29 駐車禁止を作った男
それは私のことです。実話なので、思い当たる方がいるならばご勘弁を。
私の通勤道路にはかつて駐車道路という、法の穴を抜けた『夜間駐車黙認エリア』という地帯がありました。全長二百メートルほどの道路ですが、マンションとマンションの間の片側一車線の六メートル道路で、夜間になるとマンションの住人がこぞってそこに駐車をする道路がありました。
私は帰りが遅いため決まってその現場を目撃しているのですが、いつでも停まっている車は同じ、しかも停める場所も決まっているようであり、彼ら違法駐車を行う者達の間で暗黙のルールが出来ているようでありました。おそらくはマンションの住人らのセカンドカーの駐車場と化しているのです。皆やっているから大丈夫だと。
それがどれほど酷いのかというと、二百メートルの片側車線を十数台の車で埋め尽くし、片側一車線しか機能しない道路にしてしまう程です。要するに公共の道路を私的占有しているわけです。
これは「赤信号皆で渡れば怖くない」どころか「皆で渡れば信号を無意味にする」というテロリストの理屈と同じです。大義をねつ造する行為です。
交通ルールを完全に完ぺきに守れとは言いません、私だって違反はします。ですが「満足に駐車場代も払えないならクルマなんて買うなよ!」という私の理屈は間違っていないと思います。
私は毎晩この道に右折で進入するわけですが、そのまま行けば左車線に入る訳です。しかしながら左車線は駐車した車で埋まっている。仕方がないので私は右車線を走ることになります。つまり逆走です。
ある日ふと思うのです。
何故私が、彼らのために逆走という法を犯し、あまつさえ危険を冒しながらこの道路に進入せねばならないのか? と。
決めたら早い。警察に通報です。
「ええとですね、○○というマンションの間の道なんですが……」
「はい、では確認しておきます」
これが一日目。
次の日解消しているのかと思いきや、状況は変わらず。
「あの、昨日も電話したんですけど、取り締まってもらいました? 全然減ってないんですけど」
「確認します」
これが二日目。
それから一週間くらいこういうやり取りが続く。
「で、さぁ? 仮にだよ、オレが他人の家の前の道の上に車を置いていても構わないという訳ね? おたくらは」
「いえ、それは通報されれば我々は取り締まる訳ですが、当事者から通報があった際にであってですね……」
このような訳の分からないやり取りになったのは、その道路が駐車禁止の標識が立っていないグレーゾーンであり、なおかつ私はその道路を通行する一市民であり、近隣住民ではない、という事かららしい。
つまり通行するだけの人間は当事者には含まれない、という事だ。
怒ったね。じゃあ他の人も巻き込んじゃうからな。当事者巻き込むからな。
私がこの一件更に腹立たしく思っていたのは、このセフティエリアの目と鼻の先に交番があることも関係している。交番から見える位置なのに堂々と違法駐車をする。道路を埋め尽くすような。
それを見て見ぬふりをする警察官の神経たるや、どうなっているのかと。
そんなわけで、まずはマンションの管理人から管理団体まで片っ端から電話をする。もちろん怒りに任せて罵詈雑言を交える、理路整然と。受付に出るのは大抵おばちゃんだが、そんなの関係ない。
酷い電話に出てしまったという後悔をさせるくらいでないと適当にあしらわれてしまうから、問題になるくらい電話する。現状把握するまで電話を繰り返す。
一般企業の場合クレームはいきなり本社あてがおすすめです。出来るだけ中心部に近い所を攻撃したほうが効果的です。そのマンションの管理棟などではなく、管理人を管理する部門、それがないならオーナー、公共施設なら市役所、区役所、できる限り上を目指します。
その次に、交番に出向く。
この交番、普段からあまりいない。私が行った時もいなかった。なので調書みたいな紙を拝借して、丁寧に地図まで書いて現状を把握するように指示する。「迷惑なので取り締まれ」と書き置く。
このような直接交渉は割に効果があるのですが、いわゆる通報というのは効果が出にくい。
警察はしばしば途中で命令が切れるらしい。いや、もみ消されるといったほうがいいのか。
聴いてない、知らない、確認します、これで場を収めてしまう。対応した人間の名前すら告げない。一般企業なら当然のことが未だに出来ない。
我々車に乗る人間はしばしば闇討ちの様な卑怯な手段で取り締まりを受けている。理不尽だと感じた方も多いでしょう。
無論違反したほうが悪いのだが、このようなケースを垣間見ると「見つからなかったら勝ち」「警察に捕まるのは運が悪い」そのような理屈がまかり通る意識が出来上がっても仕方がないでしょう。
私は正義の人ではないですが、自分の不利益をあえて被る気にはなれません。
これは後に知ったことですが、通報にも二種類あり、地元警察への直接通報と110番通報です。
地元警察は対応が早いような印象を受けますが、これまるで逆なところが一般企業とは違うところで、緊急性が高ければ高いほど、110番すべきです。110番に入った案件は全て「事件」として受理され警察官は即時対応を要求されるということだそうで、警察官自身も「警察に電話しないで110番してください」という笑い話のようなことを本気で言われます。
と、言いますのも、地元警察は選り好みをします。後回しにしてもいい案件はひたすら後回しにします。この地元警察署への電話というのは「一般通話」と見做され、電話を受けた者の胸三寸で割り振られるため、対応するかどうか、対応する人材をどこから捻出するかというのをその場から決めなくてはいけない。内部手続き的に煩雑なんですな。
しかしながら、110番通報は「緊急」ですからラインが違い、トップダウンで地元のすべての警察官に連絡が行きますので、対応せざるを得なくなる&もっとも近い警察官が駆け付けることになるためです。
で、事の顛末がどうなったのかというと、ある日を境に違法駐車車両は消えてなくなりました。そして程なくして二百メートルの道路の出口と入口に「駐車禁止」の標識が立ちました。
今では車が停まっているという事すらなく、快適な通行ができます。
これらがすべて私の功績かというとそうとは断定できませんが、口火を切り問題視し、実際に問題にしてしまった自信はあります。動かないものを動かした。
私と同じように道路に不満を持っていた人間も多かっただろうと思います。
その方々の声もあったかもしれません。
最悪、マスコミにネタフリしてやろうとも思ったのですが、そこまでに至らず私自身内心ほっとしています。だって、すごい労力使ったもん。すごい時間浪費したもん。
私は私が道を快適に安全に走るためにやったことです。そして普段の警察への鬱憤を晴らしただけです。
だけど結果として誰かのためにもなった。
どうぞ皆さん、ヒーローではないのですから巨大な悪とは戦わなくともかまいません、小さな悪からぶっ潰しましょう。所詮は小さな人間なのですから、そのくらいが丁度いいです。




