第1話 メンティローサ
「7号機は……?」
「はい。変わりありません」
「そうか……では、テストをしようか。5号機、6号機に続き3体目だな」
「よろしいのですか? では、舞台はどのように…?」
「あぁ……次の舞台は……“高校”だ」
「……了解しました、博士」
――― 今より遥か未来のお話。
そこは、アンドロイドの研究が進んだ世界だった。
限りなく人間に近いロボット、通称アンドロイド。
泣き、笑い、そして怒る。そんなアンドロイドが誕生していた。
しかし、世間にはまだ公表されていない。
本物の人間そっくりに作られたアンドロイドは、実際に人間社会の中で生活できるかどうかを秘密裏にテストする段階へと来ていた。
完璧かと思われていた。アンドロイドが人間のように生きる世界が遂に来たのだと。
しかし、そんなアンドロイドにも出来ないことが2つあった。
それは
“嘘をつくこと”と“恋をすること”
これは、そんなアンドロイドと人間達の物語。
――――――
チャイムが鳴り、朝の学活が始まった。担任の先生が教室に入ってきて、開口一番にこう言った。
「今日から、新しく転校生が来ます。紹介します。どうぞ」
静かに教室に入って来たのは女の子だった。長くて黒い髪が特徴的で、笑顔の素敵な子だ。
「こんにちは。今日からお世話になります。ローサです。よろしくお願いします」
名前から外国の人かと思われたが、顔立ちはどう見ても日本人であった。
ハーフでも、クォーターでもない、純日本人という顔だった。
「ナオ、何見とれてんだよ」
ナオと呼ばれているのは、このクラスの男子である了本直正。
後ろの席に座っている友人が、直正のことを茶化している。
「はっ?! ぜ、全然見とれてないから!!」
「いやいや、いいんだよ。美人だよなー……」
直正は、確かに美人であるとは思っていたが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
こんな時期に転校生なんて珍しい。何か事情でもあるのだろうかと考えていた。
その日は、美人の転校生が来たと学校中はその話題で持ち切りだった。
「ローサちゃんって、絶対良いとこのお嬢様だよね」
「うんうん、分かる分かる! 言葉遣いもすごく綺麗だし、ハキハキ喋るから聞き取りやすいし! あれは育ちが良いって証拠だよねー!」
「でも、どう見ても日本人なのに、何でローサっていう名前なんだろうね? 最近流行りのキラキラネーム?」
「えーっ、育ちが良いのにキラキラネーム? 外国でも通用するようにって考えて親がつけたんじゃない?」
「いや、それにしては外国に寄り過ぎでしょ!」
そんな風に周りは陰で盛り上がっていた。
他のクラスからもローサのことを見に来る男子がたくさんいた。
「おい……あれが転校してきたローサちゃんだぜ……」
「やべー……おれめっちゃタイプかも」
「お前、抜け駆けは許さないからな!!」
「分かった分かった、よし、ちょっと声かけて来ようゼ!!」
「はい、スト~ップ!! あんた達、どこに行く気?」
「えっ……ちょっとローサちゃんのところへ……」
「あんた達見たいな下心の塊の男子のことは、ローサちゃんは相手にしませーん!! お引き取り願いまーす!」
すっかりローサと仲良くなった女子達が男子を遮り、ローサのことを守っていた。
同性にも好かれるタイプの人柄で、すっかりたくさんの女子と仲良くなっていた。
その様子を直正はただじっと見ていた。
「おい、ナオ。そんなに見つめてどうしたんだ? やっぱり気になるのか? 男として」
「うーん、いや、そうじゃなくて……。なんか……変なんだよ」
友人は首をかしげた。直正の言っていることの意味が分からなかった。
「え、変って……何が?」
「うーん、何がって言われると困るんだけど……」
直正は、昔から人間観察が趣味であった。休み時間にはよくボーっとしては、いろいろな人を眺めている。そうして、あの人はこういう癖があるとか、この人はどんな特徴があるとかいったことを考えるのが好きだった。
その経験から、直正はローサに対してどことなく違和感を覚えていた。今まで見てきた人には無かったものがある、または今まで見てきた人にあったものが無いような、そんな気がしていた。しかし、それが一体何であるかは、はっきりと分からなかった。
「……やめた! いくら考えても分かんないや! どうせ、気のせい気のせい」
そして放課後。ローサに違和感を覚えていたことなどすっかり忘れ、直正は一人で家に帰っていた。
すると、途中で同じく一人で帰るローサにばったりと遭遇した。
「あ、ど、どうも。同じクラスの直正です。あー、気軽にナオって呼んでください」
突然の出来事に、少し動揺しながらも一応挨拶をする。
ローサからの返事はなかった。まじまじと直正の方を見ている。
直正は変な雰囲気を感じ取っていた。不思議な空気に耐えかねて、ローサに質問をした。
「あ、あのー……出身はどちらの国なんですか?」
「私は日本で作られました」
「あ、日本人なんだ。……って、作られ……? え?」
「はい、そうです。私の名前は“メンティ・ローサ”。日本で作られたアンドロイドです」
「……えぇっ?!」