35 僕と君の赤い糸
最初に断わっておきますが、私の話ではございません。
恋人同士、あるいはそれの予備軍の中では依然「赤い糸で結ばれている」というロマンス(妄想)に根強い人気があるようで、まあそこのところどうなんか、などと考えてみたわけです。
先日、某番組での相談コーナーである女性からこんな相談が。
まあ相談というか愚痴というか微妙なところですが。
「先日、私の友人が私が好きな男性と付き合っていることが発覚し、とても割り切れない気持ちです。なにより友人が私に内緒にしていた事が許せません、この気持ちをどうすれば良いでしょうか?」
と、どうもこうもなく、コメントも「あきらめなさい」しかないのですが、それでも悔しければ略奪するか、男が悔しがるようないい女になることしかないようには思います。
えーと、ですね。
えてして男にはこの感情があまり理解できません。というか私はほとんど無理です。
もちろん自分が好いている女を友人がかっさらったとすると、その二人が共にいる姿を見たくはないというのは正直なところかもしれませんが、強がりであっても「幸せになれよ」ぐらいの事が言えなくては格好が悪すぎますし、まして恨み節なんてのはますます自分が惨めで、文字通り女々しいと思うのでグッとこらえて我慢するのがよいかと。
私なんぞは相手が引くほど逆に寄っていくようなところはありますから、グッとこらえて我慢どころか失恋そのものが今後のネタになり、片思いの時よりもフランクになり、当の友人から好きだった彼女の話をより聞きたがるようになります。
でも、向こうのカップルのほうが私に気を遣い、離れてゆく傾向はどこも一緒でしたから、なかなか恋と友情とは同居の出来ないものだなと後味の悪い思いをしたものです。
まあ「許せない」と意気込まれても、許すも許さないも、なんであんたの許可が必要なのか? と大真面目に応えたくなるもので、選ばれた側と選ばれなかった側という理解が何故出来ないのかが非常に疑問であります。
定員が一名の枠なのだから仕方がないではないか。
私だって「許される」なら複数の彼女がほしいです。
あと、「許せない」の枕詞は「黙っていたこと」というのが常套句で、いやいやこれはいずれ解ることだろうから黙っていたわけではなく、あえて報告することでもないだろうというだけのことで、高校生じゃあるまいし付き合ったからといってウキウキ皆にメールなんかで言いふらすようなことではないと当人達は思っているわけです。
無論先に言っても結果は同じだったんでしょうけど。
さらに、恨み節を連ねる彼女に付き合っている彼がいても、結婚している夫がいても、この「かつて好きだった人」を誰かに取られる、ましてそれが自分の知人だったとなると、烈火のごとく怒りに震えるのは珍しくないことのようです。
これは非常に不思議ですが、私からすれば、当人の彼や旦那の立場がないと思うわけで、彼らに対しかわいそうだなーと同情すらします。
旦那が一番、彼が一番、とまあ綺麗な言葉ではありますが、妙なことに一番好きな人とは結ばれないというジンクスが、一体何の起源があってか言われております。ひっくり返せば一番好きな人とは結ばれないほうが良いということでもあるのでしょうけどね。
つまり、それを一番だとこだわるが故に全てが二番三番になりうるということでもあり、向上心は削がれます。というかそもそも生まれません。
だいたい、なにをもって理想と言えるのか、自分と彼は上手く行く、相性はぴったりのはずだ、と妄信する事がとてもいいとは思えません。それを他の女がその彼とうまくやっているのを見て「上手いことやりやがって」とか「彼は騙されている」とか「私とならもっと幸せなのに」と、つらつら恨み節を念じるのですな。大した自信だなと感心します。意味がわかりませんが。
付き合いも結婚もやってみなければわからないものです、「赤い糸」を信じたくなるのは怠慢だな、としか私は思いませんし、ご都合主義だなと思います。なにより赤い糸が自分がまるで望まない相手と繋がっていてもそれに従う覚悟はあるのかと聞いてみたくもなります。
私は運命論者ですから、赤い糸をある意味では信じています。しかし、自分の最も理想とする人と繋がれているとは思いませんし、それはそれで困ったことになると思っています。
人はそれぞれ男でも女でもパートナーとなるべき人間や、その周囲で影響を及ぼす人間とは利害が一致して過ごしているわけで、自分の都合ばかりを聞いてくれる周囲だけで固めていると何時まで経っても自分というものが見えず、何度となく同じような失敗を繰り返します。
私は私にとって都合のいい人が周りに居ればいるほど自分が不安になります。ドッキリみたいなものですね。
告白と玉砕を繰り返した青春時代を振り返ると、なんていうか、「わが人生に悔いなし」とまでは言い切れませんが、眼中にない女性にまで手を出そうという軽々しさはなかったなぁ、としみじみ思います。
なんで恋をした相手が自分にとって最高だったのだろうか? なんて今更首をひねっていますが、純粋真っ直ぐな青春の日々は黄昏の情景と同時に、勿体無いことをしたと後悔の念も絶えない今日この頃であります。




