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36 スーダンな儲け話

 スーザン・ボイルと言えば皆さんご存知の天使の歌声。別にそれとは関係ございませんがスーダンという国がこの地球上のどこかにあります。ブータンという国もありますからややこしいわけでして、どちらがどのようにどう違うのかなど、われわれ極東の辺境の民からすればどうだっていいことなんではありますが、まあこの際ですからはっきりしておきましょう。


 まず、本題から外れるブータンですが、こちらはインドと中国のちょうど間に挟まった立憲君主制の王国です。そう、「幸せの国」とまで呼ばれるほど国民の幸福度が高い最貧国にランクされる国です。例によって中国と接しているだけに領土の問題で揉めているようです。


 で、スーダンですが、こちらは北アフリカにありまして、エジプトの真南にあります。詳しくは割愛したいのですが、そういうわけにもまいりませんので、一応退屈な話ですがお読みください。


事の発端は例によって白人どもの植民地争いから、なし崩し的に大戦突入、独立運動、自治政府樹立といった、おおよそ多くの発展途上国が歩んだ道のりをたどって来ました。


 しかしながら、植民地時代に欧米諸国が世界にばら撒いた民衆のアヘンとも言うべき宗教がこのスーダンの禍根として未来に残ることになります。簡単に言いますとスーダンの場合、宗教をはじめとする思想や言語が民族を分けることになりひいては対立の構図を作り上げてしまったことで、世界が静かなる戦争「冷戦」に突入してゆく中、熱い熱い南北対立の内戦が1955年から第一次、二次と立て続けにおきます。


というか現在に至るまで約50年もの間戦争をし続け、国土も民衆も疲弊しまくって失敗国家という烙印を押された、とても住みたいとは思わないような、ブータンと同じ最貧国でも幸福には程遠い国であります。


で、なんでそのスーダンが話題に上るのかと申しますと、実はそのような情勢下でこの資本経済時代を過ごしてきた国だけに、開発というものがほとんど行われておらず、世界有数の石油資源やレアメタルの埋蔵量が注目されているからであります。またこういった背景から復興の支援を申し出る国もちらほら。経済破綻した国というのはですねぇ、あらゆる利用価値というものがあるのですよ。


以前「スーダンの復興支援をしている会社です」といった電話が固定電話のほうにかかってきたことがあります。彼ら電話の先の主の弁によると「スーダンという国をご存知ですか? 我々は皆さんにスーダンのことを知っていただこうと、こうして電話で意向の確認をさせていただいております」と。


何の意向かと聞くと。


「詳しい資料を送付させていただきます」とのこと。そんなものはネットで調べれば判る、大体寄付でも募るならその郵送料にかかる金をスーダンに送金してやるほうがよっぽどいい。あんたらは善意の第三者ではなく、他の意図があってそのようなことをしているのだろう? と問いただしたらあっさり吐いた。(とはいってもかなり私も大人気なく社会人としてあるまじき言動で電話の向こう側の人間を責め立てたのですが)


外貨預金を募る名目だという。


なるほど、イラクと同じ方式だな、と。かのイラクディナールによる投資という商売は何も違法ではないのだが、つまりイラク戦争がおこり政経のあらゆる分野を米軍が破壊しつくした結果、いわばスーダンと同じく為替レートが最低まで落ち込んでしまい、あわよく以前の水準までレートが戻ったら、投資額のン百倍の利益が得られますよー、というおいしそうな話であります。


つまり私が話した電話口の人間が言いたかったのは、円を実際のスーダンポンドに換えて持っておくという、「外貨の箪笥預金」のようなものだということであります。つまり外国の通貨を投機目的の商品として買うということですな。


この手のビジネスで問題があるのは、誰もイラクディナールにしてもスーダンポンドにしても実物をみたことがなく、真贋を見極められる人間が日本国内ではごくごく限られているということで、しばしば偽金をつかませるという詐欺があることだろう。


さらに、情勢不安ゆえ当該国の時の為政者や政情次第では通貨など変わって「そんなもん知らん」といった事になる可能性もある。


なにせ、復興するまでは換金しないで「箪笥預金」するってのが基本ですから、そりゃあ、平気で五年や十年はそのまんま金融機関にも触れずにお家にしまっているわけです。


じゃあ、復興支援って一体何なのよ?と思われるでしょうが、つまりはこの為替取引を代行する会社が収益の一部を支払って復興支援金に充てているという名目で、契約者からたかっているのだろうと。


もちろんいい大人ならば、復興支援金として充てているなどと聞こえのいい文言がついているということは、誰かの懐に消えても誰も怪しまない現金でもある、ということぐらい勘案していなくてはいけません。


さらに言うと、日本円をスーダンポンドに替えたとて、本物のスーダンポンドは来ませんから証書として残るだけです。これも真贋を見極められない上に誰が保障してくれるのかと問うならば、件のあやしい復興献金を募っている会社、ということになります。


私は人の不幸を金儲けのネタにすることにそれほど腹が立つわけではありませんが、何より腹が立つのは、稚拙な言い回しで、いかにも自分たちは善人であり、金儲けは奉仕への最低限の報酬であると「結果として双方がよければ良いではないですか、物分りの悪い人だなぁ、オタク」と言われる事であって、それならそうとストレートに「アフリカの超失敗国家にこれからテコ入れするんで、一口乗りませんか?」とでも言えばいい。


私はもちろんそんなものに加担することはありません。


なによりクソ生意気に興味のかけらもない単なる途上国のにわかじこみの情報を得意げに垂れ流し、崇高な使命を全うしているのだといわんばかりの口調の裏には、生来の育ちの悪さか、横柄で人を騙すことなどなんとも思っていない人間性が窺える電話口の男が気に食わない。


もちろんこの手の業者の多くは「先物取引」で、風向きが変われば業態そのものも変化する。昨日言っていたことが今日になって覆るなら、昨日までの事は自他共になかったことにしてしまうため、いつまでこの商売を続けるのかすら不明確です。


そんな銀バエどもがたかり、蛆虫を生みつける黄金のような国、北アフリカのスーダンのような国を見ると私は虚しくなります。それは世界のいびつさを再認識すると同時にこの国の哀れな命運はおそらく今後も尽きることをしないでしょうし民草は富めることなく地を這い蹲り続けます。


大戦後からまともな国家を形成したことのない国がどうして戦争するための武器だけは潤沢にあるのか、人を生かすための食料も家も教育もないのに、人を殺すための道具だけは有り余るほど、どこからかやってくる。


ソマリアもそうですが、誰もこの最も基本的な事実から目をそむけている。

戦時平時かかわらず世界のどこであっても、金になるのなら何だって商売道具にする人間がいるということは認めるしかないようです。



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