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46 伊達直人現象

 さて、奇しくも「タイガーマスクW」が放映され、この記事を発掘しないわけにはいかないと、私のような不届きな物書きは考えるのです。


 2010年の暮れごろに頻発した、児童養護施設などに『伊達直人』名義で学用品などが送られてくる寄付行為を指して『タイガーマスク運動』などと呼ばれていたりします。


 この傾向は年々なりを潜めて今ではほとんど聞かれなくなったのですが、概要は以下のような感じです。


以下は私が六年前に書いたコラムです。(なぜそんなものを、というのは後述します)




 匿名「伊達直人」名義で送られてくるランドセル、学用品などが複数個、金額的にも数十万円規模のものが多く、当時確認されるだけでも300件にも達しそうな勢いでありまして、施設前に放置するといった送り方もしていました。


 放置された贈り物が一部では、無粋にも遺失物の扱いになるなどのケースもありながらも施設としてはありがたいの一言で、おおむね好感を得ていたようです。しかし当時でも現金の寄付が一番助かるといった正直な意見をおっしゃっていた孤児院の方もいました。


 そもそも伊達直人とは誰なのかと申しますと、梶原一騎原作の漫画作品『タイガーマスク』の主人公で、孤児院出身で、悪役レスラー養成機関「虎の穴」に養成された悪役レスラー「タイガーマスク」の正体であります。つまり中の人。


 このタイガーマスク、当初は悪役だったのですが、まあ人の心に触れつつと申しましょうか、そのうち反則を非とする正統派レスラーとして成長し、名実ともに国民のヒーローとなってゆく様を描いたものです。


 劇中の虎の穴から送られてくる刺客(悪役レスラー)との戦いがさも世界征服をもくろむ悪の軍団との戦いのように描かれるのですが、実のところ虎の穴としては裏切り者のタイガーマスクさえ倒せばそれで良いわけで、暗殺未遂とかもまあ、あったんですけど基本的には虎の穴もリングの上で決着を望むところなんか、なかなか潔いなぁ、とは思います。つまるところタイガーの戦いとは私闘なんですな。


 じゃあ、なんでそのタイガーが孤児院と関係があるのかと申しますと、タイガーである伊達直人は孤児院出身で、悪役タイガーマスクとして稼いだファイトマネーは上納金として虎の穴へ半分、そして直人の取り分の一部を孤児院に寄付していたからで、まさか子供たちに悪役レスラーである自分の正体を知られるわけにはいかず、タイガーマスクであることを隠しながら寄付を続けていたんですな。


 ことの起こりはある日突然タイガーが上納金の支払いを拒否して、それを孤児院へ全て寄付してしまうという暴挙に出たんですな。当時は自動引き落としとかなかったんでしょうけど、なにより虎の穴がプロダクションとして機能していなかったのは経営戦略上非常にまずかったのではないかと思われます。


 それで親にはむかった裏切り者、としてタイガーは刺客に狙われる日々が始まったのです。


 非常に当たり所のないモヤモヤした問題で、そういうことを誰かに愚痴るわけにもいかず、一人孤独な戦いを続けるタイガーはやがて最終回で……という展開のお話ですが、昔は何でも表現が露骨だったなぁ、と思います。


 妙にリアルというか、悪役の理屈にも頷くところはあります。なによりシビアと申しましょうか、生きること死ぬことというものを強いさまで描く作品が多かった時代なんでしょうか。


 事実上、今のように大半の人の生活がそこそこ満たされている日本ではなかったですから、野垂れ死にも珍しくはなかったわけですし、善悪の彼岸もまたはっきりとしており、欲しいものはなんですかと訊かれて答える答えは皆同じといっても良いほど、一元的だったのだろうなぁ、と感じます。


 それだけに、そのシンプルさゆえにメッセージ性をことさら強調せずとも心に響く作品となりえることが多いのは昔ならではなのかもしれません。


 で、タイガーマスク運動に戻りますが。


 阪神淡路大震災の時にもタイガーマスクをかぶって支援活動をされていた方がおられるのですがこちらも、復興のため、地域の治安のために尽力なさった御仁で、震災後も精力的に人道支援に携わっておいでのようです。が、彼は伊達直人名義では活動はしておりません。


 普通にタイガーマスクといえば作品を知らない子供でもわかるようなメジャーなキャラクターですが、伊達直人ではどこの誰なのかすらわからないでしょう。私ですら当時ニュースを見て思い出すまでに少しかかりました。


