26 土用丑の寝床
ほうきを逆さまにして手ぬぐいをかぶせておくと、長居する嫌な客を追い返すという民間信仰がございます。
これは、はっきりとモノをいわない京都人らしいことから、理由として「掃除の途中なんだから早く帰ってほしい」といった意味と捉えられがちではありますが、実は間違いです。
古来よりほうきとは祭事や呪術に用いられることが多かったようで、まあ西洋でも魔女がほうきに乗って云々というくだりはその辺もあるのかもしれませんが、「ほうきをまたぐ」というのはよくないこととされていたり、「ほうきを妊婦の枕元に置くと安産になる」といったことはかなり昔から言われているようです。それも一部の地域だけではなく洋の東西を問わず幅広く。
祭事などで「御祓い」という言葉がありますが、やはりこれも邪気を「掃う」という意味でありましょうから、いわば汚れを掃うという行為は神事につながると考えたのではないかと思われます。
風水などでも日当たりが悪く、風が吹き込む北側は湿気や埃がたまりやすく、玄関を据えるのは禁忌とされていますが、諸説あれど一理あるとは思います。といいますのも、私は風水なんぞはまるで信じていませんが、玄関というのは家の中でもかなり汚れる場所であるため(ある意味外界と家の境界、結界の入り口)日々綺麗に保つという努力や思考がなければすぐに汚くなってしまいます。自身がその家に入るときも、客人を迎えるにしても、気分がよくないことは確かでしょう。
その戒めとして、玄関を清潔に保たないのは運気が下がる、あるいは不幸になる、といった言われをするのは一定の説得力はありましょうなぁ。
また、人間は門というものを非常に重視するきらいがありますから、入り口を豪華な、あるいは綺麗な門で飾ることを是とします。門が立派なら大体家も立派であるのですが、見栄っ張りのために門だけ豪華にしている人というのは相当な変人だと思いますので、そういうケース以外では、大体門構えと中身は比例しています。
ただ、門が立派でも人間性が立派だというわけではけしてないので、このあたりの見極めは大事だと思います。
特に、京都の場合は特殊なのですがご存知のように「うなぎの寝床」と言われる町屋造りの住居があります。これは江戸時代に京都が間口の大きさに比例して課税した間口税により形成されたものであるとされています。
つまるところ通りに面した間口の幅が狭いほど節税につながるということに由来するという庶民の知恵を意味するのですが、実は諸説ありというか、では間口税が導入されるまではうなぎの寝床ではなかった、のかというとおそらくそうではないと思われるのであります。
といいますのも、間口を狭く見せることで何らかのメリットを見出す以前に、所有する土地という概念が既にあったはずで、間口税の導入とともに土地の分櫃を行ったとは考えにくく、ひとえに街道と街道の間に無駄なく土地を活用し住居を建てるにはああいった造りにならざるを得なかったのではないかと。
ま、計画都市ではあったものの、住む人のことまでは考えていなかったんでしょうな。
で、ウナギというと土用の丑と来るわけですが、「2 二月の作為」で少し触れてますが、これなんだか知っている人は少ないと思います。
土用の丑というのは夏にしかないように思われがちですが、実際は年に六回ほどあります。
丑の日にウナギを食べるという風習が広まったのは江戸時代で、もっともな説は発明家で有名な「平賀源内」の発案とされており、彼はアイディアマンとしても活躍していたようで、ウナギの売り上げが芳しくない鰻屋の主人から相談されたところ「本日丑の日」と張り紙をしろとのこと。
これは丑の日に「う」のつくものを食べると夏バテしない、と言われているからだとされておりますが、ほかの「う」のつく食べ物でもいいようです。
もっとも夏の土用というのは、ウナギも体力を使っているためあまり脂がのっておらず、冬や春に比べると味が落ちるので、鰻屋の売り上げも落ちるというのは至極真っ当ではあるかなとは思われます。
このケースは民間信仰を利用して商売に結び付けた
このようにウナギは昔から精のつく食べ物であるとされておるのですが、「うなぎパイ」のキャッチフレーズがこれまた有名な「夜のお菓子」となっているのは男女の事始めの意味合いを乗せたわけではございませんで、「夜に出張から帰ってきたお父さんが、家族と茶の間で団らんする」といったほのぼのニュアンスで「夜の~」とつけられたそうです。
が、結果として誤解されたまま「大人のお菓子」的ニュアンスでとらえた方々が多く、ネタにもなりがちだったため、メーカー側もあえて否定せず放置した結果、今日に至るヒット商品となったのだそうな。
で、オチですか?
ううん……どれも思っているほど深くない、ってとこでしょうか。




