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07 貴族とバナナ




 昼過ぎに勢いよく入り口の扉が開く音がした。とはいっても乱暴に開けた訳では無い、目立つ為にわざと音が鳴るように開けた感じだ。捕虜達のざわつく感じから歓迎されてない来訪者なのが解る。


 「あなた達なに休んでるの! さっさと作業を始めなさい」


 「準男爵様、今日は休む様に指示がでていまして……」


 「私が後を任されたんだから私の言う事が優先されるに決まってるでしょ!

私は男爵なのよ、平民が貴族の言う事にたてつく気!」


 ヒステリックな金切り声を発した男を兵士が執り成そうとするが無理らしく兵士は牢屋を開けると捕虜達を連れて行こうとする。


 「それから貴方、さっき私の事を準男爵って呼んだわね、次からは男爵様と呼びなさい。あの小娘が余計な事を言わなければ……。


 それに、ここで小娘以上の成果を出して男爵に戻るのだから準と付ける事を禁止します! いいですね?」


 ……あ~、うん。 こいつはヤバイ、俺の国にもこんな奴いたから解るわ。

【自分が正しい=他人の意見は間違い】みたいな自分以外の考えを否定する奴。


 なまじ権力持ってるだけにタチが悪いんだ、何か言えば否定されたと勘違いしてヒステリー起こして騒いだ挙句、敵意剥き出しで無茶振りしてくんだよな……。



 ――その日から数日間、休み無しで早朝から深夜まで重労働は続いた。


 彼女以上の効率を出せていた所為かあの男も上機嫌だったが二週間としないうちに作業ペースは遅れだし、二十日手前で本来の予定より大幅に後退していた。


 こうなるともう兵士達では手に負えなくなり、誰もが彼のヒステリーを聞き流すだけになった。

 

 「私の言う通りに動けばそれでいいの! だから遅れたのは全部あなた達の所為よ。 私は悪くない、出来ないのは無能なこいつらが悪いの。


 ……そうだ、無能な捕虜に任せたのがいけないのなら、あなた達も一緒に作業なさい。私の国の兵士が無能なわけ無いわよね、なら遅れた分も取り返しなさい!」


 無茶だ、人手を増やせばペースは上がるだろうが疲れきった捕虜に数人加えた所で今更追い付くわけが無い。


 流石に強制労働の手伝いは嫌なのだろう、兵士達も必死で宥めようとするが最後は【貴族の命令】に負けてしまった。


 兵士を加えたものの遅々として作業は進まず一月を過ぎた頃、準男爵のキレっぷりが頂点に達する。いや、焦りが爆発した。


 拷問係である彼女が帰還するとの知らせがあったのだ。


 「このままでは無能なあなた達の所為で私がお叱りを受けるじゃない! どうするのよ。何で思い通りにならないの、私はあなた達と違って優秀なの!貴族なの!失敗なんて辱めは嫌なのよ!


 そうだ、全部貴方の指示だった事にしなさい。そして責任を負ってここで死ねばいいんだわ、そうしなさい。これは命令よ!」


 「無茶です。後任された事は他の方々も知っています、それは通りません」


 「じゃあどうするのよ、他に汚名を返上出来る功績なん・て……あるじゃない!カギよ、カギを渡しなさい! あの小娘が出来ない事を私がすればいいのよ」


 「出来ません。こちらの事は男爵様には任されてません」


 「いいからカギを渡すの! 平民と違って貴族の私なら出来るの! 例え手足を切り落としたって聞き出して見せるわ」


 扉を設置した理由がよく解ったわ、開いたが最後殺されるな。兵士さんよ頑張ってくれ。俺はまだ死にたくないぞ。


 「そんな事をしたら死んでしまうかもしれないじゃないですか」


 「あの小娘は死なせなかったじゃない! 平民に出来るなら私にだって出来るのよ! 大丈夫、死ぬなんて私が許さないから、貴族が命令すれば・死な・ない・の

 キヒヒヒヒヒヒヒ…… はっ、早く…カギ…ちょうだ・い」


 シャッ、聞き覚えの有る細い金属の擦れる音。抜刀したのだろう、直後に階段を駆け上がる足音が一つ聞こえる。 ……逃げたな


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!


 扉を剣で叩いてる音が聞こえる。設置してた時の感じだとさほど頑丈な板じゃ無かったし壊されるのも時間の問題だろう。


 少しして板に小さな穴が複数開いて光が入り込むと


 バキ! ガリッ!


 木の砕ける音に変わり、穴が大きくなると男爵の顔が見えた。口は涎と泡でまみれ服まで垂れている感じで、目はもう正気を失っているのが見て取れる。


 あ、こりゃ完全に死んだな。覚悟を決めとこう。


 「ヒー ヒー ヒー ヒー ヒヒヒヒヒ……」


 扉が壊されると息を荒くした男爵が剣を振り上げて近寄ってくる。それ尋問する気無いだろう、一撃だなこりゃ。


 男爵が一歩踏み出した瞬間、『カンッ!』乾いたような硬い音が響いて男爵が倒れこんだ。


 カン、カン。 男爵の頭に当たった何かが床を二・三度跳ねて停止する。


 ……硬さを思わせる音とは不似合いな黄色い物体。 バナナ? 凍ってる?


 見ると入り口の方に彼女が複数の兵士と共に立っていた。



 「そのバカを拘束しろ」




 ――彼女の声を聞くと、安堵からか全身の力が抜けていた。






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