 無論タイガーマスクも伊達直人も故梶原一騎先生の創作ですから実物がいるわけがないので、誰ぞが匿名の代わりに騙ったのだろうということは容易に想像できます。ただ、ネーミングチョイスが古いなー、というのが印象ですし年代ばれるよなぁ、というのが正直な感想です。


 後続の有象無象と申しましょうか、全国で300件にも達する勢いの伊達直人があちこちで発生する様はやっぱ作品の偉大さを実感すると共に、あー、こんな時代でも表沙汰に出来ない金があるところにはあるのだなぁ、などと邪推もしてしまう。


 場合によってはですよ、マジもんのやばい金だってあるはずなんです。それこそ「○○に上納するくらいならいっそ孤児院に寄付してやろう」と考えた御仁だって中にはおられるかもしれません。今頃どうなっているかは知れませんが。


 それに、伊達直人を騙るくらいなら、別に山田次郎でも鈴木太郎でも効果としては同じであって、匿名性に重点があって伊達直人を騙っているのではないことは容易に想像できる。


 つまり、まとめると、伊達直人を騙った人々は子供に対してアピールしたのではなく、わかる人、あるいは年代にはわかる「符号的」な位置づけで伊達直人という媒体を使用したといえます、でなければ「サンタクロース」でも「あしながおじさん」でもよかったのですから。


 当然ながら、これらが単にめいめいに山田次郎や鈴木太郎名義での匿名の寄付を出したところで、こういった現象が生まれることはなく、話題にすら上がらなかったはずです。そもそも普通の生活をしている方々は孤児院というものを意識して生きていることはまずないでしょうから、ある意味ではこういった運動の活発化は世間の耳目を集めより大きな支援の輪が広がることが期待できますし、実際に大きな広がりになりました。


 ただ、メディアに取り沙汰される伊達直人現象を発端とするタイガーマスク運動は支援の顔をした「お遊び」の一面が当時あったことは私はしっかり指摘しておきます。予めマスコミの反応を予測して計画されたものならばいざ知らず、それぞれの個人がこうありたいという思惑が見え隠れするではありませんか。


 ともすれば義賊的と言うか、正体は隠して影から人々の幸せを見守るといった日本人の好きなロマンチシズムが大いに発揮されております。もちろん私も好きですけどね、そういう行為は。


 しかし、人が何かをもらう時、相手が誰だかわからずにもらうよりもわかってもらうほうが断然いいにきまっています。特に孤児院ともなれば「大人に裏切られ、信用できない信頼できない」で入所している子供たちがほとんどですから、顔の見えない「いい大人」の名を騙る行為は決して褒められたことではありません。


 まさか全国の伊達直人が表に顔を出せない職業の人々だとは思えませんし、なにより劇中の伊達直人はちゃんと子供たちの前に姿を現して、彼らと交流しておりました。優男だとか金持ちのボンボンだとか、生意気な子供たちから揶揄されながらも笑顔で応えていました。(ちなみにその中の一人が、後のタイガーマスク二世として活躍します)


 ですから、送る金品がやましいのではなく、単に対象と触れることが苦手なのだと言うのなら最初からそんなもの特定の孤児院なんかに贈るのはやめてユネスコにでも寄付しておけばどうですか?と。


 全国の伊達直人さん、子供たちを心底思う気持ちがあるのならばその行為を絶えることなく続けてください。そして、それでもどうしても人前に顔を晒せないのであれば、その時はタイガーマスクを被って行くことをお勧めします。




と。これを書いた(一部修正していますが)当時が2010年、その翌年、この波を受け2011年「初代タイガーマスク」こと佐山聡氏が「初代タイガーマスク基金」という児童福祉支援団体を立ち上げています。同時期に別団体の『タイガーマスク基金』という団体もあります。いずれもこの発端となった『伊達直人』によるタイガーマスク運動からの広がりです。


そしてこのたび、2016年現在、私がこうして再び原稿を掘り起こしたのは何の因果か、まさに先日12月7日に、2010年に一番最初に伊達直人を名乗った河村正剛氏が素顔を晒すというニュースがありました。


当時の思惑は様々あったにせよ、結果として一つの人間の温かい輪が形成され、今も続いている。

河村氏を知った後ではとても書けないコラムでしたが、あの時書いていてよかったと思います。いずれの形なれど人の善意は集合し純粋化してゆくものだな、と実感しました。

これで伊達直人の仕事は終わりですし、伊達直人という個人はもう二度と現れないと思います。

改めて、伊達直人、タイガーマスクを生み出した梶原一騎先生に敬意を表するとともに、この先子供たちを支えてゆく彼らを応援したいと思います。


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