とは比べ物にならないため、空気中に花粉が舞う率が低いのでさほど罹患率は高くないともいわれます。


また、「発信元」となる春の風媒花である杉自体のお膝元ゆえ、花粉は春風に乗って頭上を飛びこすからとも考えられるわけで、この時期ハイキングに杉林の山に登っても意外と何ともないという事実もあります(ワンゲル部所属だった私が身をもって経験しています)


春は花粉症に苦しむ人々にとっては、これは新たな生物兵器なのではないか、とか業界の策略なのではないか、などと言いたくもなるほどつらい症状が続きます。この時期ばかりは青少年でなくとも屑籠の中身がティッシュだらけになります。


さらに「春満開」「春らしい陽気」「穏やかな風」という天気予報士の言葉に憂い「豪雨」「一日中雨」「しばらく回復しない」と言った言葉にただ喜びと安堵を感じる、ひねた人間性に陥ります。


また、罹患した人とそうでない人の間には埋めがたい深い溝があり、これが原因で人間関係を崩した人も多いのではないでしょうか。


昔ティッシュのCMで、「なぜマーティンは杉の木を切ったのか」ってのがありましてですね。母親が「普段はいい子なんです」と警察で嘆き訴えてるんですね。要するにマーティンは器物破損で拘留されているわけです。で、留置所でマーティンはくしゃみをする、という秀逸なCMでした。


私は当時ものすごく共感したのを覚えています。

健常者の方々は理解しがたいでしょうが、いくら自然破壊を断罪するエコロジーが盛りあがりを見せても「杉の木を無差別に切り倒したい衝動」は花粉症の人なら誰でももっていることは間違いありません。



言うまでもなく日本で花粉症の人は杉が2月から3月、ヒノキが3月から4月、あとはブタクサ科、イネ科の植物と続くわけでして、長い人なら6月くらいまでは何らかの花粉に悩まされる場合があるのですが、経済効果として耳鼻科と鼻炎薬関係とティッシュの需要はうなぎのぼりですが、それ以外のほとんどの分野では下落します。


日本の約3割の人間が花粉症であると囁かれる中、それらの人々が定期的に一年の数ヶ月間をティッシュとマスクを手放せない状況に陥り、鼻炎薬で脳を酩酊させ目頭を熱くさせているわけですから、外に出ることを億劫がり、仕事の能率は意識せずとも堕ち、アレルギーを助長させる飲酒なども控えるといった事が如実に現れる。


これは国家としても忌々しき事態な訳で、少なからず何らかの対策を練らなければこれからも花粉症患者は増えるだけで、既に生まれてくる子供達ですら何らかのアレルギーを抱えている時代、日本国民はその脆弱さで生き残れるのだろうかと思う。


で、当のお上は「花粉の飛散が少ない杉の植林に随時シフト」しているのだそうです。


それでもまだ、杉を植えるのだそうだ。


杉はたしかに成長が早く古来より住宅建材として使われてきた事と無縁ではないが、これより先、あきらかに人口減少の一途を辿るのであるから、戦後の焼け野原や高度経済成長期のように住宅需要が増える見込みはない。


またそれにまつわる花粉症という弊害を考えたとき、そろそろ見直しの段階にはいっているのではないだろうかとも思えますし、本来なら国内では成長が遅くとも保水力と土砂流出防止に強い広葉樹を今後は増やしてゆくべきです。


まあ、この花粉症をとってみてもそうですが、人間都合で山林を切った貼ったを繰り返し、生態系を変化させた上での土砂災害、野生動物の異常繁殖や異常行動、そして花粉症と、一サイドの都合により得られるメリットにはリスクはつき物であるというスタンスはいまだ健在であるなと思います。


また少し脱線しますが、割り箸は、杉の植林の際に発生する間伐材や製材の工程で発生する端材や残材(いずれも不用品)から作られるということを御存じない方が多く、森林伐採などにおいてよくやり玉に我が国の割り箸文化が挙げられています。


いかにも日本人が割り箸で地球環境を破壊しようとしているかのようないわれをするものですが、実は一人年間17箱ものティッシュを使う日本人(これも少々大げさだが世界一です)実はこっちもかなり問題で、真面目に計算すると一年間で100万本の木材をティッシュに消費しているとも言われています。(木材パルプを使った場合ね)

つまり、割り箸の消費頻度を云々言うなら世界一のティッシュ使用量を誇る日本の消費頻度も考えたらいかがかな、とその原料の出所を考えれば思うわけです。


ま、かといって木材が不足しティッシュ使用を非難し禁止することは花粉症患者達の暴動を覚悟することであると胸に刻むべきでありますから、そういった国家転覆の危機的状況に陥らないために国策として杉の木を植え続けなければならないのかもしれません? あれ、何か変か?


まぁ、花粉症になりたての諸君はせいぜい頑張ってくれたまえ。


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