31 キンがすごいんです!
私の職場は店舗であります。ゆえに多くのお客様や、お得意様からお電話をいただきます。
しかしなかなか手放しで喜べない電話というものもありまして、これを読んで自分がやってることが該当するという方がおられたらぜひとも是正していただきたい。
「こちらNTT販売店の高橋(実名)と申します、社長様でいらっしゃいますか?」
まぁ、慣れた口調ですらすらと女性からの電話。こういうとき社長ではなくても私はなりすまして対応してます。
「はいはい、なんでしょう?」
「事業者様向けに固定電話や携帯電話の料金が最大4割から6割お安くなるサービスを提供してまして、順次ご都合のついたお客様から担当の営業のものにまわらさせて頂いておりますが、社長様のご都合のほうはいかがでしょうか?」
以前摘発されるまでは電気料金が安くなるというサービスがまったく同じ手口でしょっちゅう電話かかって来ましたけど……。
「えーと、それは何で安くなるの?理屈は?」
「お電話料金をお安くするサービスです」
「いや、だからなんで安くなるの?」
「お安くならなくてもよかったでしょうか?」
「なにそれ?」
「ガチャ!」
ほほう、相当常識のないやつである。
それだけにさらに馬鹿である、その証拠に5分後もう一度ベルがなる。
「こちらNTT販売店の高橋(実名)と申します、社長様でいらっしゃいますか?」
あ、さっきガチャ切りした女やないか。
「はいはい、なんでしょう? おたくさんさっきかけてこおへんかった?」
「いえ、私は初めてですが・・・。」
「そう?」
「今回事業者様向けに固定電話や携帯電話の料金が最大4割から6割お安くなるサービスを提供してまして・・・、」
「あーあのね、お宅の会社なんていう会社?」
「NTT販売店です。」
「いや、だから、会社名」
「メッツです。」
「じゃ、会社の電話番号教えてよ」
「こちらコールセンターですのでお教えすることはできません」
「だから、おたく会社でしょう? 会社の電話番号を教えてっていってるの」
「申し訳ありません、お教えできません」
「ほほう(ニヤリ)」
「ガチャ!」
というやり取りが先日ありました。
こういう手で、都合が悪くなるとガチャ切りする営業が非常に多い。
そもそもテレアポとってくる業者というのはほとんど怪しい。
これからはあやしい業者の会社名も、個人名もどんどん公表してゆくので覚悟してくれ。
名誉毀損とか営業妨害とか言うなよ、こっちはガチャ切りされて精神的苦痛を感じてるんだからな、ガラスのハートにひびが入るおもいだ。逆に訴えるぞ。
あと、しつこいのでいやなんですが、「うちで一押しの商品はトウモロコシなんです」
商店街の八百屋のオヤジの電話営業ではなく、いわゆる先物取引です
「近頃は銀行金利も落ち込む一方で……事業資金の活用ということで……」
「おたくがやったらいいじゃないですか」
「いつもいわれます」
じゃあやれよ。そんなに儲かるなら会社辞めてそれ一本で食っていけよ。
「わたしはね、お金がなくなって生きていけなくなったら死にます。わたしはそんなに生きることに執着してませんよ」
半分は本当のことである、相手は素直に聞いています。
「だから」営業のご挨拶には来なくてもいいという意味で切々と語ったつもりなのだが、この馬鹿、アポなしで次の日いきなり来やがる。
「メディアックの梅戸(実名)です!今朝の日経読みましたか?トウモロコシがすごいんですよ!」
「おい、お前。昨日の俺の話きいてなかったやろ。聞いてなかったのなら論外やし、聞いてて来たんなら、なぜ来たのか説明してみろ!」
そういうわけで、これらの営業のかたがたは何か大きな間違いをしておられます。
どんな話でも電話で話ができたら営業第一段階成功だと感じているらしく、つかんだとおもってるのでしょうな。そもそも説教したりまともに会話してるわたしが間違っているのでしょうけど、こちらは人として最低限の礼儀を尽くしているのが判らんのでしょうか。
でまた別の日には、「社長! いまキンがすごいんです!」と電話が入る。
「ほう、キンねぇ。炭疽菌とか白癬菌とか納豆菌とかビフィズス菌とかのあれかぁ」
「あ、や……金です、ゴールドです!」
「ああ」
「ご存知でしたか? 金は夏場から冬場にかけて相場が上昇するんです」
「へぇ」
「といいますのはね、金の採掘量世界一はインドという国なんです」
インドという国というところで吹きましたが、まあいいでしょう。ちなみにこれ、間違いです。現在の金の産出量トップは中国です、インドなんて十位にも入っていません。インドがナンバーワンだったのは金の消費量です。それも三年かそこら前に中国に抜かれてます。
つまりいずれにしてもインドナンバーワン論を展開した営業トークはこの時点で破たんする訳です。
「今買って、冬に売れば最大で二倍の利益が得られるんですよ!」
「あーでも、金で金を増やすなんてのは不健全やなぁそもそも(中略)」
「なんだか社長さん悟ってらっしゃいますね……」
「まあ、君からしたらそう聞こえるかもね――そうだ、大事なことを教えてあげよう」
「はい……」
「金が人を幸せにするんじゃないんだよ。この世界はそんなふうにはできていない」
「でもお金があったらあんなこともこんなことも……」
「では具体的に、今、君はあんなことやこんなことを考えているかね?」
「いえ、今はお金がないので……」
「今の君に必要なことは、己を知ることだ。今の仕事、けして自分が適材だと思っていないように、君はまだ何もわかっていない。お金を必要とするのは人生が判らないという不安からだ。自分がどうなりたいのか、どうあるべきなのかが判れば必要な金はついてくる。逆に不必要な人にはついてこない。金=幸せだと考えている現代人は世の理を忘れているのだよ、世の理とはすなわち――」
今春入社した先物取引の新入社員23歳は絶句。
「今までそんなこと考えたこともなかったです」
そりゃあそうだろうな。電話口で延々30分、一方的に私の小説のプロットを聴かされたんですから。
もちろん私は社長じゃありません。




