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04 団体客とバナナ




 あれから一年半、一日三回流動食を流し込まれるだけで変化は無い。


 たまに同居人が連れて来られるが数日でオサラバだ、そんな生活にも慣れた頃、団体客が遣って来た。


 その服装には見覚えが有る、隣国の兵士だ。三十人以上いるだろうか次々に牢屋に入れられて行く、捕虜になったのだろうな。


 戦況が知りたいがこの状態では聞こうにも声は出せない。


 そんな捕虜達が部屋に入るなり驚いて『オークだ』と口々に呟く。


 え? 何処にオーク? あたりを見渡すもオークなんている筈がない、ここに来て魔物が収容された所は見ていないのだ。


 「お喋り禁止、アレに話し掛けるのも禁止だよ。拷問されたくないでしょ?」


 えっ、マジ! オークいるの? もしかして奥の個室か?


 体を捩るがこの位置からだと扉は見えない。


 ……ちくしょう、一番長く居る俺だけ見れないなんてあんまりだ。


 個室が気になりながらも捕虜の方に目を向けると八~九人づつ牢屋に入れられて行く、流石にここからでは牢内までは見えないが久し振りの大勢の気配が新鮮だ。


 彼女は引き出しを開けるとバナナを数え始めて『人数分には足りないか』と残念そうに呟いていた。……人数分あったら何をする気だよ!



 翌日、彼らは朝に牢屋から出されると何処かへ連れて行かれ、夜に帰ってきた。

 疲れた様子を見ると強制労働させられているんだろう。


 強制労働の無い自分の境遇に『羨ましいだろう』と一瞬だけ思ったが、どちらかといえば普通に食事してるあいつらが羨ましかった。


 それでも羨ましく思ったのは最初の数日間だけで過酷な労働で日に日に窶れていく捕虜を憐れむようになっていた。


 そんなある夜、疲れ果てた彼らが帰って来るのと入れ違いに彼女は出て行った。


 牢に入った数人の捕虜が何やらブツブツと呟きはじめるが、何を言ってるのかまでは解らない。きっと幻覚でも見え始めたのだろう……可哀想に。


 二時間くらい経っただろうか、彼女は帰って来ると立て掛けてあった鉄の棒を持って鉄格子をガンガンと叩き始めた。 何をする気だろうと目を向ける。


 「起きろ~、大事な話だから聞き逃したら折檻だよ」


 疲れて寝ている捕虜も多数いたのだろう、苛立つ様に舌打ちをする音さえ聞こえてくる。


 「なんだ、思ったより元気だね。せっかく休みを貰って来たのに要らないか」


 全員耳を疑うも、そのうちの数人が鉄格子に体を密着させるように乗り出しながら『本当か?』とか『どうせ嘘だろ!』とかざわめき始める。


 「休みを貰ったのはほんと。とりあえず舌打ちしたやつと疑ったやつを一人一発づつ殴れ、そしたら明日は休み。……でも、信じないなら明日も重労働だよ」


 『どうする?』と顔を向かい合わせていたが、一人の捕虜が『ごめん、嘘でも俺は休みたいんだ!』そう言って殴ったのを皮切りに全員が殴り始め、それを見ていた彼女はウンウンと頷いている。


 「それで正解、おめでとう明日は休みだよ。それと――」


 左側手前の鉄格子を叩いて『ここが一班』、左手奥も叩いて『ここが二班ね』、と順々に叩いて四班まで作ると『じゃ、寝る前までに各班長を決めたら報告だよ』


 そこまで言うと椅子に戻って本を読み始める。


 暫くして『三班、班長決まりました!』休みが嬉しいのかやたら元気な声が聞こえた。


 早いのは良い事だ。と言われて『ありがとうございます!』と声を返している。悲しい兵士の性なのだろうか、こっちまで悲しくなってくる。


 その後も次々に班長決定の報告がされると彼女は部屋の中央まで歩いた。


 「班長起立。あ、名前は憶える気ないから顔だけ見せて。


 ……うん、憶えたから座っていいや。それじゃ一番早かった三班は二連休にしてあげる。そこから順にローテーションで休みに入ってもらうから。


 ってローテーションが解らないか? 明後日から三班、四班、一班、二班、の順に休みをあげる、二班まで行ったら三班に戻りで~まぁ、四日に一回休みだよ」


 「「「「「「「「「おぉおおおおぉぉぉぉ…………!」」」」」」」」」


 思わぬ待遇改善に自然と雄叫びが上がる。


 「ただし~、今までより効率が落ちたら休みなしに戻るから頑張ってよね。

 それと、誰か一人でも悪さしたら連帯責任でその班ごとにバナナの刑だよ。


 そのかわり効率の上がり具合によっては更なる改善も考えてあげるよ」


 彼女の説明を聞いた捕虜達は聞いた事の無い【バナナの刑】に首を傾げるも待遇の改善告知に『ありがとうございます!』と綺麗にハモった。


 「じゃ、明日は休みだから好きなだけ寝な」


 早めに牢屋の灯りを消した彼女はベッドに入ると天蓋を閉める。中で明かりを点けたのだろうロウソクの炎で天涯がオレンジ色に灯り、部屋を優しく包む。




 ――まるでランプのようだった。






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