05 待遇とバナナ
「――いってらっしゃい」
ローテーション初日、三班を残して捕虜達が作業に行くのを見送ると彼女は箒と濡れ雑巾を複数三班の牢屋に入れて掃除をするように指示をして出掛けて行った。
掃除が終わる頃に彼女は兵士を二人連れて戻ってくる。後ろの兵士は見かける顔だ、よく彼女の手伝いをしているが護衛兵か何かか?
拷問係に護衛が付くとかありえんな、新兵に雑用させてるんだろう。
「これから三人づつ風呂に入ってもらう、順番は班長に任せるよ」
即座に最初の三人が決まると、牢屋から出されて新しい服を手渡していく。
「手抜きしないで綺麗に洗うんだよ、一組一時間までね」
一組目が帰ってくる頃には掃除も終了していた。その後も兵士に連れられて出て行く事数回、全員の入浴が終わると時間は昼前だった。
彼女は何やら料理を作っているが見た感じかなりの量だ。それを人数分の器によそると『ほら、食え。食ったら後はゆっくり休め』と料理を牢屋に入れていった。
すると牢屋から『うめぇ!』とか『こんなの食った事が無い!』とか褒め言葉が次々に聞こえてくる。いいなぁ……料理の味なんて忘れちまったよ。
俺も食いたいとフガフガ唸ってアピールすると引き出しからバナナを出したので即座にアピールを止めて静かにした。 畜生、こっちの待遇も改善してくれよ。
夕方兵士達が帰ってくる、何時もより三時間ぐらい早い帰りだ。
「おかえり。じゃ、明日は四班が休みだよ」
本を読みながら声だけ掛ける。あれは兵士に指示しているのか捕虜に言ってるのかどっちだろうか? 今まで挨拶なんて無かったのに。
帰ってきた捕虜達は三班の牢屋を見て『うぉっ! 綺麗』とか驚いている。
「おう! 掃除もしたし風呂にも入ったんだぜ。そっちはもう終わりか?」
「あぁ、今日からこの時間までになったんだよ」
「俺ら明日休みだから張り切っちまって、ヘトヘトだよ」
「だけど昼前と夕方前に短時間の休憩があんだよ、しかも昼休憩も一時間!」
「こっちもスゲー事あったんだぜ、四班は明日を楽しみにしとけよ。驚くぜ!」
「何だ秘密かよ、気になるじゃんか」
それぞれが興奮気味に笑顔で状況の説明をしている。捕虜のくせに元気だなぁ。
……別に外に出られる事が羨ましくなんて、いや、羨ましいよ! くそっ。
そしてローテーションも十週を過ぎた頃には待遇はかなり良くなっていた。
最近は監視の兵士無しで捕虜が外へ出られる時がある、入浴もその一つだが便所も以前は牢内の桶だったが今は一人づつなら外の便所の使用も許可されている。
彼らが監視なしでも大人しいのには訳がある。以前に二班が牢内で喧嘩をしたのだ。彼女の静止も聞かず喧嘩を続けた彼らに下ったのでる【バナナの刑】が!
一度部屋を出た彼女は兵士二人を連れて来ると班長を引きずり出し、見せしめとばかりに中央に用意れた台に四つん這いにして固定するとバナナを捩じ込んだ。
その後も二名ほど引きずり出され台に固定する。『おまえがヤれ』と班長にバナナを二本渡すと、班長は素直に従った。
「連帯責任だ。班長、後は任せる」
班長と開放された二名はバナナを人数分受け取ると無言で一人づつ牢屋から引きずり出し、台に固定してバナナを捩じ込んでいく。
その目には明らかな怒りと遣る瀬無さが混同しており、そんな目が一人ずつ増えては壁際に立ち”まだ”の捕虜達を取り囲むように静かに見おろした。
意図しての事だろうか、喧嘩をした張本人が最後に残される。渡された中で一番太いバナナと共に殺意にも似た感情が二人に向けられていた。
そして全員の罰が済むのを見届けた彼女は
「私が良いと言うまで抜くな。
もし出してみろ、その本数分追加と休み無しにするよ」
誰も何も言わなかった。ただ、死んだ魚のように虚ろな目をして微かに頷くので精一杯な様子だった。
彼女と連帯責任の怖さを身を持って知ったのだ。そしてその光景に他班の全員も凍りついていた。
あの日から捕虜達は彼女に従順だ、だからこそ多少の自由が許されたのだ。
俺も最初の質問の時、素直に話していれば違ったのかな? まぁ、待遇が変わると知っててもと言わないけどな。今の待遇も殺されるよりマシだし。
そんな事を考えていると何処か機嫌のいい彼女が外出から帰ってきた。
「喜べおまえ達、作業状況がすこぶる良いからご褒美をあげるよ。
まずは各班から二名選出、外に藁と布が用意してあるから搬入して。
残りはそれで寝床の作成だよ」
「「「「sir.yes sir」」」」
班長四人の声がハモる、お前ら何か間違ってないか? 色々と……
捕虜達は喜々として寝床を作り始める。そうだよなぁ、俺は簡易ベッドで寝ているから気にも留めなかったが石の床だったもんな、そりゃ嬉しいだろうさ。
この時、俺達はまだ後に起こる悲劇を知る事はなかった。とか言ってみる(笑)
――やべぇ、もしかしてフラグ立てちゃった?