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34 がんばれせいしくん

はいはい、相変わらず不景気でどこもかしこも企業は減産体制に入っているそうで、ますますお先真っ暗。まあそれでも人類危機とまではならんでしょう? というそこのあなた! こっちの工場が減産されると人類危機なんすよ、リーマンショックなんて屁でもない。


どこの工場だって? そりゃあんた、男の股間にぶら下がる工場のことです。


少子化が叫ばれて早数年。まあ、ずーっと前から解っていたことなんですけどね。それでも社会構造的には避けられないというところで看過してきたわけです。そんな裏では子供が出来にくい夫婦が急増していると、穏やかではない事実が浮上しているわけです。少子化対策といって政治でどうにかなるものではございませぬ。なんせ子供を作る部品が足りないのですから。


昨今のデータによると男性精子の数が急激に減り始めているという。

「嘘だ、そんなことはない、俺は毎日出るぜ!」

そういう元気な君、それは主に『精しょう』という液体の部分を言うのであって、これだけならばたとえパイプカット(精管閉鎖)しても出るのです。精液とはこの精しょうと精子細胞の混合分泌液のことを言い、精液1ミリリットル中2000万匹の精子があるのが正常とされていますが、この割合が減ってきているのだそうです。


ああ君、そんな精液をじっと見つめても見えませんよ、なんせ人体の中で最も小さい細胞の一つですから。


さて、精子の数が減り始めているということですが。

別に太古の昔から子々孫々精子の数を数えている家系の人がいる訳ではありませんが、どうも過去50年から比べると事実そうらしいです。レッドデータには載りませんがこのままだと絶滅する恐れもあるそうです。


絶滅、つまり種無し男ばかりになり、動物として用無し、雄性ホモサピエンスが誕生しなくなる、そう、つまり人類は子孫を残せずに絶滅する。不妊の原因は様々でしょうが、よく言われる環境ホルモンによるものと、いわゆる食生活に始まる一定の生活習慣病的なもの、まぐわう男女の身体的、精神的相性など、まあ挙げればキリはないわけです。


そもそも人間ほど妊娠しにくい動物はいませんから、もともと子供も多くは生まれないものなのですが、それ以上にやることやってるのに妊娠も出来ないという自体は深刻であると、各研究機関で調べ始めたわけです。


結果だけ書きますと確実に50年前の半数とも言われるほど精子数は減っており、その中でも精子の尻尾とも取れる鞭毛が極端に短いものが多く見て取れ、泳ぐこともままならないという。

これでは女王様の下に馳せ参じるまでに息絶え絶え、戦わずしてくたばるのみと男の本懐遂げられんわけです。


一説によると環境的、遺伝的な問題以外に、そもそもの雄性としての競争能力が落ちている事が原因とも言われており、一夫一婦制の人間夫婦は結婚の時点で「原則的に競争する相手がいなくなる」ため、自分の子孫を残そうという本能的な競争能力をそがれるためだと。つまり、人間にはサルのように多頭交配が「原則的にない」(しつこいって?)ため他を出し抜く強い精子が必要がなくなる。精子も身内だけなんだし何時でもできるからのんびりやろうよ的な平和ボケ状態に陥るわけですな。


さらに近年では社会が安定化し、戦争災害病気怪我などで命を落とす可能性が低くなり、保険的な子供の余剰生産を必要としない側面から少子に留めるむきがあります。

今言われる少子化問題というのは実のところ少子なのではなく、正常な社会においてはせいぜい子供は1人から3人くらいが妥当で、ベビーブーマーが過去の戦乱期に生めや増やせやの兵員増産体制の時と同じようにゴロゴロと子供を生めば、また将来人口肥りが起きてしまうわけです。


確かに人口減少は経済的に打撃を与え、社会保障制度の根底を揺るがし、手厚い補償で豊かな国家、の伝説が崩壊する恐れがあります。人口が減少してもなお今の体制を固持するには国民個人への増税、あるいは保険料引き上げ、あるいは年金引き上げなどいずれも金銭的な負担増が一つ、もう一つは移民を受け入れる、もう一つは老人保障を一定の線で切るか大幅に減額しかありません。

後者二つは非常に難しい問題で実現はほぼ不可能と思われますので、結果前者の負担増が今問題となっているのであります。


こういった負担増は国民に経済不安を与え、それが「お金のかかる子供」というファクターを退け、子なし夫婦という最小単位の家庭環境を選択するケースもあります。それに輪をかけ悠々自適な楽しいパートナー同士の暮らしを満喫したいといった夫婦も増える傾向になります。

また、同じ原因で婚期が男女共に遅れる傾向があり、女性の晩婚化=高齢出産のリスクも一因にあります。


こういった事情が精神的にまったく影響していないとは考えにくく、子供を作りたくないという意志だけでも身からでた細胞片に影響して受精を拒むとも考えうるわけで、「想像できないものは創造できない」という原理原則に照らしても整合性があるなとは思います。


そこから考えますと、男性も女性も文明が進めば進むほど実成人年齢が高齢化しているわけで、法的成人年齢が20であっても大人と呼べるにはまだ程遠いといったことが珍しくはない昨今において、ある程度の精神性というものが備わらなければ子育ての煩雑さには耐えられないのではないかという気もします。


もちろん、出産を期に大きく互いの精神性が成長するケースがほとんどだとは思いますけど。


この話、人事ではないのは、成人男性の精子数は日本が最も少ないらしく、まあ私もその中にはいるかもしれないというところです。数えたことはありませんが今まで出来た覚えはないので。


ただ、このデータは欧州の4カ国との比較なので実際世界的に見ると、というところまでは言えないようです。さらに、日本人は季節変動で精子数が変わるらしく、大きく2グループに分けられるそうで「縄文系」「弥生系」といわれるそうです。つまり2万年以上前にアジア系大陸から渡来した縄文人の血を引くものは7月から12がつにかけて濃度が濃くなり、一方の3000年前に渡来した朝鮮半島経由の弥生系は2月から7月にかけて濃度が濃くなるそうです。


それでも生殖器官異常が少ない日本において、精子数の減少は懸念されるところであり、人工授精をはじめとする補助生殖技術(ART)はこれからの分野になります。


ただ、この補助生殖技術という行為を受けなければ受精しなかった個体に対しては将来的な影響がないとは言えません。というのは、人工的に受精させる=競争に打ち勝った精子ではない、という点と、そもそも生まれてくるはずがなかった個体、という見方もされるためです。


現在不妊でお悩みの御夫婦には耳の痛い話ですが、私は妊娠すれば子供が必ず生まれるものだとは思っていませんから、それこそ子供は天からの授かりものだなと思うようにしています。そのくらい子供という人間を作ることは難しいことなのだと思っています。


現在でも限定的ながら日本でも精子バンクが存在します。ただ、本格的に男性に生殖能力がなくなると、SFさながらの様相を呈し一大ビジネスとして発展するでしょう。


欧米ではすでに一般的ですが、有名著名人の優性精子やら、スポーツ選手やらイケメンのやら、民族別、身長別なんかに分類されて元気な時の精子をストックしておく機関になるわけです。そこでそれなりに有名著名人の精子なんかは高値で取引され、こぞってそれを求めるわけですな。現在でももちろんその動きはあるのですが、市場を席巻するというほどではないようです。


無論こういった動きに異を唱える人々もいるわけで、人為的に胚をコントロールできることは優性学に繋がるとし、倫理的な問題もはらみます。遺伝子工学分野が進むとおのずと遺伝的疾患を除去することは当然になりますし、さらには都合のいい容姿や能力を作り出すデザイナーズチャイルドという遺伝子加工された人間が生まれ出ることになります。


第一に、精子を選べるとしてもマイケルジャクソンの精子を受精したからといって子供がマイケルジャクソンになるわけでもありません。まあ、少しは音楽的な才能のある黒人との混血児が生まれては来るかもしれません(日本人や白人の母親からだと遺伝の関係上黒人質が高い子供が生まれる)が、生まれた子供がスターを目指すとは限りません上、普通の会社員に落ち着いてしがない(かどうかは別としても)人生を送ることになるかもしれません。


むしろマイケルジャクソンの血を引いているのに、ブラック企業でぼろ雑巾のようにこき使われている、という運命に子は絶望するかもしれません。精子を買った母親はそのあたりをよく考えなくてはなりますまい。


子供がほしいというのは人間特有の欲望であり、よく育ってほしいという願いもまた欲求でしかなく、男性が精子を失う前に考え直さなくてはいけないのは、こういった親から子供に対する過度な期待ではないでしょうか。子供の将来像をあれこれ推察するのは親の楽しみですが、子供は希望であっても欲望ではないということではないかと思います。


こういったバンク受精でさらに問題なのは多様性の減少で、一人の遺伝子を受け取る何人もの女性が産む子供はいわゆる「腹違い」の兄弟であり、連綿と人類の歴史の中でブレンドしまくって地元で環境適応させてきた遺伝子という遺産を捨ててしまうことになり、これもまた人類の滅亡に繋がるのではないかという気もします。


生物学的な遺伝と進化のメカニズムの一端は、その種がその地の環境に適応するかしないかという部分が大きな役割を担っています。

たとえ進化論を否定しても、神が創り給うた種もまた失敗的な遺伝子がいくつかあり、それらは過去に絶滅して今は居ないと考えるのが妥当。つまり現在生き残っている種は少なからず現代に適応して淘汰されてきた結果であるといえます。でなければ現実に生活もままなりませんから。


よく言われる三年目の浮気というものは、実は自然の摂理で「3年を目処にして雄性は他雌との性交を求める」というものだそうです。これは先の遺伝子のブレンドという意味が大きく、その場にいる雌雄の総当たり戦が順列組み換えで行えるため、脆弱な種は個体数、遺伝質数のバリエーションを増やす必要があるからだと言われております。

おそらく人類が自己増殖を可能とする人工生命体を作れたとしても、必ず雌雄二対以上のバリエーションから実験を行うでしょうし、その上で選別もするでしょう。


もっとも、人類においては既に遺伝子のバリエーションを増やす必要はないと思われますので、くれぐれもそれで浮気を正当化することはないように、と。


しかし、種なし男と種あり男の間に格差が認められるような時代になっても、種あり男が「毎日搾りたてホームメイド」を振りかざし、戦わずして伴侶を得られるかというと、それはまた別の話になりそうです。


ああ、そこの君、ペットボトルに溜めてるんじゃない、出したものはちゃんとティッシュでふき取りたまえ。勿体無い気持ちはわかるが。


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